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子どもたちの探究心に火をつける学びとは?_03

これからの時代、変化の激しい社会に対応するには、探究的な見方・考え方を身につけることが重要だといわれています。
教師はどのような働きかけをすれば、子どもたちの探究心を目覚めさせ、学ぶ意欲につなげていくことができるのでしょうか。
筑波大学附属小学校で図工を教える笠雷太先生と、多くの子どもを引きつける探究型の授業を展開している探究学舎代表の宝槻泰伸さんに、子どもの探究心や主体性を引き出す方法について語り合っていただきました。

Q3_理想の教師、理想の授業とは?

どんな行動•発言も認められる教師でありたい

:宝槻さんは、興味開発における教師の役割をどう捉えていらっしゃいますか?
宝槻:探究学舎の講師は興味開発のきっか け作りはしますが、最終的には僕らの授業がなくても、子どもたちには自分自身でワクワ クできるものを見つけ出せるようになってほしいんです。
:遊び場といえば空き地くらいしかなかった時代は、何もなかったからこそ、子どもは自分で遊びを考えるしかなくて、能動的になら ざるを得ませんでした。今は、受け身の姿勢でも楽しめるものが溢れている時代です。だからこそ、子どもが主体性を発揮できる環境を、教師が意識してつくっていく必要があるのかもしれないですね。
宝槻:そうですね。僕たちも偉そうなことは言えなくて、子どもたちがただ待っているだけで自動的に面白い授業が受けられるという構造になっていないかは、もっとしっかり考えなければいけないと思っています。
:僕が教師として日頃からよく考えているのは、学校を子どもたちにとってもっとワクワクできる場所にしたいということです。宝槻さんにもし良いアイデアがあれば、教えていただけませんか?
宝槻:世の中全体が学校になる、ソーシャルラーニングの考え方を取り入れてみたらどうでしょう。すぐに実現できるかはさておき、例えば午前中は学校で授業を受けて、午後は生徒が校外に出かけて、行く先々にいる社会人からさまざまなことを学ぶ。そんな学びのスタイルがあってもいいと思います。
:社会にいる大人全員が教師になるということですね。
宝槻:教師が数十人の子どもたちに対して 一斉授業を行うという学校のシステムは、物的生産性を高めることを目的としていた時代にはよく機能していたのだと思います。でも、現在は知的生産性が優位となり、多様性にも富んでいる時代です。学ぶ目的も「より良く生きるため」と高次元になっているのにもかかわらず、現在の学校のシステムはそれに対応しきれなくなっているのではないでしょうか。

:学校が現在のシステムを採用している理由の一つに、評価のことがあるだろうと思います。発達段階によっては、受験や進路を意識せざるを得ないことも事実です。そういった現状を少しでも変えようと、最近は定期テストをしない方針を打ち出した学校もありますが、宝槻さんは子どもの評価についてはどうお考えですか?
宝槻:何かができる・できないというところには焦点を当てずに、その子の存在そのものを愛でてあげたいと思っています。学校の教室では「正解を言う」ことが評価されますよね。でも、僕はどんな行動•発言でも否定せずに、 面白がってフィードバックできたらいいなと思うんです。
:「その子が今日、来てくれたことだけでOK」といった感覚ですね。
宝槻:そう、根底にあるのは愛なんですよ。ただ、これは探究学舎という興味開発に特化した学びの場だからできること。学校のように知識・技能を伸ばす場では「できる」ことを評価していく必要もありますから、これはどちらが良いという話ではなくて、質の違いでしょう。
:いろいろなキャラクターの子がいていいというのは学校にも当てはまることです。教師がそれぞれの子どもの存在自体を認めて、 子ども同士も互いに認め合えるような場をつくっていけたらいいですよね。
宝槻:そうですね。全ての子が何らかの資質を持っていて、それを承認してもらえることを求めているんだと思います。そして、保護者の方々もわが子を肯定できる体験を求めているからこそ、習い事にお金と時間をかけてくださるわけです。周囲にいる大人たちは、「その考え方、面白いね!」と、もっと子どものことをほめてあげてほしいですね。

予定調和では起こり得ない感動を分かち合える授業を

宝槻:僕は授業というのはオーケストラに似ていると思っています。一人ひとりの子が楽器でその個性豊かな音色をまとめて一つの曲を奏でるのが教師の役目。授業をやっていると、たまに自分自身もゾーンに入って、子どもたちも夢中になって、その場にいる全員でこの瞬間を分かち合えたと感じるような瞬間ってありません?
:あります! 僕はそれが楽しくて教師をやってます。
宝槻:そういう瞬間って、予定調和の授業じゃ絶対に起こらないんですよね。
:僕は以前、寝坊してしまって(笑)。お恥ずかしいことに準備が不十分なまま授業をむかえてしまったんです。その日、使えそうなものは画用紙片くらいしかない。僕も答えがわからないまま「この画用紙片で何ができそう?」というところからのスタートでした。でも、そんなときのほうが条件が少ない分、子どもたちの心の深い部分までぐいぐい入っていけて、盛り上がったんです。もちろん用意を怠ってはいけませんが、教師も子どもと一緒に正解のない問いに向かえたことで、ともに授業をつくっていくことの面白さを味わった瞬間でした。
宝槻:ありますね、そういうときって。教師ってやっぱり、子どものことが好きなんですよ。授業中に子どもたちが目をキラキラ輝かせてくれて、この子たちをエンパワーできたと感じられる瞬間がある。それがやりがいなんですよね。
:根底には愛情があること、予定調和ではない生ものだからこその授業の面白さというのは、学校にも探究学舎にも共通していますね。
宝槻:そうですね。教師が自分の得意なパターンに当てはめようとする授業をやっているときって、神は宿らない。自分が想定していなかった言葉が子どもから返ってきても、それを楽しみながら、教師も子どもも熱くなって 「真実にたどり着けた」と思えるような瞬間を 生み出していけたらいいですね。

探究学舎代表
宝槻泰伸(ほうつき・やすのぶ)
1981年生まれ。京都大学経済学部卒業。幼少期から「探究心に火がつけば子どもは自ら学び始める」がモットーの型破りな父親の教育を受ける。高校を中退し、塾には行かずに京大に進学。代表を務める探究学舎では、開発期間5年をかけて確立した探究型の教育手法に基づく授業を実践。オンライン授業は約3300世帯が受講している(2022年現在)。著書に『探究学舎のスゴイ授業」(方丈社)、『10歳から考える「好き」を強みにする生き方』(えほんの杜)など。5児の父。

筑波大学附属小学校教諭
笠雷太(りゅう・らいた)
1971年生まれ。東京造形大学卒業後、児童館非常勤講師などを経て、2001年4月より東京都図画工作科専科教諭として勤務。2014年4月、筑波大学附属小学校に赴任して現在に至る。2015年、『図エドリル』でキッズデザインアワード受賞。著書に『子どもが世界に触れる瞬間』(東洋館出版社)、共著に『図エドリル』『みるみる美術ドリル』(美術出版エデュケーショナル)、『手軽でカンタン!子どもが夢中になる!筑波の図画工作指導アイデア&題材ネタ50』(明治図暑出版)など。

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