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【徒然草 現代語訳】第百十四段
神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。
原文
今出川のおほひ殿、嵯峨へおはしけるに、有栖川のわたりに、水の流れたる所にて、さい王丸御牛を追ひたりければ、あがきの水、前板までささとかかりけるを、為則、御車のしりに候ひけるが、希有の童かな。かかる所にて、御牛をば追ふものかといひたりければ、おほひ殿御気色あしくなりて、おのれ車やらむ事、さい王丸にまさりてえ知らじ。希有の男なりとて、御車に頭をうちあてられにけり。
この高名のさい王丸は、太秦殿の男料の御牛飼ぞかし。この太秦殿に侍りける女房の名ども、一人はひざさち、一人はことづち、一人ははふばら、一人はおとうしとつけられけり。
翻訳
今出川の大臣西園寺公相公が嵯峨へ赴かれた折のこと、有栖川の辺りにさしかかったところで水の流れている箇所があり、牛飼いのさい王丸が牛を追ったので、蹴り出した水が牛車の前板にはねてしまった、それを見た後部座席控えていた侍従の為則が、ありえないガキだ!こんなとこで普通牛を追い立てるか!と口汚く罵ったため、大臣はやにわに不機嫌になられ、お前、何様のつもりだ?牛を追うことに関してお前がさい王丸より優っているとでも云うのか。痴れ者めが!と為則の頭を牛車にガツンとお当てになった。
この名にし負うさい王丸は、太秦殿の公達がお乗りになる牛車の牛飼いなのである。なんでも太秦殿では、お仕えする女房たちの名前まで、一人は「ひざさち」、一人は「ことづち」、一人は「はふばら」、一人は「おとうし」と名付けられているらしい。
註釈
○今出川のおほひ殿
太政大臣西園寺公相(きんすけ)。鎌倉時代中期の公卿。西園寺家初の左大臣となった人物。奇矯な振る舞いで知られ、「増鏡」にも逸話を残す。
○ひざさちetc.
牛関連の名称(らしい)。
上流貴族ネタは、出来た人のより困ったちゃんのが楽しいですね。
追記
スティーブ・ジョブズや田中眞紀子の秘書なんかもこんな仕打ちを受ける日々だったんでしょうね。