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禍話リライト 花子さん譚「好きな色は?」



花子さんを利用したいじめの首謀者が痛い目を見る、因果応報な話。

いじめっこのAさんはターゲットを見つけると、取り巻きを三人ほど引き連れ四対一でいじめるという卑劣な性格をしていた。
当時目を付けていた女子生徒のSさんはとても臆病な性格だった。
学級文庫におかれている怪談話の表紙に描かれた幽霊の絵ですら怯えてしまうような極度の怖がりで、Aさんたちはそんな彼女を嬉々としてからかっていた。

ある日、Sさんは些細なミスをした。
本当に小さな失敗なのだが、元来責任感が強く真面目なSさんの性格にAさんたちは付け込んでとんでもないことを強要した。

「うちの学校の花子さんに好きな色聞いてきなさいよ。そしたら許してあげる」

彼女らの学校にはあまり使用されていない校舎があり、そこのトイレに花子さんがいるという噂があった。
当時は赤い紙、青い紙の都市伝説が有名で、それになぞらえ怖がりなSさんに花子さんに好きな色を聞いて来いというのだ。

「ええ!いけないよぉ!怖いよぉ!」
「そんなんで許されると思ってるわけ?いかないともっとひどい目に合わせるよ!?」

弱みに付け込まれ、なおかつAさんと取り巻きからの数の暴力に負けたSさんはしぶしぶそのトイレへと向かった。
Aさんらはトイレの前で待っていたのだが、なかなかSさんは帰って来ない。

「おっそーい。ちゃんとトイレに入っていったよね、あいつ?」
「うん。確かに入ってくとこは見たけど……」
「もう帰ろうか。もうすぐ先生も来そうだし、なんか聞かれたら面倒じゃん」

当時は携帯電話も普及しておらず、Sさんに連絡も取れないのでしょうがなくAさんらは帰ることにした。
下駄箱まで来ると、ちらっとSさんの方を確認する。
Sさんの下駄箱には上履きが無く、彼女の靴が残されていた。

「あいつのことだしビビッて上履きのまんま帰ったのかもね」
「わかる~。Sならやりそうだわ」
「ま、学校に残っていたとしても先生に帰れって言われたら帰るでしょ。ウチらのこと話す度胸なんて無いし、このまま帰ろうよ」
「さんせ~い」

そして彼女らはそのまま帰宅した。
Aさんは夕飯と入浴を終え寛いでいると、家の電話が鳴った。
ほどなくして母親がその電話に出た。

「はい……ああ、お世話になっております。はい……ちょっとA」
「なに?」
「アンタが入ってる部活の顧問の人から電話よ」
「はーい、今行くー」

Aさんは母親から受話器を受け取る。
その瞬間、突然声がした。

「ごめんなさい。違うんです」

電話の先の声は、女性だった。
顧問の声ではなかった。それどころかAさんの知るどの人間の声でもない。

「私、Sの母です」
「え?」
「そうでも言わないと代わってくれないと思って——うちの娘が帰ってないんですけど、知りませんか?」

Aさんは悟られぬように平然と答えた。

「いいえ。知りませんけど。ていうか、なんで私に電話してくるんですか?」
「娘が書いてる日記にあなたの名前が出て来て、いつも遊んでもらってるようだから」

Aさんは気づかれないと思っていた。
いじめる対象には大人に言いつけない弱気な奴を選んでいたからだ。
だがまさか日記に書かれたなんて……
それでもまだAさんは白を切り通した。

「……知りませんよ。そんな事」
「本当はいけないことなんですけどね、日記見るなんて、でも娘の日記みるとあなたや他の子の名前が出てね。特にあなたの名前が一番多く出てくるの。塾ももう終わる時間なのに帰って来ないんですよ。普通に電話してもあなたは代わってくれないかと思って顧問の先生の名前借りたんです。うちの娘が帰ってないんですけど、知りませんか?娘が書いてる日記にあなたの名前が出て来て、いつも遊んでもらってるようだから」

何回否定しても、Sさんの母親は問い続けてくる。
怒鳴ることもなく泣くことも無く、ただ淡々と同じ言葉を投げ続けられとうとうAさんも限界が来た。

「とにかく知りませんから!」

そう言って一方的に受話器を置いた。

「はー、なんなの。気持ち悪……」

Aさんはすぐさま自室に行こうとする。
だがしかし再び電話が鳴った。

「あれ?また顧問の先生かしら。なにか言い忘れたんじゃない?」

事情を知らない母親は、Aさんに電話に出るよう促す。
いじめのことを話すわけにもいかないので、適当に誤魔化すことにした。

「ご、ごめん。忙しいって言って!」
「そう、わかった」

電話に出る母親の様子を、こっそりAさんは覗いていた。
なにやらメモを取っている。

(なんなのよマジ……あいつ、お母さんに言ったらどうしよう……嫌だなぁもう、めんどくさいなぁ)

AさんはSさんの母親にいじめをバラされ自分の母親に叱責されることばかりを恐れていた。
だが、そうはならなかった。
電話を終えた母親は「部活の顧問の先生から用件を聞いた」といった体でAさんに話しかけた。

「先生があんたに伝えて欲しいって」
「そう。で……先生、なんて言ったの?」
「うん。なんかよく私には意味わかんないけど——紫だって」
「えっ?」
「顧問の先生がね、こう言ったの」

——伝えてください。紫だって。

それがSさんに科した無理難題の答えだと気づいた瞬間、Aさんは恐怖した。
寝室にこもっても眠れず、気が重いまま翌日登校した。

そしてまた信じられないものを見た。
Sさんが登校しているのだ。

「あ……おはよう」

まるで昨日はなにも無かったかのように、普段通りに挨拶をする。
Aさんと取り巻きたちもその様子に困惑していた。

「うわ、なんであいついるの?」
「普通に挨拶してんだけど」
「ウチらにビビッて学校来ないかと思ったけど、良い度胸してるよねー。ねえ、Aもそう思うでしょ?」
「う、うん」

どうやら取り巻きには例の電話が無かったらしく、ただSさんが何食わぬ顔で登校したことだけに触れていた。
そうしてそのまま昼休みになった。
普段ならAさんがSさんに色々と仕掛けるのだが、当のAさんはそれどころではない。
周りの取り巻きも、首謀者であるAさんがいかなければ動かないような人間であったので何も出来ずにいた。

「どうしたのA?元気ないの?なんかあった?」
「あ、うん。ちょっとね……」

昼休み後の五限目が移動教室であり、そこから教室に戻って六限目の授業に備えてノートを取り出した。

「え?」

Aさんは取り出したノートを開くと、ある文字を見た。
それは自分のものではない。
いじめていたSさんのものだ。
彼女の字で、こんなことが書かれていた。

「なにも聞かないってことは、聞いたってことだよね?」

怒りも無く、単なる確認のためのメモといったような書き方だった。
だがそれはAさんを追い込むには十分すぎる言葉だった。

それからAさんはほぼ不登校になった。
出席日数と中学校という事もありなんとか卒業は出来たが、色んな手続きが必要であり、その手続きを担当した人間が来た時になってやっとAさんはこの事を話すことが出来たという。
一方でSさんは普通に卒業し、頭がよかったので名高い進学校へと入学した。そこでは友人にも恵まれ楽しい生活を過ごしているそうだ。
以降のAさんについて詳細は知らないが「人生がぐちゃぐちゃ」になっていると知人は語っている。

この話がそんなAさんの妄想なのか、はたまた真実なのかは定かでない。

しかしこれだけは言える。
花子さんを利用するのは、よくない。

引用元:https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/719830326
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