子どもたちの探究心に火をつける学びとは?_01
これからの時代、変化の激しい社会に対応するには、探究的な見方・考え方を身につけることが重要だといわれています。
教師はどのような働きかけをすれば、子どもたちの探究心を目覚めさせ、学ぶ意欲につなげていくことができるのでしょうか。
筑波大学附属小学校で図工を教える笠雷太先生と、多くの子どもを引きつける探究型の授業を展開している探究学舎代表の宝槻泰伸さんに、子どもの探究心や主体性を引き出す方法について語り合っていただきました。
Q1_学校の学びと探究学舎の学びの違いとは?
実在する面白いものを子どもたちに伝えたい
笠雷太先生(以下、笠):僕の教え子には何人か探究学舎に通っている子がいて、すごく楽しいことをやっているんだという話をよく聞いています。元素や宇宙、歴史など、子どもが興味のあるテー マを自由に学べる場という印象があるのですが、学校と探究学舎はどのような点が違うのでしょうか?
宝槻泰伸さん(以下、宝槻):学校が効率よくいろいろな知識やスキルを身につけられるようにパッケージ化された学びの場だとしたら、探究学舎は子どもの「興味開発」を専門にしているというのが大きな違いだと思います。
笠:おっしゃる通り、学校は子どもの学力形成・能力開発の場であると同時に、生活指導の場でもあるんですよね。いろいろなことができる反面、一つひとつの取り組みとしてはどうしても弱くなってしまう部分もあります。
宝槻:その点、探究学舎は100%の力を「興味 開発」という部分に注いでいます。だから、子どもの好奇心や探究心をかきたてるところまで、一つのテーマを深く掘り下げることができるんです。
笠:扱うテーマに関しても、探究学舎では教科の枠にとらわれず、ボーダーレスに展開されているという印象があります。授業プランを立てる際は、どんなことを重視されているんですか?
宝槻:授業のテーマは、ノンフィクションであれば何でもいいと思っています。子どもはゲームやアニメに夢中になりますが、フィクションの世界にのめりこむだけでは人生の可能性は広がりません 。現実の世界にある面白いものと、子どもたちのハートをつなげたい。その思いは強いですね。
笠:僕の場合は、授業を通じて子どもたちに 「触れる」ことの面白さを感じてほしいんです。目の前にワクワクするものがあって思わず手を伸ばさずにはいられない、そしてその実感が学びにつながる。題材を通じて自然や光にも触れることができるし、イメージや時間、友達の良さにも触れることができる。そんな授業が理想です。
宝槻:いいですね。子どもにとっては学校と家庭が二本の柱であって、その間に公園や児童館など、いろいろな人と触れ合えるコミュニティがあります。僕たちが子どもだった頃は、放課後に近所の駄菓子屋に行くと年上の子も年下の子もいて、学校のような制約のない場でさまざまなことを学ぶことができました。今は駄菓子屋の代わりに、習い事が子どものコミュニティの一つになってきているように思います。
笠:僕の祖母は実家の隣で駄菓子屋をやっていたので、おっしゃることはよくわかります。放課後にみんなで集まれる場所が、子どもの本当の居場所になるんですよね。
宝槻:児童館のような場所は、主体的に活動を生み出す必要がある場なので、やりたいことがある子にとっては力を発揮できるコミュニティになります。ただ、実際には、やりたいことがまだ見つかっていない子の方が多いですよね。探究学舎は、そういう子どもたちの 「知りたい!」という気持ちに火をつける着火剤を配る場所でありたいと考えています。そのことを僕らは「入門編の達人になる」という言い方をしているんです。
笠:「世の中にはこんな面白い世界があるんだよ」ということを、それぞれの分野の入門編として子どもに伝えていくということですね。それは学習指導要領に沿った授業を行う必要がある学校では実現できないことかもしれません 。「興味開発のための着火剤」というコンセプトはすごく魅力的だなと思います。
やりたくないことは無理にやらせなくていい
笠:宝槻さんは、子どもの学びの質を左右するものは何だとお考えですか?
宝槻:その学びが主体的なものであるかどうかだと思います。学校や探究学舎の授業を受けているときの子どもたちは、先生の話を 「聞いている」という点では受動的かもしれませんが、自分から積極的に参加すれば主体的に学ぶことも可能です。家庭でも、興味があることを自分で調べるなどして知性を磨いていけば、それはかけがえのない原体験になりますよね。
笠:学校でも「主体的・対話的で深い学び」が重視されるようになり、子どもたちの主体性をいかに引き出すかは多くの先生方が工夫しているところです。
宝槻:主体的な学びの対極にあるのが、受験のための詰め込み教育。学校や塾の宿題も、子どもが主体的に取り組むのであれば得られるものはあるはずなんです。でも、親や先生に「やりなさい」と言われて嫌々取り組むのでは、大きな成果は期待できません 。探究学舎では、授業の中で子どもたちの探究心を剌激する探究課題を提案していて、それを「クエスト」と呼んでいます。クエストは宿題ではないので、やりたいタイミングでやりたいものだけをやればよくて、興味がなければやらなくてもいいんです。
笠:その考え方、僕も同じです! 授業の振り返りや感想を書く「図エノー ト」というのがあるんですが、子どもたちには「出しても出さなくてもいいから、先生に何かを伝えたくなったら書いてね」と言っています。
宝槻:でも、このやり方だと、保護者の理解を得るのが難しいことがあるんですよね。お父さんやお母さんにしてみると、「わが子にはきちんとクエストをやってほしいのに、やろうとしなくて残念」となってしまう。何にいつ興味をつかは子ども一人ひとり違うので、授業を楽しめていればそれで十分なのですが。
笠:そうですね。最近は社会全体として、「子どもにはちゃんと勉強させてほしい」「できるだけ早く目に見える成果を出してほしい」というニーズが高まっているように思います。でも、義務的にやらせることで興味•関心が芽生えるわけではないんですよね。子どもの「楽しい!」という気持ちこそが学びの原動力ですものね。その中で子どもの興味が湧いてきたときのために大切なのはスタンバイ。「図エノート」を義務にしないのは、子どもが「図工のことをメモしたい、文字で残しておきたい」という、気持ちになったときに取り組んでほしいからです。宝槻さんも同じお考えだと知ってすごく励まされました。
宝槻:結局、子ども自身が「やりたい」「知りたい」と思 うようになるまで、大人は見守るしかないんですよね。ただ、関わり方を工夫すれば、子どもの好奇心や探究心に火をつけて、主体的な学びを一緒にクリエイトしていくきっかけを作ることはできます。それは学校のように子どもを評価する必要のない、僕たちのような学びのコミュニティだからできることかもしれないですね。
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