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【イベントレポート】Build.Lunch Session ” 不確実なDXを解き明かせ 〜新規事業 × バックキャスティング思考のすゝめ 〜”

2021年6月23日にオンラインイベント "Build.Lunch Session ” 不確実なDXを解き明かせ 〜新規事業 × バックキャスティング思考のすゝめ 〜”  を開催しました。

"Build Lunch Session"とは
DXの概念論や理想論ではなく、現実的に課題を解決するためのノウハウ、メソッドや国内事例に注目し、国内リーディング企業とともにDXの実現に欠かせないポイントについて対話するランチトークセッションです。

今回のテーマは”革新的なアイデアを俊敏に事業化するための、” 不確実なDXを解き明かせ 〜新規事業 × バックキャスティング思考のすゝめ 〜” 。

イノベーション創出のための重要な課題アプローチ方法である "バックキャスティング" ですが、不確実性が高い新規DX事業のファーストステップとして "フォアキャスティング" による課題アプローチを採用することも重要な選択肢の一つです。 本セッションでは、公開事例の中にある課題アプローチ方法を紐解きながら、DXを成功させるポイントについて語っていただきました。

本記事では、パネルディスカッションの様子をお届けします。
前回のセミナー記事はこちらから

【登壇者】

小野寺ウェビナー

小野寺  宜宏  Engagement Manager (Buildサービス推進チーム)
多数のビジネス(電子マネー、ソーシャルゲーム、ロケーションテック、AI)で事業開発に従事。未来を見据えるクライアントの新規プロダクト創出をbuild serviceで実現すべく、その支援に奔走中。

中島ウェビナー

中島 健  Cloud DevSecOps (Buildサービス推進チーム)
CTCに1999年入社。ソフトウェアプロダクトのプリセールスエンジニアを経験後、オープンソースプロダクトの案件支援とトラブルシュートを担当。その後、プライベートクラウドの基盤を作るOpenStack を担当後、パブリッククラウドを担当するようになり現在に至る。

伊澤

伊澤 和宏氏 (㈱グッドパッチ/デザインストラテジスト)
ハードウェアのデザイナーとしてメーカーとコンサルティング会社に従事後、グッドパッチに入社。
現在は、デザインストラテジストとして、ビジネスとデザインを繋ぐ役割の仕事をしている。主に新規事業開発や、既存事業の改革支援協力を担当。

フォアキャスティングとバックキャスティングとは

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伊澤:まずフォアキャスティングというのは、現状の実績を元に「現在の延長線上に想定される未来」を描く思考方法です。いわゆる積み上げです。実績とか課題とか。バックキャスティングは「将来あるべき未来を定義して、そこからプロセスを考える」という思考法です。
少し、豆知識をお伝えします。元々ビジネスマンはフォアキャスティングで物事を考えるケースが多かったのですが、人類が環境問題に直面したことをきっかけにバックキャスティングという概念が広く使われるようになったと言われています。様々な環境破壊が進み、「人間が住み続けられる地球ってどんな状態か?」というものを定義して、「今すべきことは何か?」「CO2削減しよう」と考えて取り組んだことで広まった感じです。

それぞれどんな特徴を持っているかと言うと、現状の強みを活かした施策を立案したいのであれば、フォアキャスティングの思考が有用だと思います。ただ、過去の情報をベースにしているので、例えば前年比120%とか、既存の固有技術を活用しようとか、どっちかというとイノベーティブなアイデアに辿り着きにくいという一面を持ち、堅実なアイデアや堅実な未来になりがちです。かつ実績を積み重ねて次なる打ち手を考える時、未来が固定されずぶれていく。それがフォアキャスティングの特徴かなと。

一方でバックキャスティングは、未来から逆算するので、目標が明確です。基本的にはブレることがなく、比較的視座の高いものになりやすい。挑戦的な未来になりやすく、ステップをそこから考えるとイノベーティブな考えに辿り着きやすいです。ただデメリットもあり、将来こうすべきだという未来に重きを置きすぎると、プロセスが無茶なプランニングになってしまうとか、短期的なものが描きにくいというデメリットがあります。つまり、どちらの方が優れているということではなく、それぞれに得手不得手があるということです。

バックキャスティングの例としてよく用いられるのが、「アポロ計画による月面着陸」の話だと思います。ジョン・F・ケネディが「10年以内に人類が月面に行き、無事に戻って来るんだ」というありたい未来を定義して、それに携わる人が全員共通認識を持つことができ、「じゃあ月に行くには人が乗るスペースシャトルが必要で、そこにはこんな機能が搭載されたコンピューターが必要で」と逆算でき、その全てがイノベーティブでした。少し無謀だと思われたアイデアがいくつも重なり、月に行けたわけです。

小野寺:具体例としては非日常だけど、人類が達成したい未来を目標に設定して、逆算でどう実現できるのかという考え方をイメージする事例としてはわかりやすいし、壮大で夢があると思いました。とはいえ、なかなか身近なところに落とすとなると、難しくて、フォアキャスティングになりがちです。ただ、聞く中で思いつきましたが、人生設計は結構バックキャスティングで考えている気がします。「40代になってきて老後のことを考えつつあるのですが、どう過ごしたいのか、貯蓄がいくらか、子供にはこれからどのような大人になってほしいか」などのフォアキャスティングで考えにくい部分はバックキャスティング的に手探りでプロセスを埋めていると感じています。

伊澤:人生設計は身近でいい例えだと思います。無意識的にバックキャスティングをしていることはあると思っていて、ビジネス開発も一緒です。例えば、「新規事業の開発をしたい、DXしたい」といった思いに対して、「事業化をされたサービスのメリットを享受するユーザーがいて、どのように社会が変わっているか」という定義づけをして「そこに向かうぞ」となれば、そこからマイルストーンを引けると思うし、今置かれている状況から考えて、どのようにマイルストーンと現状を突合すべきかを考えられると思います。人生だろうがビジネスだろうが考えることは一緒かと。

よく大企業の新規事業が、本当にその未来を作りたいと思っているか、というと自分ごとになっていなかったり、周りを巻き込めなかったり、壁にぶつかって頓挫したりするケースがあると思っていて、人生とビジネスの話でいえば、ビジネスの方をより自分ごとにしなくてはいけないと思います。

自分たちの想いで事業を作り上げた事例の紹介

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伊澤:ひとつ事例を紹介させていただきます。
こちらはHondaさんが発表した「Ropot」という子どもの見守りロボットです。ハードウェアですがこれもDXの一例として聞いていただければと思います。
このロボットをランドセルの肩の部分に載せておくと、登下校時に「交通量の多い場所」などの注意しなければいけない地点に差し掛かったときにGPSで場所を検知して、ブルブルっと震えて子どもに「一旦止まって周りをよく見て注意してね」と促してくれるというものです。
このプロジェクトマネージャーの方には小学生のお子様がいらっしゃって、絶対に事故にあって欲しくないという想いからこのアイディアを考えられたそうです。まずここで「自分ごと」なんです。

肩に乗せるロボットというアイデアはおそらく後から出て来たものだと思いますが、「子どもが事故に遭わない未来」「親が不安なく子どもに行ってらっしゃいと言える未来」という、ユーザーのことを想って揺るぎない未来を定義した事がとても重要です。じゃあどういうソリューションを提供するべきか?というバックキャスティングと、現状の理解として子供の行動分析をするとか現状の積み重ねとか、自社の技術やアセットをいかに活用するか?というフォアキャスティングの考え方を組み合わせた結果辿り着いたプロダクトだと思います。

小野寺:子供の見守りで、この視点はなかったですね。私も子供がいるのですが、7歳の小学校入学に合わせて、見守りケータイを持たせていました。でも、位置情報を把握するとか、連絡を取るとか、こちらからアクションする機能が主体で、何もない時に子供の意識に働きかけるものってないんですよね。
でも、親の願いは、事故が起きた後に位置を知るのではなく、起きる前に止めたいんですよね。でも小学校入るくらいになると自由に友達と遊びに行き、目が届きにくい状況になるので、ツールで出来る限界を感じて、親としては我慢なのかと考えていたのですが、このRopotは、そもそもの視点が、子供を追跡するというそれまでの視点から、親の一番の願いは何か、それを形にするにはどうしたら良いのかという、正にバックキャスティングの発想で生まれたのではないかと感じましたね。

伊澤:なかば限界とおっしゃいましたけど、プロダクトマネージャーの方は、「多くの親御さんがきっとそういう思いで子供に不安を感じながら『いってらっしゃい』と言っているのでは」と推測し、そんなことはないはずだと思いこのアイデアに行き着いたのではと思います。今小野寺さんが1人のユーザーみたいな立場で共感されましたが、このHondaのプロジェクトメンバーの方々も、ビジョンに共感してジョインしたとか、新しい挑戦をしたくてジョインしたという方がいるんです。新規事業やDXという不明確のものになぜバックキャスティングが必要なのかという理由としては、ビジョンを明確に描いておくと、共感できる人が増えるというのがメリットの1つとしてあるからなんです。

DXの観点で言うと、このRopotには、子供がどこにいるか把握したり、危険な場所にピンをおいたりするための専用スマホアプリが必要になるんですね。その地図機能を搭載したアプリ開発にも彼らは取り組んでいます。実はこのメンバーには、車のマフラーを設計した経験しかない人もいるらしいんです。でも描きたい未来があって、そこからデジタルプロダクトに触れなくてはいけないという手段をステップとして描くことがバックキャスティング的にできたので、「やはりスマートフォンアプリが必要である」という結論に至ってイノベーションに取り組んでいますね。これもデジタルを活用したトランスフォーメーションですから、ハードウェアだけどDX事例として取り上げました。

小野寺:圧倒的に自動車への取り組みをされている方が多いでしょうから、そういったメンバーの方でスマートフォンアプリも作るということは、活かせるスキルはあってもやはりハードルは高かったと思うので、実現したいというエモーショナルな部分も大きかったのかもしれませんね。

未来予測とバックキャスティングの違い

中島:アジャイル開発に入っていると、今現在の技術的なアセットや直近での価値がある取組に視点が向くのでフォアキャスティング的な感覚が強くなっていくと思うんですね。その延長でバックキャスティングを考えると、未来を確度高く予測してそこに向かっていかなくてはならないという感覚をもったのですが。。感覚としては何か違和感があるような気がするんですよね。。

伊澤:バックキャスティングって、「未来予測」と混同されることも少なくないんですけど、(どちらも未来の話なので共存することもあるのですが)まずイコールではなく、未来予測はフォアキャスティング的な考え方です。

例えば、未来予測って、「2030年台には技術が進歩しているはずだから、レベル5の自動運転が確立されるだろう」だからこういうソリューションが受けるだろうという的な発想ですよね。今ここまで技術が実現しているから、その1年後にはきっとこうなっていて…の積み重ねです。

一方でバックキャスティングは「2030年までにレベル5の自動運転を確立させるぞ!だから2029年には…2028年には…」と、そこからマイルストーンを引くというプロセスです。未来がどうなっているかという「予測」を起点とするか、未来をどういう状態にしたいかという「意思」を起点にするかが違いだと思っていて、意思を起点とする方がバックキャスティングです。

ただ、一つ共通している点があり、それは未来予測もバックキャスティングも、「シナリオは複数ある」ということです。

小野寺:先ほど自分の人生の話やロボットの話もそうですが、バックキャスティングは、予測というよりは、「どうありたいか」と、そこに至るまでのプロセスをどう埋めていくかを考える、実現するための方法を出していくということだと思いました。

バックキャスティングの目標点(いつまでに)をどう決めるのか

伊澤:シナリオプランニングという手法もありますが、「いつか必ずくるであろう未来」と、「予測できない未来」を混同しないことと、「いつまでにやりたいか」という意思を固めることかと思います。例えば、10年先といってもどうしたいのかわからないので、予測しきれないのであれば、一旦手前の目標をたてて、そこからバックキャスティングして比較的近いところを考えて、繰り返すと先の目標地点が見えてくるかと思います。

中島:ある意味、フォアキャスティングも混ぜると言うイメージなのですかね。

バックキャスティングはどう取り入れるのか

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伊澤:大きく二つポイントがあって、
1つは描きたい未来を組織内に共有する。あるいはチームメンバーで一緒に描くことです。どこ向かうのかを共有できておらず、しかもフォアキャスティングだけでプロダクト開発などを進めてしまうと目指すものがチグハグになってきてしまいます。
もう一つは、途中でも少し触れましたがフォアキャスティングも組み合わせて考えると言うことです。バックキャスティングだけで考えないとも言い換えられるかと思います。

バックキャスティングは、ロードマップは立てられるものの、とっぴなアイディアに行きついてしまったり、目の前の課題解決には向かないといったデメリットがあるので、そこを補完するためにもフォアキャスティングが必要になります。
逆に、フォアキャスティングは現状起点で考えるため、既存の延長線上の目標やTODOばかりが生み出されますし、未来の方向性すら持たずに闇雲にフォアキャスティングで思考していくと、行き当たりばったりになって目指したい未来がバラバラになるというデメリットがありますが、そこをバックキャスティングが補完してくれると言う構造になります。どちらがいいではなくて、基本的には組み合わせて使うものと捉えてください。

とはいえ、組織で本当に取り込みたいが難しいという場合は、裏技的ですが、やはりバックキャスティングとフォアキャスティングを日常で取り入れている人たちと一緒に動いちゃうというのが文化としては浸透しやすいかもしれないですね。。。

中島:確かに、違う目線の人にチームに入ってもらい、アドバイスや気づきをもらうのは重要だと思いました。エンジニア目線でいうと、スクラムの体制だとスクラムマスターがそういう視点をうまく取り入れてくれれば良いですが、なかなか気づいていないと、取り入れにくいので、外部から強制的に入れるというのは有効かもしれないです。

伊澤:やはり事業開発は1人ではなく人を巻き込むので、エンジニアもいれば営業や企画もいて、、といろんな職種がいて、個人のスタンスや目指すものが違うので、統率するためにもバックキャスティングが必要なんです。それぞれ走る道は違うかもしれないけど、目指す方向は一緒だと。バックキャスティングは一緒の方向に向かって走るための思考法だと思います。


小野寺:このような考え方を実践し、組織に伝播させて、出来る人を増やす、そうありたいと思います。一方で、元々そういう文化がない中で行うのは、手探りで時間もかかると思うので、自分たちでやりきれないところは外部の力も得て加速させるといい気がします。CTCビルドチームはそういった状況に伴走して、バックキャスティングによるプロダクト開発を実践していますので、お声をかけていただければと思います。

昔と比べたバックキャスティングの重要性はどうか

伊澤:なにをもって重要かということだと、意思がより重要だと思います。というのはユーザーが複雑化しているからです。昔はこう言う未来があったら食いつくだろうとあるべき姿を立てることができたと思いますが、今の消費者の価値観はものすごく複雑化しているので、より一層未来を描く具体性とか情熱とかが大事になってきています。でないと共感を得られません。なのでユーザーをちゃんと見続けるというか、理解しつづけるということが重要かなと。
また、こうありたいという思いを重要視した事例だと、けっこうスタートアップの事例が参考になるのではないでしょうか。ニュースリリースとか出ているかと思いますが、その関連記事の開発者コメントなどを見て、リバースエンジニアリングみたいに彼らが何を考えていたかを真似してみてください。いいプラクティスになります。まとまった記事はないと思うので、そう言った観点で探してみてください。

DXが進み、社会が進んだころ、何が会社を差別化するか

伊澤:バックキャスティングの重要性が絡んでいると思っていて、社会全体が次のステージに進んだ時に、1本しかシナリオを描いていないと淘汰されてしまう可能性があります。いかに複数のシナリオを携えられているかが、差別化にはなると思います。未来は1つに固定されてはいないですが、今に至るまでのシナリオはいくつもあるでしょうし、逆にフォアキャスティングで考えた時に現状から想定されるルートもいくつかあると思うので、そこを考えておくことが差別化には必要です。

デザイナーの役割とは

伊澤:未来を作りたいと言う意思を固めるには、まずはユーザーを考えなくてはならないので、シンプルに言うと、ユーザーに向かい課題を解決し、ユーザーが喜ぶことが何かを考えることが得意なのがデザイナーです。未来を描けなかったら描くお手伝いをしますし、未来のために顧客が潜在的に思っていることが何かを掘り起こすこともできます。

小野寺:デザインという仕事にはプロダクトに方向付けをする側面もありますが、それはあるべき姿をどう定義し形にするかという、正にバックキャスティングの考えが必要なのだと思います。グッドパッチさんはそういったデザインアプローチを尖らせ、ビジネスに結び付けた集団であると思います。


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