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天文月報記事で読み解く天文学の発展〜インフレーションの痕跡を探る

皆さま、こんにちは。島袋です。

今回は「インフレーションの痕跡を探る」というテーマでお話したいと思います。

以前の記事でインフレーションについて軽く紹介しましたが、もう一度おさらいをしてみましょう。

宇宙の始まりに起きた宇宙の急激な加速膨張がインフレーションでした。インフレーションモデルは1980年代前半に佐藤勝彦氏やアラン・グース氏らによって提唱されました。以前の記事でも紹介しましたが、インフレーションは「密度揺らぎ」を生み出し、これが後に星や銀河のタネとなるため、宇宙の構造形成にとっても重要な出来事です。

さて、宇宙の構造形成にとっても不可欠な宇宙のインフレーション、実は未だに観測的な証拠は無いのです。「おいおい、そんなこといっても宇宙の構造形成にインフレーションは不可欠だし、銀河が存在しているということはインフレーションもあったということじゃないのか!」と思う方もいるかもしれません。ごもっともです。しかし、あくまでインフレーションは「宇宙の最初にインフレーションがあったと思うと、宇宙の構造形成を説明できるシナリオ」にすぎないのです。

そのため、「実際にインフレーションがあったという証拠を探す」ということはインフレーションの存在を確かなものとするためにも物理学、天文学にとって重要な研究テーマの一つなのです。では、どうやってインフレーションの証拠を探すのか?一つ目が「重力波」です。インフレーションのような宇宙な急膨張があったなら、時空が急激に歪むので重力波が生じるだろうということが予想されます(重力波については以前、こちらの記事で紹介しました)。しかし、地球に届くインフレーション起源の重力波は、ブラックホール合体の時に発生する重力波と比べるととても微弱なため、直接検出は難しいと考えられています。

そこで、現在、インフレーションの証拠を探る有望な方法として考えられているのが「宇宙マイクロ波背景放射にプリントされたB-mode偏光」です。宇宙マイクロ波背景放射(CMB)はこちらの記事で紹介していますが、宇宙誕生約38万年後の光で、ビッグバンの名残とも言われています。「B-mode偏光」という難しい単語が出てきましたね。まず、偏光とは何か?についてお話しましょう。

この記事を書いている現在は8月下旬で、日本では暑い日が続いていると聞いています。夏の日差しが厳しくてサングラスをかける人もいるでしょう。サングラスをかけると強い日差しが抑えられることを経験したことのある人は多いのではないでしょうか?実は、それが偏光の特徴です。太陽光を含め、携帯電話の電波などは「電磁波」と呼ばれますが、電磁波は電場と磁場の振動してる波です。太陽光はランダムに振動しているのですが、サングラスを通過するときには特定の振動方向しか通過することができません。この様な特定の方向に振動している電磁波のことを偏光といいます。偏光した太陽光しか通さないため、サングラスをかけると強い日差しを抑えることができます。この様子を示したのが下図です。

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(https://www.mirai-kougaku.jp/laboratory/pages/101201_02.phpより)

ちょっと難しい物理の話なので割愛しますが、インフレーションが宇宙の始めに起きたとすると、CMBにも特殊なタイプの偏光(B-mode偏光)が刻印されるという理論的予測されています。インフレーション起源でしかB-mode偏光はCMBに刻印されないため、CMBのB-mode偏光を観測することができれば、インフレーションの「間接的」証拠を手にすることができるというわけです(*注。厳密には、宇宙の構造により重力レンズ効果によってもB-modeも生成されるのですが)。さらに、CMBのB-mode偏光を観測することができれば、インフレーションのエネルギースケールなど物理的な情報を手に入れることができると期待されています。

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(長谷川雅也氏のスライドより)

現在、CMBのB-mode偏光観測を目指していくつかの観測プロジェクトが進んでいます。2014年には「B-mode偏光を観測した!」という報告がなされましたが、残念ながら解析のミスでした。

そんな、CMBのB-mode偏光観測の最前線に立っている研究者の一人が東京大学の茅根裕司氏ですが、茅根氏の記事を2020年9月号の天文月報記事で読むことができます。これまでの観測の歩みや現状、そして未来展望が語られており、着々とインフレーションの「スモーキング・ガン」に迫る様子を感じることができる大変面白い記事となっているので、興味のある方は是非、一読ください。

では、本日はここまで。次の記事をお楽しみに。

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