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【徒然草 現代語訳】第八十三段

神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。


原文

竹林院入道左大臣殿、太政大臣にあがり給はむに何のとどこほりかおはせむなれども、めづらしげなし。一上にてやみなむとて、出家し給ひにけり。洞院左大臣殿、このことを甘心し給ひて、相国の望みおはせざりけり。

亢龍の悔ありとかやいふこと侍るなり。月満ちてはかけ、物盛りにしては衰ふ。萬のこと、さきのつまりたるは、破れに近き道なり。

翻訳

竹林院入道左大臣公衡公が、太政大臣に昇進なさるにあたり元より支障のあろうはずもないところ、珍しくもなんともない、左大臣で打ち止めにしようと仰って、サクッと出家なされた。それを知った洞院左大臣実泰公がいたく感心なさって、太政大臣になろうという野望はお持ちにならなかったそうだ。

昇りつめた龍に残された道は降りるだけ、そこに悔いが生じるのがならいということでございましょう。月は満ちれば欠け、物は盛りを過ぎれば衰える。何事においても、詰まった先には破滅が待ち構えているということに相違ない。

註釈

○竹林院入道左大臣
西園寺公衡(きんひら)。鎌倉時代後期の公卿。

○太政大臣
太政官の極官。ただし、適任者不在の場合は空席となる。

○一上
読みは「いちのかみ」。一ノ上卿(いちのしょうけい)の略。左大臣のこと。

○洞院左大臣
洞院実泰(さねやす)。鎌倉時代後期の公卿。

○相国
読みは「しょうこく」。国政を相(たす)ける人、つまり太政大臣のこと。中納言を黄門と云うのと同じ唐風の呼称。

○亢龍の侮
読みは「こうりょうのあなどり」。易経より。


昔はカッコいい政治家がいたんですねぇ。

追記

いつぞや歴代総理大臣て何人いるか知ってる?と訊かれ、咄嗟に50人くらいだっけ?と答えた私。63人ですね。ダメだ、こりゃ。

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