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天文月報記事で読み解く天文学の発展〜相対性理論と重力波

こんにちは、島袋です。

みなさんが今の仕事を志すきっかけとなった出来事は何でしょうか?私は現在、天文学、特に観測的宇宙論と呼ばれる分野を研究していますが、この分野の研究をしたいと思ったのは中学校2年生の時です。当時通っていた塾の数学教師の影響で、数学が面白いと思いました。そして、その数学を使って宇宙を記述することができる物理学という学問に惹かれました。そんな私が中学生の時に読んだのが下記ツイートで紹介されている二間瀬先生による相対性理論の本です。(ちなみに、のちに東北大学に進学した私は二間瀬さんのゼミを受講し、さらにその数年後、たまたま琉球大学にセミナーに来た二間瀬さんと一緒に飲む機会がありました。)

相対性理論は特殊相対性理論一般相対性理論があり、特殊相対性理論は1905年、一般相対性理論は1915年、かの天才物理学者アインシュタインによって提唱されました。

私が中学生の時に興味を持ったのは一般相対性理論です。一般相対性理論についてきちんと勉強しようと思うと物理学科の大学四年生相当の知識が必要なのですが、専門家に怒られるレベルで本当にざっくりと一言で説明してしまうと、「時空(時間+空間)は物質によって曲がる」という話です。このことを式で表したのがアインシュタイン方程式と呼ばれる以下の式です。

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何やら難しそうの式ですが、左辺は「時空の歪み具合」を表し、右辺は「物質(エネルギー運動量)」を表しています。つまり先ほど書いた通り、物質が存在すると時空が歪むということを表しています。

さて、この一般相対性理論ですが、宇宙を研究する上では欠かせない理論となっています。私の専門である観測的宇宙論の教科書の多くでは、一般相対性理論を出発点として、フリードマン方程式と呼ばれる宇宙の進化を記述する方程式が紹介されます。アインシュタインという天才が一般相対性理論を考えたおかげで、我々は宇宙について物理学的に知ることができるようになったのです。

そんな一般相対性理論、天体物理学的な現象として、「重力レンズ効果」や「重力波」、「ブラックホール」などの存在を予言しますが、今回は重力波についてお話したいと思います。

突然ですが、トランポリンを想像してみてください。トランポリンで飛び跳ねるとトランポリンが振動しますよね。ここで、トランポリンを「宇宙空間(時空)」、飛び跳ねるあなたを「何か重い物体」と考えると、「何か重い物体」が運動した時に「宇宙空間(時空)」に生じる波が重力波です。宇宙空間に存在する「何か重い物体」としては、例えばブラックホールや中性子星と呼ばれる星があります。重力波のイメージを描いたのが下の図です(米カリフォルニア工科大・ジェット推進研究所提供)

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さて、この重力波、アインシュタインが一般相対性理論を提唱した時代からその存在は予言されていましたが全く観測できませんでした。それは何故か?ずばり、シグナルが弱すぎるからです。重力波を観測するためには、「地球と太陽の距離で水素原子1個分の時空の変化」を捉えるくらいの観測技術が要求されるのです。めちゃくちゃ感度が必要ですね。

私が大学生の時は重力波の観測はまだまだ先だろうと言われていましたが、重力波の観測計画は数十年前から脈々と進められていました。過去の天文月報を見ると、1972年1987年1998年に藤本眞克さんが記事を書いています。これらの記事では重力波観測にむけてのプロジェクトが始まったばかりの時期の様子や、観測技術、また、日本での重力波観測への取り組みが紹介されています。1987年と言うと私が産まれた年で、1972年と言うと、私の両親が青春を謳歌していたくらい過去の出来事です。それくらい昔から、先人たちによって重力波観測を目指した取り組みが行われてきましたが、検出は困難を極めました。

しかし、ついに先人たちの努力はついに実を結びます。2015年9月、アメリカのLIGO研究グループたちによって重力波を初検出したのです。連星ブラックホールと呼ばれる、ブラックホールのペアによる重力波を初観測したのです。この観測によって世界中の天文学者は湧きました。(発表が2016年2月だったのですが、ちょうど私の学位審査の日の発表だったので、当時の興奮をよく覚えています)。尚、重力波の初検出に対して2017年にノーベル物理学賞が授与されました。ノーベル賞は数十年前の研究成果によって授与されることが多いのですが、初検出からわすか1年後にノーベル物理学賞が授与されるということは、いかにこの発見が物理学史において重要だったかを物語っています。

重力波検出を受けて、天文月報でも2016年6月号でも特集が組まれました。そして、その特集の中で「重力波検出結果の内容と意義」というタイトルで記事を投稿しているのが、上でも紹介した藤本眞克さんなのです。1972年の記事から44年後、重力波初観測の報に立ち会えたことはきっと嬉しかっただろうと想像できます。

2016年の重力波初観測の報告から4年が経過しましたが、今ではこれまで重力波が観測されなかったことが嘘のように重力波の観測が相次いでいます。「アインシュタインの宿題」とも言われた重力波。その重力波が観測され、重力波天文学という新しい天文学の分野が幕を開きました。日本でもKAGRAという重力波観測計画がついに動き出しました。これから重力波によってどんな新しい宇宙を観ることができるのか楽しみですね。

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