石丸伸二が奏でる令和日本のヒルビリーエレジー
プロローグ
さて都知事選で2位に入った石丸伸二氏、若い人の支持が多かったせいか、高齢の方からこんな指摘が来ています。言ってみれば「自分さえよければよい若者が(決してそうではないが)自分たちの仲間と言うメンタリティで投票した」と言った感じでしょうか?
ちなみに私は上の様に考えています。要はメディアが取り上げる主要候補になる事で「小池知事は嫌だが蓮舫氏も嫌い」と言う決して小さくはない票田を掘り起こしたというのが大きい。
そしてこの主要候補が実質現職の小池知事と蓮舫氏しかいないこのタイミングを選んだ石丸氏は強かだなぁと言うのが個人的な感想です。
石丸氏を支持したコアな支持層は誰か
とは言え、これだけのムーブメントを起こした石丸伸二氏、その支持層は「小池知事も蓮舫氏も嫌い」と言う人や「自分さえよければよい若者が(決してそうではないが)自分たちの仲間と言うメンタリティで投票した」人たちだけではないはずです。ここでは私なりに石丸伸二のコアな支持層について考察していきます。
note界隈では白饅頭の名前でも知られる御田寺圭氏が石丸氏の支持層が10~30代の若年層であり、40代以上の中高年層がそれを理解できないと書いています。中立的な書き方をしていますが、御田寺氏が30代と考えると彼自身が熱心な支持者と取れるのではないでしょうか?
嫌らしいやり方ですが御田寺氏の経歴を見ると上の様になります。必ずしも恵まれたとは言えない環境の中、苦労して故郷から遠く離れた大都市東京の名門慶應義塾大学に進学し苦労しながら這い上がって今のポジションを得たといったところでしょうか。
また御田寺氏と同様に苦労して大都市東京の早稲田大学に進学し苦労して這い上がった経歴を持つ元大阪市長、大阪府知事の橋下徹氏も同様に石丸氏を評価しているのも興味深いです。言ってみれば御田寺氏や橋下氏のように東京以外の地域から苦労して東京に出てきて悪戦苦闘している若い世代、それが石丸氏を支持する若い世代の中核にいる層ではないかと思います。
指定校推薦と女子枠持たざる地方民には都会の金持ちの半分しか入口が与えられない名門大学の不公平性
そしてそんな彼らにとって今の40代以上に比べて「東京の名門大学に入って一旗揚げる」道は年々厳しくなっています。上は大学評論家の山内太一氏による記事ですが、名門私大である早稲田大学政治経済学部では1/3以上が付属校からの内部進学、残り2/3のうち、2割近くが有力進学校を中心に与えられる指定校推薦で埋められ、勉強すれば何とかなる一般受験で入れるのは半分未満、言うなれば付属校か中高一貫校を中心とした有力進学校へ進学できる環境にない持たざる高校生はそうでないに比べて名門私立大学に用意された席が半分未満となってしまっているのです。そう考えると御田寺氏や橋下氏の後輩にあたる彼らにとって進めば進むほど持つ者との差を見せつけられる地獄に感じられるのではないでしょうか?
そしてその前提で石丸氏の出身校である広島県立祇園北高校を見ると早慶への進学者がいない=指定校推薦のない高校であることが見て取れます。石丸氏の出身地は言うまでもなく広島市でない安芸高田市であることを考えると通える範囲で最も進学に強い学校を選んだ上で尚、早慶から指定校推薦の来ない学校しか選択できなかった持たざるものであったことが見て取れます。その不利な状況下で名門京都大学へ進学し名門企業三菱UFJ銀行へ入り、故郷安芸高田で市長として奮戦した石丸氏はそれだけでも立志伝中の英雄、絶望の暗黒に差し込んだ一筋の光ととる若い人がいても不思議ではないと思います。
そして現在国立大学でも女子枠と言う形で差別的な対応が進んでいます。一見男性だけが割を食うように思えますが、こういった入試に対応できる有力校以外の女性にとっても縁のない話であり平等な試験を行っていたはずの国立大学でも段々持たざるものを排除していく事が実感されていくと思います。石丸氏が「女子供でも容赦しない」と言って批判を浴びましたが彼からしてみれば恵まれた女性にそれを言っても支持層は離れない、むしろ批判されればされるほどむしろコアな支持層は称賛してくれるという判断ではないかと思います。
地域の未来を担う子供たちへの投資を優先する~石丸氏の正義~
石丸氏の政策と言うと意外にあいまいなイメージのある方が多いと思います。ただ興味深いのは少子化対策で知られる明石市元市長泉房穂氏との対談で小学校の給食無償化を前面に押し出して来た事です。阪神大都市圏のベッドタウンとして人口流入が続き20万人以上の人口がある明石市と比べると人口が1/10の安芸高田市少子化対策のプログラムが充実しているとは思えないです。ただこの議論を見ると小学校の給食無償化は石丸氏にとって自分の看板として誇るべき政策と言う風にはとれないでしょうか?
実際安芸高田の地元の地方局による市民へのインタビューでは教育長が「感謝しかありません」「子供たち、教職員が学校での教育活動がやりやすい形へ投資をしていただいた」としみじみと話しているのが印象に残ります。言うなれば「地域の未来を担う子供たちへの投資を優先する」と言うのが彼の政策、と言うよりもある種の正義という事であり、あれだけ揉めて反発された安芸高田市でもそれ自体は共有された事実なのではないかと思います。
決して大きくは出来ないが無視すべきでない石丸氏のコア支持層
こうしてみると御田寺氏の書いた上の言葉の意味合いは重い意味合いを持っているように感じます。言うなれば自分たちの活躍できる場所を地元に用意できず、かといって都会に出ていくための障壁が増えていくのを放置していた年長者への恨みつらみは彼らにとって大きいのでしょう。
ただ一方で御田寺氏の様な「東京以外から東京に進出してくる」若者は東京の若者の中でもマジョリティとは言い難いのも確かです。それでも東京と言う大都市は首都圏以外から様々な理由で若者たちが集まり盛り上がってきた都市です。その彼らのつらさを軽視し続けることは東京と言う都市にとって良い事とは思えません。
実際地方のエリート層にとって段々東京と言う街の魅力は落ちているのかもしれません。上は群馬県1の進学校であり、終戦時の首相鈴木貫太郎氏や反原発運動家高木仁三郎、コピーライターの糸井重里氏の母校としても知られる県立前橋高校の2023年の難関大学合格者数です。驚くことに東大よりも京大の合格者が多いことがわかります。ここからは読み取れませんが東北大学への合格者も13人となっていて、言うなれば群馬県のトップエリート高校生争奪戦で東京は京都仙台の後塵を拝しているとすら言えるのかもしれません。
日本のヒルビリーエレジーとしての石丸伸二と226事件
今回の都知事選での石丸氏の健闘、それは日本におけるヒルビリー・エレジーなのかもしれません。当たり前ですが石丸氏の両親が薬物中毒やDVを行ったというわけではありません。しかし地方に住む持たざる若者が都会の持つ若者の半分にも満たない僅かな大学入試の定員を頼りに東京と言う大都市の大学に進学し立身出世を目指していく物語、その物語のエネルギーが165万人の有権者たちを動かしたのかもしれません。
そしてもう1つ思い出されるのは、226事件、良く太平洋戦争を「軍部が暴走して」と言いますがこの事件は暴走の大きなきっかけとなったクーデター未遂事件です。背景には世界恐慌と金解禁の無理な強行をきっかけとした東北地方を中心とした農・漁村の疲弊があり、そこから入営してくる兵隊たちと直に接する青年将校たちが彼らの窮状を改善していきたいという切なる思いと、既存の政治がそれを受け止められなかったと言う事があります。そう言った意味ではやはりこの165万票の存在は軽視するべきではないし、それは先の戦争の反省を踏まえる知性があるなら当然考えるべきことではないかと思います。
ただゆえに私は彼を支持できない、それも確かです。彼が市長を務めていた安芸高田市では地元のバス会社は運転手不足に苦しみ、鉄道は大きく赤字で現在今後についての話し合いを行っている真っ最中です。その状況を放り投げて都知事選挙に出馬するというのは彼が未来の為に様々な対立を経て投資した子供たちの未来に大きな影を落としかねません。石丸氏はこれらの鉄道・バスを利用して曲がりなりにも自宅から進学校であった祇園北高校に進学できましたが、安芸高田の今の小学生達が高校受験の際にはその選択肢は残っているのでしょうか?それでも石丸氏が165万もの得票を得られたのは、少なくとも現状の政治に不満を持つ層をきちんと発見し、そして彼らに伝わる言葉できちんと投げかけていたからで、それは軽視してはいけないのは言うまでもありません。
まとめ
まとめに入ります。
・石丸伸二氏のある意味でコアな支持層は御田寺圭氏や橋下徹氏の様な首都圏以外から上京し、悪戦苦闘している若い世代と言うのが私なりの考察です。
・彼らは所謂私立大学の付属校や名門進学校に与えられる指定校推薦、上京するための受験の段階で都会の有力進学校等に進学できる持てる層に比べて、半分以下の枠しか用意されずその枠は年々狭まり持たざる者にとって地獄となっています。
・また最近では国立大学で女性向けの推薦入試が導入されたことを考えると持てる女性アイドル(首都圏出身慶応卒)に対して「女子供でも容赦しない」と言ったのはコアの支持層としては賞賛しているのかもしれません。
・そんな年々苦しくなる中、努力して有名大学を卒業し、一流企業で活躍し、若き市長として、故郷の再生に奮闘した石丸氏は英雄です。
・石丸氏の明確な政策は「財政を再建して新しい若い世代に投資する事」でであり、それは彼を決して評価していないであろう安芸高田でも現場の教育長をはじめ一定の評価がなされています。
・そして彼の活躍の物語は令和日本のヒルビリーエレジーであり、過去には226事件に象徴されるように地方の持たざる者たちの不満を政治が放置した事がある種軍国主義の蔓延を招いただけに無視すべきものではないです。
あくまで上は私個人の考察ですが「石丸支持者は馬鹿だ」と言うよりも石丸氏を支持する人たちの背景は何か、そして支持する人たちは何を考えているかは謙虚に受け止める必要があるのではないでしょうか?
おまけ~1998年の安芸高田をヒルビリーにしたもの総合選抜と言う理不尽~
さて今回も有料記事にするのでおまけを書きます。それは何故石丸氏が祇園北高校を受ける事にしたのかと言う私なりの考察です。先に結論を書けば総合選抜解消1年目だった事が大きいです。
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