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漢字小説『愛(マナ)』

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日本から漢字の文化が終わりかける時、一人の若者が『光』の漢字と禁断の恋に落ちる。本格的なライトノベル寄りエンタメ小説!
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【小説】漢字小説『愛(マナ)』最終話『愛(マナ)』読了時間15分

【小説】漢字小説『愛(マナ)』最終話『愛(マナ)』読了時間15分

最終話『愛(マナ)』

 一か月後の十月中旬。「cana愛合同会議」がcanaのアジトで催された。

 場所は「さいたま新都心」にオープンしたばかりの高級ホテルだった。

 黒や茶、紺や深緑などシックな色調の絨毯が敷かれている。シャンデリアが燦然と室内を琥珀色に照らしていた。

 紅茶と、ちょっとしたケーキが各席に置かれていた。

 暖房もついているが窓はない。外から会議をみられるとまずいため、窓

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【小説】漢字小説『愛(マナ)』第七話『瓏(セピア)』読了時間10分

【小説】漢字小説『愛(マナ)』第七話『瓏(セピア)』読了時間10分

第七話『瓏(セピア)』

 ここは「愛」のアジトから徒歩一分の書楽にある中華料理屋。

 アジトのあるビルには、警察官が見張っていた。ひとりで行くと不法侵入になりそうで、怖くて近づけないでいると、「愛」の会員で、ボクが『老け顔の少女』とココロの中で呼んでいる女性会員と鉢合わせした。

「わたし、るけい。かとうるけい。おぼえてる?」

「加藤瓏景……

 あ。小学生のとき先生に瓏景の『る』の字をとつ

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【小説】漢字小説『愛(マナ)』第六話『嗜(アジ)』読了時間15分

【小説】漢字小説『愛(マナ)』第六話『嗜(アジ)』読了時間15分

第六話『嗜(アジ)』

 ボクが暮らしているのは埼玉県越谷市の民家だ。姉妹の談話に、ボクが話題をふりながら、越谷レイクタウンに到着した。越谷レイクタウンは、埼玉有数の大型ショッピングモールだ。

 黄色いアヒルの像が入口で歓迎してくれた。マスコットキャラクターのようだ。エスカレーターに乗り、踊り場的スペースから自動ドアで館内に入った。

「なに食べよっか? 中華、イタリアン、和食、海鮮、いろいろあ

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【小説】漢字小説『愛(マナ)』第五話『挑(バトン)』読了時間20分

【小説】漢字小説『愛(マナ)』第五話『挑(バトン)』読了時間20分

第五話『挑(バトン)』

 一週間後の翌朝。この日は嵐と呼べるほどに風が強かった。今日は「無料漢字塾」の記念すべき初回だ。

 自室の窓ガラスが暴風にあおられ、冷血な風の殴打におびえている。人間が冬に身体をこきざみにふるわせて、歯をカタカタ鳴らす様子を連想させる窓の音だ。

 風の強い日に人なんてやってくるのだろうか。誰ひとりこない気がする。待ちわびても無駄だ。スマホの動画でもみていよう。

 あ

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【小説】漢字小説『愛(マナ)』第四話『対(ドラマ)』読了時間15分

【小説】漢字小説『愛(マナ)』第四話『対(ドラマ)』読了時間15分

第四話『対(ドラマ)』

 猛獣たちが深い眠りにおち、赤緑の灯りが雪に射す最期の月、総理大臣が「大きく」変わり日本中で話題になった。

 画面越しにみたところ、ずいぶんと若々しかった。塩顔のイケメンだった。三十歳らしい。名は大渕翔。国民によるネット投票で選ばれたそうだ。若者の選挙離れと、若者が多数を占める国民からの期待のズレを埋めるために、インターネットで投票できるようになっていた。

 そういえ

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【小説】漢字小説『愛(マナ)』第三話『改(シンカ)』読了時間15分

【小説】漢字小説『愛(マナ)』第三話『改(シンカ)』読了時間15分

第三話『改(シンカ)』

 セミのけたたましい叫び声がスズムシの清音に変わるころ、相棒の漢字とともに平成を駆けぬけた少年のボクは成人した。

 平成がそろそろ終幕するらしい。元号が変わり平成が終わることにいまいち実感が湧かなかった。

 横にひらくシャッターの雨戸をあけて、窓の先へと目を飛ばした遠景のなかに越谷駅がある。中央には特大モニターがかまえていた。実家から見えるため、ある意味もうひとつのテ

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【小説】漢字小説『愛(マナ)』第一話『光(キザシ)』読了時間5分

【小説】漢字小説『愛(マナ)』第一話『光(キザシ)』読了時間5分

第一話『光(キザシ)』 
 
 切羽つまった表情で女の子がボクの机をのぞきこんでいた。目がはなれている。つやつやした蜜色の光彩には、まっしろにぬけたリング状のハイライトがある。中心には黒洞々とした瞳孔がただよっている。

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