【徒然草 現代語訳】第百二十三段
神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。
原文
無益のことをなして時を移すを、おろかなる人とも、僻事する人とも言ふべし。國のため君のために、止むことを得ずしてなすべきこと多し。そのあまりの暇幾ばくならず。思ふべし、人の身に止むことを得ずしていとなむ所、第一に食ふ物、第二きる物、第三に居る所なり。人間の大事、この三つには過ぎず。饑ゑず、寒からず、風雨にをかされずして、閑に過ぐすを楽とす。ただし人皆病あり。病にをかされぬれば、その愁忍びがたし。醫療を忘るべからず。薬を加へて、四つの事、求め得ざるを貧しとす。この四つかけざるを富めりとす。この四つの外を求めいとなむを驕りとす。四つの事倹約ならば、誰か人の足らずとせむ。
翻訳
益体もないことをしてただダラダラと過ごしている人をこそ、ろくでなしとでも、下らないことばっかやってる奴とでもなんとでも好きに呼んでいい。国のため主君のために、どうあってもやらねばならないことはあまりに多い。そうなると、残された時間はこれっぽっちもない。今一度よく考えてみてはどうか。生きてゆく上でやむにやまれぬのは、第一に喰う物、第二に着る物、第三に住み処。人として避けられないのはこの三つのみ。飢えることもなく、寒さに震えずにすみ、雨風が凌げて、のんびりと暮らすのが人生の愉悦というものだ。ただ病だけは誰がいつかかるかわからない。病気がちになると、気持ちはひたすら沈み嘆きは止まない。やはり医療はないがしろに出来ない。上記の三つに薬を加え、この四つを求めても得られない者を貧者と云う。反対にこの四つが充分得られているなら、その人は富める者である。この四つの他になにがしかを求めて生を営む、これを奢りと云わずしてなんと云おう。倹しいながらも四つが足りているなら、不足を嘆くなど身の程知らずというものだ。
註釈
○僻事
読みは「ひがごと」。しょーもないこと。
○居る所
読みは「おるところ」。
○楽とす
読みは「たのしびとす」。
理屈っぽくて説教臭くてあまり好きではない段です。
薬に対する盲目的な信仰って、早この頃からあったんですねー。
追記
直接関係ありませんが、昭和も半ば頃までは「本屋と薬局は潰れない」と云われたものでした。