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グラフィック・デザイナー(50代)の苦悩 テーマ#08 デザイナーの使い方

みなさん、こんにちは。フリーランス・グラフィックデザイナー(50代)のブブチチと申します。デザインを生業にして30数年。気がつけばシニアと呼ばれるにふさわしい年齢になっていました。noteでは、デザイナー人生においての出来事や学んだ事を自身の体験を交えながらつらつらと自由に書き連ねています。お時間ございます時にゆるくご一読いただければとても嬉しく思います。

いかがお過ごしですか?ブブチチです。朝晩はすっかり肌寒くなりましたね。我が家の愛犬(黒いモジャモジャのトイプードル♀)は、夏のあいだは用意された自分のベッドで寝るのですが、いつぞやのタイミングで僕のベッドにやってきて、くっついて隣で朝まで眠るようになります。それは僕に、夏が終わったことを気づかせてくれる大切で愛おしい恒例行事のひとつです。

さて、今回は「デザイナーとは・・・」という視点で書いてみようと思います。しかしながら「かくあるべし」みたいなそっち系のお話ではありません。どちらかと言えば、お仕事を発注してくださるクライアントの方々にとってデザイナーをうまく使うためのヒントになるような事が書ければいいなと思います。なぜなら、上手に使われたいから(笑)。どうぞ、最後まで気楽にお付き合いいただければ幸いです。

デザイナーはアーティストではないことを知る

一般人には理解しがたいものに強い興味と敬愛を持ち合わせ、自己主張へのこだわりはひときわ強く、独特のファッションセンスと豊かな感受性で、少し気難しい種類の人間。

多くの方が、デザイナーという種族に持たれている印象はこれに近いものかもしれません。その証拠というわけではありませんが、30年以上デザイン業界で活動してきた中で僕自身「思っていたより全然普通の人だったので安心しました」とちょっと複雑な気持ちになることを何度言われてきたことでしょうか。なぜだろう?何かを創作する人はみんな目をぎょろっと見開いて、天に向かって大きく手を広げ「爆発だ!」みたいなことを言っているような印象があるのかな?(笑)

みなさんに知っていて欲しいことがあるとすれば、デザイナーはアーティストではないということです。だからと言って今ここで、アーティストとはなんぞや、デザイナーとはなんぞやとその定義を詳しく語るつもりはありませんが、簡単に言うとアーティストとは「自己を表現する人」。デザイナーとは「表現で問題を解決する人」。何かを創って表現するという共通項目が大きな要因で混同されがちです。

そのせいもあってかクリエイティブな職業というのは、どうも天から降って湧き出る奇抜なインスピレーションを形にしている、そんなイメージが強いようですね。はっきりとは要求されないまでも、時々そんなことを期待されているような感を受ける事があります。僕に限っていえば、この30年以上、そんなありがたいインスピレーションが天から降ってきたことは一度もありません。たぶん思うにこれからも無いと思います。僕にとってのデザインは、まさにクライアントの様々な問題を解決するための手段であって、そのための調査と情報収集とスキルと打算と経験の集大成みたいなものです。時にバラしたり、時にくっつけたり、時にひっくり返したり、時にとっかえたり、とにかくさまざまな手法で、仮説の上に地道にロジックを組み上げていきます。なので、残念ながら閃きで何かを創れた経験は一度もありません(それはそれで少し寂しいけれど)。

どうかご注意ください。デザイナーだからと言って神がかったインスピレーションを期待したり、それが職業の役割だと期待してもたぶん何もでてこないと思います。多くのデザイナーは僕と同じように、勉強と経験を地道に積み重ねることで、目に見えないものを目に見える形にすることに少しだけ長けているに過ぎないごくごく普通の人々なのですから。

デザイナーは囲われた羊だと知る

デザイナーに仕事を発注したいと思った時、初めに悩まれる事があるとすれば「どんな資料を用意してどんな風に依頼すればいいだろう?」ということかもしれませんね。

時々、ご依頼時に自分なりにかなり作り込んだイメージラフを提示くださるクライアントのご担当者がいらっしゃいます。たぶん良かれと思ってそんな風にしてくださるのでしょう。が、正直申し上げてそれはデザイナーにとって、少しやっかいな足枷になることが多いです。仕事を請け負う身分の側としては、クライアントからの強い指示として受け止める必要もあり、それを土台に形にせざる得なくなってしまうからです。誤解を恐れずにいえば、決して言われたものを言われた通りに創らねばならないことに異議をとなえているわけではありません。その提示されているイメージラフが今回の目的にふさわしくないとわかったにもかかわらず、形にするために余計な労力を注がねばならなくなることが多いという意味です。ご心配なされなくとも向かうべき方向はデザイナーがなんなりと手法を用いてクライアントのみなさんに確認します。やり方は人それぞれですが、それもデザイナーの役目です。クライアントのみなさんはドンと構えていらしてください。

と言いながら次にこんな風に書くと、どっちだ!と強くお叱りを受けるかもしれませんが「じゃあ、あなたなりに自由に提案してください」と言われるのも、これまたデザイナーにとっては苦痛です。ここまでは行っていいよ、そのかわり、この柵の向こうには絶対行くなよとある程度の制限も設けてもらわないと(決して、押すなよ、押すなよという意味じゃないですよ)、僕なんて臆病きわまりないので、とたんに足がすくんでしまいます。

デザイナーは、たくましく獲物を追い荒野を生きる狼などではありません。囲いの中で草をはむ羊なんです。羊たちは自由と制限のストレスにとても敏感です。自由すぎても、はたまた制限され過ぎてもいけない。ええ、とても難しいことを言っているのは自覚しています。でも・・・なんです。そのかわり、囲いの中で自由に遊ばせてくれさえすれば本当に一懸命遊びます。クライアントであるあなたを驚かせたくて、そして喜んで欲しくて一生懸命になります。ぜひ、クライアントであるみなさんには、羊飼いになったつもりでデザイナーを優雅にコントロールいただきたいと思います。

デザイナーは誉れることが大好きだということを知る

デザイナーは総じて褒められる事が大好きです。褒められたら、すぐポーッとなって褒めてくださったあなたのことが大好きになります。そして、きっともっとあなたに褒められたくて、惜しみなく力の限りを尽くすでしょう。

豚もおだてりゃ木に登る。とはまさにデザイナーのためにあるような格言。

ただし、褒めるポイントを間違わないでくださいね。そう、褒めるのはデザイナーが創ったモノを、です。奇抜な服装や変わった趣味や奇妙な言動を褒める必要は全くありません。とにかく、あなたを喜ばせたくて創ったモノがお気に召したら手放しで褒めてやってください。

が、もしも提案されたモノがあなたのイメージと違う不幸に見舞われた場合は、どうか慌てず怒らず、ひと呼吸おいてから、こう始めてください。

「個人的にはとても好きなデザインなのですが・・・」

その後に続く言葉がたとえ否定に満ちたものやなにか別の要求であっても、その魔法の言葉があれば大丈夫。あなたの指摘を喜んで持ち帰り、きっと一生懸命、再考してくることでしょう。

デザイナーに期待されるのは、商品やサービスの向こう側にいる消費者に共感を醸成すること。つまりは、その人たちに向けてデザインしなければいけないのは重々承知しています。でもね、デザイナーも人の子、人間です。まず、自分の目の前で喜び笑ってくれる人(つまり、お仕事を依頼してくださったあなたのこと)のために懸命に創作しているということも、どうか頭の片隅に覚えていてやってください。

今日も最後までお読みくださって本当にありがとうございます。
今日という一日も、みなさんが笑顔で過ごせますように・・・。

                                 ブブチチ


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