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【徒然草 現代語訳】第百二十二段

神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。

原文

人の才能は、文あきらかにして、聖の教を知れるを第一とす。次には手書く事、むねとすることはなくとも、これをならふべし。学問に便あらんためなり。次に醫術を習ふべし。身を養い、人を助け、忠孝のつとめも、医にあらずはあるべからず。次に弓射、馬に乗ること、六藝に出せり。必ずこれをうかがふべし。文武医の道、誠にかけてはあるべからず。これを學ばむをば、いたづらなる人といふべからず。次に食は人の天なり。よく味を調へ知れる人、大きなる徳とすべし。次に細工、萬に要多し。

この外の事ども、多能は君子のはずる所なり。詩歌にたくみに、絲竹に妙なるは幽玄の道、君臣これを重くすといへども、今の世には、これをもちて世を治むること、漸くおろかなるに似たり。金はすぐれたれども、鐡の益多きに如かざるがごとし。

翻訳

人の才能というものは、古典に精通し、聖人たちの教えを熟知していることが第一。次いでよく字を書くこと、殊更書の専門家になる必要はないが、ひとわたりは習っておくべきだ。何より学問に役立つ。次に医学をおさめるべきだろう。自らの身を養うにせよ、人を助けるにせよ、また忠勤に励む際にも、医学の知識がなければ話にならない。そして弓を射、馬に乗る、このふたつは六芸の内にも数えられている。このふたつは外せない。詰まるところ、文、武、医の三つの道はひとつとして欠けてはならない。三つとも学ぼうとする人を、無駄骨折りと嘲けるなかれ。その上に、食は人間の根幹。料理上手は偉大な才能と云うべきだろう。さらに付け加えれば細工、この才はありとあらゆることに役立つこと請け合いだ。

数え上げればきりがないが、一方で多芸多才は君子の恥ずるところでもある。詩歌に秀で、音楽の上手こそは幽玄の道を極めるに欠くべからざるもの、宮仕えにおいて最優先と見られているとは云え、昨今はこのふたつをもって世を治めることが徐徐に難しくなってきているようだ。金は確かに優れているものの、役立つことにおいては鉄にとうてい及ばないのと同様だろう。

註釈

○便
読みは「たより」。

○弓射
読みは「ゆみい」。

○六藝
読みは「りくげい」。礼、楽、射、御、書、数。御が馬術。

○多能は君子の云々。
出典「論語」。

○絲竹
読みは「しちく」。管弦に同じ。


この頃はすでに歌が巧くて楽器が上手でも出世出来なくなっていたんですねぇ。
今じゃ英語がペラペラでパソコンに通じていても特に重宝がられないのと同じでしょうか。

追記

この全部にかなっている人、世の中に五人くらいはいるんでしょうね。

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