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グラフィック・デザイナー(50代)の苦悩 テーマ#02 安定という名の桃源郷

みなさん、こんにちは。フリーランス・グラフィックデザイナー(50代)のブブチチと申します。デザインを生業にして30数年。気がつけばシニアと呼ばれるにふさわしい年齢になっていました。noteでは、デザイナー人生においての出来事や学んだ事を自身の体験を交えながらつらつらと自由に書き連ねています。お時間ございます時にゆるくご一読いただければとても嬉しく思います。


いかがお過ごしですか。毎日、びっくりするくらい暑い日が続きますね。我が家の愛犬(黒トイプードル。もじゃもじゃの女の子。12歳)は、この季節になるとエントランスの冷たい床の上に降り立ち、下駄箱の下で長く伸びて昼寝する事を日課とします。家の中でどこが一番涼しい場所かを知る事においては僕も妻も彼女には敵いません。

余談はさておき、今回はフリーランスのデザイナーなら誰しも夢見るであろう「安定」について少しお話ししてみようと思います。

大きな不安とささやかな安心の繰り返し

多くの方が色々な目論見や夢を持って独立をはかられるかと思います。そして大抵はまず「次から次へと仕事がある安定した状態」を目指されるのではないでしょうか?かくいう僕ももちろんそうでした。

ところが、待ち構える現実は冬山のように厳しい。

何かあればご依頼しますねと嬉しい事を言ってくれるけど何かがくる気配は一向にないし、今月の売り上げは雀の涙だし、3ヶ月先どころか来月の見通しさえ全然立たないし・・と思っていたら見込んでいた案件が取りやめの突然の連絡・・・。

心がきゅーっとなるくらいに毎日が不安です。経費や生活費の節約をしながら、ひとつでも多く仕事にありつこうともがきます。覚悟していたとはいえ、やっぱり先が見えない不安は大きくて、とにかく一刻もはやくその不安から解放されたくて躍起になります。仕事さえあれば不安から解消されると。仕事が一つでも決まると飛び上がるほど嬉しくて独りガッツポーズ。不安から解放された気分にさえなる。ところが、また先行き不透明になると不安で仕方なくて「のほほんと休んでていいわけない」と心ばかりが焦って休日さえ素直に楽しめない日々にまい戻ったりします。

フリーランスになってからというもの、ずーっとこの山あり谷ありの繰り返しばかりでした。一刻も早くこの不安から脱出しようと僕は躍起になってきました。不安から解消されるために、まだ見えない未来の出来事を見えるように確立化しようといろいろな試みもしてきました。不安解消の先にこそ安定という名の桃源郷が存在するんだと思って。

でもある時、あれ?と思ったんです。この業界でフリーランスをしている限り不安が解消された状態が続くことなんてありえないのでは?って。そもそも、どうなるか誰にもわからない未来の出来事に何を根拠に僕はいつも不安を感じているだろうと。今、思い返せば、さも未来を見ているようで、実は目の前の不安にばかり心奪われていたように思います。

僕らがいるのは、「えっ!?」が渦巻くそんな世界

見栄を張るつもりはさらさらないので自慢話のように聞こえたらどうかお許しいただきたいのですが、こんな僕でも本当にありがたいことに、ご依頼を受けるお仕事の数が結構多くて「さて、どれから片付けていこう」なんてニヤニヤしながら嬉し困り顔の月もたまにあります。が、果たしてそういう状態を継続していけるのかといえば残念ながらまず無理だと思います。

なぜ?

そうできない要因が自分ではどうにもならない所にもあるからだと思います。大きくいえば、世界情勢やパンデミックやクライアントの業績や方針や、小さくいえば、クライアントである担当者の人事異動や退職、突然の心変わりやどうしようない好き嫌いとか。とにかく、たくさん。

ある時、同業者からこんな話を聞きました。
「昨日、自分がずっとやってた仕事を他のデザイナーでやる事になったって突然連絡があったんです。あわててクライアントに理由を聞いてみても「たまには違うテイストでもやってみたいから」ってそれだけしか教えてもらえなくて・・。」

彼にミスや落ち度、マンネリがあって、気が付かないうちにクライアントである担当者が不満を溜めていた、なんて理由ならある意味理由としては健全です。でも、その件についてだけでいえば、担当者自身が言うように「たまには」という本当に無邪気で残酷な心変わりでした。

フリーランスになってから僕も幾度となく同じような経験をしてきました。で、学びました。自身も含めて肝に銘じておかないといけないのは、僕らはそんな業界で生計を立てているんだという事です。いつもそれを理解し飲み込んだ上で、じゃあ、どうするかを考えなくちゃいけない。そう思うと、様々な種類の受け入れ難い事が平気で起こるこの業界で、心病むほどに先行きを不安に思って毎日を過ごすなんて本当に馬鹿らしい。

もしも、これを読んでくださっている若いフリーランス・デザイナーの方がいて(まずは何より読んでくださってありがとう)、なかなか受注が安定しなくて不安に思っているならば伝えてあげたい。どうか不安に潰されないようにいてください。僕らは大きな不安とささやかな安心を繰り返しながら生きていかなくちゃいけない業界にいるんです。それはずっと、ここにいる限り。悲観的に聞こえるかもしれないけれど、ここには安定という名の桃源郷なんてたぶん存在しない。もしも不安に心奪われる時間があるなら、それよりも目の前にあるその仕事を、そしてその機会を与えてくれた人をしっかりみて120%の力で期待に応えることに集中してください。不運にも積み重ねてきたものが崩れて無くなる出来事に見舞われたとしても、そこがリスタート地点なんじゃないかなと僕は思います。

僕自身もそんな風に自分に言い聞かせ、大きな不安とささやかな安心を毎日繰り返しながらデザイナーを名乗っています。

最後まで読んでくださって本当にありがとうございます。
まだまだ残暑厳しき折、くれぐれも水分&塩分補給だけは忘れないようにお気をつけくださいませ。

ではまた。引き続きよろしくお願い申し上げます。

                                ブブチチ



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