子どもたちの探究心に火をつける学びとは?_02
これからの時代、変化の激しい社会に対応するには、探究的な見方・考え方を身につけることが重要だといわれています。
教師はどのような働きかけをすれば、子どもたちの探究心を目覚めさせ、学ぶ意欲につなげていくことができるのでしょうか。
筑波大学附属小学校で図工を教える笠雷太先生と、多くの子どもを引きつける探究型の授業を展開している探究学舎代表の宝槻泰伸さんに、子どもの探究心や主体性を引き出す方法について語り合っていただきました。
子どもたちの探究心に火をつける学びとは?_01は、こちらからご覧ください。
Q2_子どもの主体性を引き出すためにできることは?
子どもが思わず考えたくなる「問い」を
笠:学校の授業では、子どもに一方的に情報を伝達しなければならない授業場面も少なくありません 。そうした場面だとしても、先生方は「問い」のあり方に悩み、エ夫なさっています。探究学舎の授業が盛り上がるのは、問いを工夫されているからかなと思うのですが、その点はいかがですか?
宝槻:問いについては、聞かれた側が心をかき立てられる「ドライビング・クエスチョン」を取り入れています。例えば、「音は空気を伝わって聞こえる」ということを、そのままの言葉で説明しても子どもの心は動きません。でも、「真空状態の瓶に時計を入れます。この後、時計はどうなるでしょうか?」と聞くと、子どもたちは「爆発する!」「針が逆に回り始める!」など、自分で思いついた答えを次々と発言してくれるようになります。一通りの答えが出た後で、「時計の音が聞こえなくなる」という正解を伝えると、小学校高学年くらいなら「どうして音が聞こえなくなるんだろう? そうか、音って振動だから、振動を伝える空気がないと聞こえないんだ!」とピンとくる子もいます。聞かれた側が考えたくて仕方なくなるような問いを立てるということは、常に意識していますね。
笠:問いって本当に重要ですね。学校でもアクティブ・ラーニングが導入されたことで、授業中の間いのあり方について考える機会が増えました。問いには大きな問いもあれば、小さな問いもありますよね。1時間単位の授業のめあてとしては「空気の性質とは?」といった大きな問いを用意しておけばよかったとしても、子どもの興味を引き出すには、子どもが「なんで?」「知りたい!」と思うような小さな問いを次々と投げかけていく必要があると感じています。
宝槻:笠先生は図工の授業の中で、どんな問いを投げかけることが多いんですか?
笠:僕は、「さあ、今日はこんなことをやってみよう!」と、問いではなく「提案」をしてしまいがちなんです。ですから、意識してその提案を「どうやったら~できるのかな?」など、問いの形に変えるように心がけています。また、何といっても図工の授業では、材料そのものが「問い」になるところが面白い。当然、一人ずつ作るものも違っていて、それがその子にとっての今の価値なんですよね。材料そのものが、子どもたちに多くのことを問いかけてくれるわけです。それをいかに深く掘り下げていけるかが課題だと感じています。
「愛おしい」の気持ちが主体性や意欲につながる
笠:子どもたちの興味を引きつけるために、 宝槻さんが意識されていることはありますか?
宝槻:授業の中で、子どもたちが「確かに!」と思う瞬間をつくると、次の展開につなげやすいですね。元素の周期表を見せて、「表って普通は四角いはずなのに、真ん中がへこんで、こんな形になってるのって変じゃない?」と聞くと、子どもたちは「確かに!」と思います。そこで、「なんで、こんなにへこんだ形になってるんだろう? 何か秘密があるんじゃない?」と子どもたちを揺さぶっていくと、周期表は多くの科学者たちの発見の結晶なんだと伝えたときの驚きや感動も大きくなっていきます。
笠:探究学舎に通っている教え子は、周期表 に載っている元素をすらすら言えたので ビックリしたのですが、そんな秘密があったんですね。
宝槻:「もっと知りたい!」と思った時点で、その対象は子どもにとって愛すべきものになっているんです。「好き」を通り越して、「愛してる」「愛おしい」というレベル。その気持ちが、 もっと学んでみたいという主体性や意欲につながるんですね。人って、情報よりも体験に感動する性質があるんですよ。ですから、具体的な事例から一般的な法則を導き出す帰納的な学習法のほうが、エモーショナルな授業にしやすいです。僕にとっては、それが 何かの役に立つかどうかは重要ではなくて、 「これ、すごくない? 面白くない?」ってことをまずは伝えたいんです。
笠:図工の授業もそこは同じです。学校の授業はどうしても、最初に「この知識やスキルを身 につけてください」ということを伝えて、「身につけた知識やスキルを使って問題を解きましょう」という展開になることが多いんですね。 そういった情報伝達が中心の学びは、無味乾燥なものになりがちです。その中にあって、図工は具体に触れたり、身体全身を使ったりする造形活動を通して、驚きや感動を温度感とともに、体験的に子どもたちに届けることができる教科です。そこにこの教科を学ぶ価値があると思っていますし、きちんと子どもに届けたくて試行錯誤する日々です。
宝槻:どんな知識やスキルも、それが発見されたり編み出されたりするまでには感動的なドラマがあったはずなんです。難解だと言われるような数学にだって、エモーショナルな瞬間を感じている人は大勢いるはず。でも、それを子どもにもわかるように伝えられる翻訳家がほとんどいない。だから、僕らのような 「入門編の達人」のニーズが高くなっているのかもしれません 。そもそも究極の問いは「自分は何のために生きるのか」ということで、この問いに対する答えを見つける力が本当の学力だと思うんです。でも、現在の日本の教育は、この答えを見つけるための情熱を子どもたちに手渡せてはいない。そこを変えていけると良いのですが。
笠:学校という教育システムの中で、先生方一人ひとりは、子どもたちに学びの面白さを手渡そうと本当にがんばっています。今後は小学校、中学校、そして高等学校から大学という全ての学校教育の中で「自分は何のために生きるのか」という大きな人生の問いに、子どもたちがワクワクしながら出会えるような場面を意識してつくっていく必要があるのかもしれませんね。先ほど伺った「ドライビング・クエスチョン」の取り入れ方だったり、エモーショナルな授業展開であったり、一教師として工夫できることから地道に取り組んでいきたいですね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?