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プレーンソングについて

 保坂和志氏のプレーンソングを少し読み返してみた。
 この小説は、僕にとっては結構思い出深い小説で、漫画以外で初めてちゃんと読んだ本だった。それまで僕はほとんど本(小説)を読まなくて、小説自体あまり好きではなかった。と言っても、今でもあまり多くの小説は読んでいないのだけれど…。

 この小説は、僕が出会った小説の中で、群を抜いてグダグダだった。そして、小説によくある、と言うか小説は普通そうなんだけれど抑揚が無くて衝撃的ですらあった。だから僕は保坂和志の文章が好きになったのだけれど、どうして本を読まなかった僕が急にそのちょっと変わった小説を読むことになったのか、と言うところが今回の本題だ。

 当時の僕は一回目の大学一年生をしていて、一回目と言うくらいだから当然学校には行っていなくて現役浪人のような、つまりニートのような生活をしていて、毎日ぶらぶらしていたのだけれど、そんな僕にもなぜか年上の彼女がいて、その彼女が「この小説、主人公が、とかじゃなくて、小説自体の空気感が君に似てるから読んでみれば?」と言って買い与えてくれたのがプレーンソングだった。

 毎日暇をもてあましていたのでなんとなく読んでみると、確かにどこか共通すると言うか、スッと入ってくる感じがして一気に読めた。本の中の登場人物たちはそれぞれ結構いい加減な生活をしていて、その辺が似ているんだろうな、とも思った。プレーンソングが「グダグダ」している一番の理由はおそらく保坂和志の書く文章にあって、彼の文章は他の作家より極端に句点が少ない。下手したら1ページ句点がない。それが独特の空気感となっているのだと僕は認識している。そして、プレーンソングには普通の小説に抑揚をつける要素となる外敵とか事件がほとんど、いや多分まったく出てこない。そんな何にも起こらないようで、日々変化している主人公の日記のような小説がプレーンソングで、それがプレーンソングのよさでもあるのだと思う。

 もう少し付け加えると、保坂和志の小説は最後がはっきりしない。「え?終わり?」と言うようなところで終わったりする、しかもほとんどの作品が。そこが、僕を保坂和志のリピーターにしている理由でもある。 

 プレーンソングを読み終えてからしばらく経った頃、僕は2回目の大学一年生をするために引っ越したので彼女とは自然消滅してしまったが、プレーンソングを紹介してくれたそのときの彼女と、ついでに彼女がプレーンソングを買い与えたくなるような生活をしていたあの頃の僕にも少し感謝している。

 読書感想文を書かなければいけない学生の頃この本に出会っていれば、結構いい感想文が書けたと思う。でも、例えば仮に高校生の頃プレーンソングに出会っていても、今のような感覚では読めないのかもしれないなあ、とも思う。

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