あのたび -トラブルと承認欲求-
シェムリアップを離れる前日に会った彼は深刻なトラブルに遭った様子であった。話を聞くと、タイから国境まで来たはいいが日が暮れて暗くなった。そこにいる現地人と交渉して街までピックアップトラックで運んでもらうことにした。
車中では多少なりとも英語ができたので仲良くなったと思っていた。街へ着く数十分前で車はなぜか道を折れ、暗い山道に入った所で停められた。そこで銃を突きつけられて全て出せと脅された。
命あってこそとされるがままになった。が、そのあとご丁寧に街までは送ってくれた。パスポートと10$は返してくれた。とりあえずの今夜の宿代ということだったようなので完全な悪人というわけではないらしい。信頼できそうだと思ったのに裏切られたその精神的ショックは大きかった。
彼はタケオゲストハウスで年配の日本人にお金を借りていた。帰国したら必ず返すと約束して。運もあるが旅にトラブルは付き物だ。可能ならば公共の交通機関を利用したほうが良い。
シェムリアップの最後の日に市場で帽子を買った。2$。野球帽のようなキャップ型ではなく麦わら帽子のようなハット型。首の後ろに照りつける日射しが強すぎて日中散歩が辛いからだ。
ボクは、あまり旅行者が通らないカンボジア北東部のストゥントレンからラオスへという国境越えをしてみようと考えた。ラオスとはベトナム・タイ・カンボジアに囲まれた内陸国で日本人はほとんど知らない。
村上春樹が『ラオスにはいったい何があるというんですか?』という本を出してようやく話題になったくらいだ。
はっきり言って行っても行かなくてもいい。ただ陸路を一筆書きのように移動して東南アジアの地図を塗りつぶしたかっただけなのだ。
マイナーなルートのため情報は乏しく不安が大きい。2003年当時はスマホもネットもなく移動も宿もごはんも歩き回って探すしか無い。
シェムリアップからストゥントレンへ直接いくバスはなく南部のコンポンチャムへまず行かなければならない。8$と言われたが人数が集まらず10$に値上げされた。コンポンチャムからストゥントレンへは翌朝に船7時半に船が出るとのことで、何もない町のメコンホテル5$で1泊。
翌朝のボートは15$と高いがエアコン付きで快適だった。途中の港に何度か立ち寄り荷物を載せたりおろしたりしながらストゥントレンに到着した。
SECONG HOTELの4$のWルームはキレイだった。焼き魚+おかゆ+シェイクなど3500Riel≒110円ほど。外国人が来ない観光地化されていない土地では安く美味しいものにありつける。ぼったくられることもないのは良い点だ。
そのまま北上しラオスへ向かっても良かったのだが、ストゥントレンのさらに東に陸の秘境といわれるバンルンという地があるという。ビザの日数も余っていたので行ってみた。
旅人あるあるで、誰も行っていない所やルートを通ってみたいという気持ちがむくむく湧いてくる時がある。この時のボクがまさにそのような精神状態で安心をとるより冒険をしてみたくなっていた。そして自分だけが見つけた良いものがあったら、他の旅人に『絶対行ったほうがいいよ』と紹介して自慢したいのだ。
それが旅人ならではの自己承認欲求の満たし方だった。
(つづく)
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