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うふふ、ルピナス探偵団の憂愁

最近、ようやく『ルピナス探偵団の憂愁』を読んだ。津原泰水のルピナス探偵団シリーズの2作目にして完結篇である。

私は津原泰水が好きである。

津原泰水の文章は本当に美しいし、然し、少し癖があるのも事実だ。まぁ、それは彼の個性である。
で、津原泰水の作品ではnoteでも何回か書いたが、やはり『バレエ・メカニック』があまりにも素晴らしくて、何度読んだかわからないのと、文庫を3冊持っている。1冊はサイン入りだ。これはサインペンで名前も書いてもらったのだ。

それから『ペニス』。『赤い竪琴』。『たまさか人形堂物語』あたりが好きである。
『赤い竪琴』は、これまた傑作であり、道具立てがいちいち素晴らしい。
海洋を旅した詩人、楽器職人、ザトウクジラのソング。現代を舞台にした恋愛小説であり、主人公は30代のグラフィックデザイナーの女性だが、彼女と楽器職人の男性との恋物語であり、まぁ、『耳をすませば』みたいなものだが、それもそのはずで、これは少女小説の延長であり、そもそも扉には、『永久少女たちへ』と書かれている。まぁ、少女小説家が大人になった読者たちへ贈る物語なのだ。だから、ビターではあるが、そこに幻想の香りが漂い、恋心の煌めきも封じ込められている。

然し、『ルピナス』は1作目を読んだ時に肌が合わなかった。何故かはわからないが、あの、少女小説の、連作小説の、作り物めいた会話劇、その辺りがあまりノレなかったのである。
好きな作家でも、合わない作品はある。好きな人にも嫌いな部分はあるだろう。それと同じことである。
そして、同じような感覚を、津原泰水の作品だと、『クロニクル・アラウンド・ザ・クロック』シリーズや、『幽明志怪』シリーズでも感じたものだ。

『たまさか人形堂物語』シリーズでは感じなかった、津原泰水の醸し出すあの妙な作り物めいた均整のとれたダイアローグの作り込みにおいて、私は拒否反応を示すことが多く、上記は特にそれを感じて、『ルピナス』シリーズもそうだったのだ。
それと、基本的には津原泰水のキャラクターの名前の付け方が鼻につく。普通の名前がめったに出ないのである。

『ルピナス』シリーズはルピナス学園に通う女子高生3名、普通の子、男勝りのかっこいい系女子、めちゃくちゃかわいいお嬢様、という、作劇上、これほどまでにテンプレートはあるか?とも言えるキャラクターを主役に据えて、そこに博学の天然切れ者美少年キャラを配置して、この4人組が事件を解決していくのだが、まぁ、推理小説と云うよりも、青春小説であり、推理は味付けでしかない。そして、何よりも、続編の『憂愁』においては、その青春という一瞬の永遠を作り出すために、緻密な物語構成を章立てしてみせている。

特に、推理がすごいわけではなく、動機にせよ、トリックにせよ、甘々である。
大体、私はミステリー小説が嫌いである(ごめんなさい)。推理小説は肌に合わない。なので、登場人物の推理などはどうでもよく、そういう意味でいえば、今作は非常に読みやすかった。

今作は、主要人物の若き死から逆算して4篇の物語が綴られる。
それは、このミッション系の学園に育った少女たちの一人、その美しい乙女の人生を逆算し、神格化していく試みである。
なので、物語は過去へ遡っていくわけだが、彼女の死というのは冒頭で語れれていて、だからこそ、その女性の人生の苦しさと気高さを浮かび上がらせて、ただ一度だけの青春の季節を永遠の季節へと塗り替えているのである。

そういえば、津原泰水といえば、やはり金子國義である。
彼は少女小説作家として書いていて、そこから苦難の末にようやくものした長編ミステリ『妖都』において、金子國義画伯に装丁をお願いにお屋敷まで伺うのである。

一家に一枚、金子國義。銀座の青木画廊のスター画家。

金子國義の絵はたまに海外のオークション(きちんとした)で出品されていたりして、油絵で500万円とかするが、大変に美しい素晴らしい絵である。
私はどの部分に出ているのか確認していないので識らないが、テリー・ギリアム監督の『未来世紀ブラジル』の中でも作中に出てくるカットがあるらしく、言いましょうか、と聞かれた時に、金子國義は「カットされたら困るから、内緒にしときましょ。」と言ったエピソードがある。
金子國義は泉鏡花の『天守物語』が大好きで、文学では鏡花、それから永井荷風の『腕くらべ』が好きだった。いなせな話、耽美な話が大好きなのである。
彼のお屋敷は取り壊されて、不気味かつ幻想のお屋敷は地球上からまた一つ消えたわけだが、津原泰水が亡くなったのも、ある種一つの幻想の都市が消えたようなものであり、寂しい限りである。

まぁ、『ルピナス探偵団の憂愁』は前作よりは個人的に良かったが、やはりシュールレアリスムの匂いのする幻想の時間を描く津原泰水が、私にはお好みのようである。


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