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短編小説その12「マイ・スウィート…ゴースト?」

「うらめしや~、怖いですよ~」
「………」
 朝、目覚めると、僕の目の前に幽霊がいた。
 女の子だった。髪を左右の二箇所でリボンでまとめていて、ワンピースなんか着ている。足だけは一応なく、代わりにしっぽみたいに先の方が細くなっていたり、身体全体が青白くなってたりしているものの、その顔は見るからに自信なさげで、そのアンバランスさに、
 僕は耐え切れなかった。
「……は」
「は?」
 彼女がきょとん、として顔を覗き込んでくる。それが、決定打になった。
「あははははは!」
 僕は吹き出してしまった。たまらない。これは堪らない。とても我慢できるものじゃない。
「あははははは――怖いですよーって、自分で言ってるし、二つ結びでワンピースって、どんなハイカラな幽霊さんだよ、あははははは」
 そのままごろごろと部屋の中を転げまわった。幽霊は最初、それをぽかん、と呆気に取られた顔で見ていたけれど、突然思い出したように腰に手を当て、ぷんぷんと怒り出した。
「な、何なんですか! 幽霊なんですよ、幽霊。怖いんですよ? ほら、うらめしや~」
 幽霊さんは指を下に向けて、腕を突き出した――典型的なうらめしやポーズをした。その腕を何回も前に突き出しながら、強気に、
「……ほら、怖がって、怖がって!」
 しかし、強気な幽霊ほど怖くないものもないのでは? その妙ちくりんなポーズも見事に壷にはまり、僕は笑い続けた。それを見ている彼女は、最初は強気だったが、相変わらず僕が爆笑し続けているのでだんだんと声が小さくなっていき、最後は、
「……怖がって……怖がって、くださいよ~」
 と泣き出してしまった。
 まずい、やりすぎた。
 僕は気付き、慌てて跳ね起き、彼女の顔を正面から見て、
「……う、うん。怖いから。も、と~っても怖いから。だから、その、あのね、だから、その、な、泣かないでくれないかなぁ」
 と自分でもよくわからない慰め方をしていた。それを、溢れる涙を手で擦りながら聞いていた彼女は、ひっく、ひっくと嗚咽をもらした後、
「ほ……本当?」
 と自信なさそうに顔を見上げてきた。 ……う、その顔はかなり可愛いぞ。潤んだ瞳に訴えかけるような、子犬のような表情。まるで左右の髪もぴょんぴょん跳ねているようだった。……ていうか、実際跳ねてた。さすが幽霊、なんでもありだな。そんな風に感心してから、彼女の頭を優しく撫で、苦笑いを浮かべながら、
「う……うん、怖いから、もう泣くのは勘弁してくれないかな?」
 それを聞き、彼女は満足したように微笑むと、腰を手に当て、胸を張り、
「うーん……じゃあ、今日はしょうがないから勘弁してあげます」
 と自信満々に言った。
 ……は、はは。
 これが僕、水岸夏流(ミズキシ ナツル)と幽霊少女との出会いだった。

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