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美容魂のカタマリ

私は美容が好きで、若い頃から顔に色んなクリームやパックを塗りたくり、美容の本を読み漁り、プロのメイクアップアーティストにメイクをしてもらったり、コスメカウンターで試供品をもらっては使用前後の様子を記録して、必要なアイテムを把握し、カウンターのお姉さんが「私のアドバイスいらないんじゃないかしら…💦」と焦らせてしまうほど、美容魂のカタマリであった。

また、匂いにもうるさいため、カウンターのお姉さんがいない隙にあらゆるアイテムの匂いを嗅ぎ(いても嗅いでいたな…)これは質感は最高だけど匂いがちょっと…というものを覚えて、お姉さんにすすめられるままに買わないガンコな美容魂のカタマリだった。

好きこそものの上手なれですね。

美容魂のカタマリはある日、失恋をして一切の美容をしなくなる。

起きて仕事をして帰って寝る、これをやるのに精一杯だった。
休日なんて最悪だった。
早く時間が過ぎてほしいのに、やることがない。
空虚で退屈で無気力で、どうしたら良いのか…。
みんな今頃リア充なの?
私はなんでこんなにむなしいの?
私だけが、惨めな気がするよ…

無気力なまま生きていたある日のこと。
西武池袋のコスメフロアを歩いていたとき。

私は駅まで行くショートカットのつもりでそのフロアを歩いていた。何も買うつもりもなく、見るつもりもなく。

そんな綺麗に細工して何の得があるの?とやさぐれていた。

無気力に歩いていると、イブサンローランのカウンターの女性に声をかけられた。
年配の気の強そうな、デヴィ夫人みたいな、派手なビジュアルの女の人。

「ちょっと、あなた。お顔を見せて下さい。あら…おでこを触らせて下さい。お手入れはされていますか?あまりされていないですね?お時間あります?」

私は、はい…となんとなく言われるがままに座った。

この女性、私は今でも忘れられない。

見た目がドラァグクイーンのようなド派手なメイクなのに、ものすごく丁寧な敬語で「あなたの年齢ならこのようなお手入れをするのですよ、皮膚がとても固くなっているから気長にやるんです。高いものをわざわざ使わなくてもいいのです。皮膚が正常に戻ったらパックやピーリングをしましょう」と具体的なアドバイスをしてくれ、いくつかの試供品をくれた。

私の顔を触り、「こことここ、特に念入りに。力は入れないで優しくマッサージして下さい」と教えてくれた。
また、自分の顔を触らせて「正常な皮膚はこれくらい弾力があります。見た目ではなく、触らないと分からないものです」と言った。
私は人の肌に直接触れたことがあまりないから、少しドキっとしたが、ドラァグクイーンの肌は本当に柔らかくてプニプニしていた。

イブサンローランの高級ラインのアイテムを見ていると、とても悲しくなってきた。
私がいる場所じゃないのにな。
こんな高いの買えないし、買ったところで…。

その女性は「使ってみたいものはありますか?」と聞いてきたので、私は「この美白スポットパックが気になります、でも私が使っていいものかどうか?今の肌はとても汚いし」と答えた。
女性は無言で引き出しを開け、「これね、サンプルです。6個で現品と同じ量が入ってます。どうぞ持っていって下さい」と10個くらいのサンプルをくれた。

何も買わないから恥ずかしいし気まずいので、お礼を言い帰ろうとしたら、

「綺麗にしておいた方がいいですよ、あなたは。毎日コツコツとやるんです」

私はグサっとくるものがあった。
はい、と返事をして歩き出したら

「分からなかったらまた来て下さい、ぜひ綺麗にして下さい」

と後ろから声をかけられた。

その夜、もらった美白パックをした。

いい香り、いい時間。
私を大切にしているような気分。

あれからちょくちょくあのカウンターに行ってみたが、ドラァグクイーンの人はいなかった。

あの人、私にとって大天使と同じ。

あの人に会ってから、美容魂再来したもの。

ただ美容部員としての接遇だったとしても、私にとっては特別な時間だった。

また会いたいな。

一度しか会ったことがないのに、不思議なものだ。

あの大天使は、私が美容魂のカタマリってことを見抜いたのかな?









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