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石丸伸二が奏でる令和日本のヒルビリーエレジー


プロローグ

さて都知事選で2位に入った石丸伸二氏、若い人の支持が多かったせいか、高齢の方からこんな指摘が来ています。言ってみれば「自分さえよければよい若者が(決してそうではないが)自分たちの仲間と言うメンタリティで投票した」と言った感じでしょうか?

主要候補が

小池百合子氏、蓮舫氏、石丸信二氏、田母神俊雄氏

の4人となった際に小池氏、蓮舫氏どちらもヤダとなった際に自動的に石丸氏に票が向かう事となったそれが石丸氏がここまで票を伸ばした一番の要因と考えています。

つれづれなるままに : 高橋しょうごの言葉を思い出す選挙~都知事選2024に思う~ (livedoor.jp)より

ちなみに私は上の様に考えています。要はメディアが取り上げる主要候補になる事で「小池知事は嫌だが蓮舫氏も嫌い」と言う決して小さくはない票田を掘り起こしたというのが大きい。

そしてこの主要候補が実質現職の小池知事と蓮舫氏しかいないこのタイミングを選んだ石丸氏は強かだなぁと言うのが個人的な感想です。

石丸氏を支持したコアな支持層は誰か

とは言え、これだけのムーブメントを起こした石丸伸二氏、その支持層は「小池知事も蓮舫氏も嫌い」と言う人や「自分さえよければよい若者が(決してそうではないが)自分たちの仲間と言うメンタリティで投票した」人たちだけではないはずです。ここでは私なりに石丸伸二のコアな支持層について考察していきます。

いきなり結論から言ってしまうと、今回の都知事選の「石丸フィーバー」を支えたのは間違いなく10代~30代の若年層である。

逆に蓮舫氏は、立憲民主党と日本共産党の主たる支持層であるシニア世代の支持を固めた。データでみるとその差は歴然で、報道各社の出口調査を見ると10代・20代・30代では石丸氏が投票先としてもっとも多く、これらの世代における蓮舫氏の得票(支持)はかなり小さいことがわかる。~中略~
しかしながら、いまやアクティブな情報発信や意見交換を行うユーザーをもっぱら中高年層が占めるXを観察してみると、10~30代が石丸氏を熱烈に支持していることについて、理解がまったく及ばない人が多いようだった。

40代以上はなぜ「石丸伸二」を「理解できない、大嫌い」なのか?若者不在の「オールドメディア」と化した「ネットとX」の限界(御田寺 圭) | 現代ビジネス | 講談社(1/6) (gendai.media)より

note界隈では白饅頭の名前でも知られる御田寺圭氏が石丸氏の支持層が10~30代の若年層であり、40代以上の中高年層がそれを理解できないと書いています。中立的な書き方をしていますが、御田寺氏が30代と考えると彼自身が熱心な支持者と取れるのではないでしょうか?

彼と私は同じ神戸出身でも、まあ私は別に富裕層出身ってわけじゃあ全然ないですが貧困層でもない一方で、彼は相当苦労してきた界隈の出身らしいので。

スタジオジブリの雑誌『熱風』の記事で、御田寺圭a.k.a”白饅頭”氏と対談してきました。|倉本圭造 (note.com)より

白饅頭は慶應義塾大学の文学部出身である。

白饅頭ノートの率直な感想② - aisa375のブログ (hatenablog.com)より

嫌らしいやり方ですが御田寺氏の経歴を見ると上の様になります。必ずしも恵まれたとは言えない環境の中、苦労して故郷から遠く離れた大都市東京の名門慶應義塾大学に進学し苦労しながら這い上がって今のポジションを得たといったところでしょうか。

橋下氏は石丸氏を「すごい」と思う理由として、165万票を投票所に行って投票させることの大変さを挙げた。自身の大阪府知事選の際は、テレビ出演を通して顔も知られた上で、自民・公明からの応援もあって180万票と振り返り、「彼は組織も何の応援もなく、テレビに出てたわけでもなく、これで165万票はホントにすごい」と絶賛した。

橋下徹氏、石丸伸二氏の165万票は「ホントにすごい」 自身の180万票と比較「彼は組織も何の応援もなく」 | ENCOUNTより

また御田寺氏と同様に苦労して大都市東京の早稲田大学に進学し苦労して這い上がった経歴を持つ元大阪市長、大阪府知事の橋下徹氏も同様に石丸氏を評価しているのも興味深いです。言ってみれば御田寺氏や橋下氏のように東京以外の地域から苦労して東京に出てきて悪戦苦闘している若い世代、それが石丸氏を支持する若い世代の中核にいる層ではないかと思います。

指定校推薦と女子枠持たざる地方民には都会の金持ちの半分しか入口が与えられない名門大学の不公平性

例えば、最難関私大の早稲田大学政治経済学部でも、入学者827人のうち共通テストや一般選抜では393名しか入学していない。付属校などから289人、指定校推薦で97人も入学しており、一般入学者は半数を切っているのである。~中略~
こうした文脈から推察するに、早稲田が学生に求めている多様性とは「日本全国から幅広く」とか「親の所得の多寡に関係なく」ということよりも、そつなく勉強をこなす附属出身の秀才や海外経験豊富な帰国子女といった「エリートたちの多様性」であることがうかがえる

早慶上智も半数近くは推薦入学、年明けの一般選抜枠は減少の一途 名門私大“受験”のヤマ場、「高3の冬」には過ぎている(2/5) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)より

そしてそんな彼らにとって今の40代以上に比べて「東京の名門大学に入って一旗揚げる」道は年々厳しくなっています。上は大学評論家の山内太一氏による記事ですが、名門私大である早稲田大学政治経済学部では1/3以上が付属校からの内部進学、残り2/3のうち、2割近くが有力進学校を中心に与えられる指定校推薦で埋められ、勉強すれば何とかなる一般受験で入れるのは半分未満、言うなれば付属校か中高一貫校を中心とした有力進学校へ進学できる環境にない持たざる高校生はそうでないに比べて名門私立大学に用意された席が半分未満となってしまっているのです。そう考えると御田寺氏や橋下氏の後輩にあたる彼らにとって進めば進むほど持つ者との差を見せつけられる地獄に感じられるのではないでしょうか?

https://www.minkou.jp/hischool/school/university/3845/より

そしてその前提で石丸氏の出身校である広島県立祇園北高校を見ると早慶への進学者がいない=指定校推薦のない高校であることが見て取れます。石丸氏の出身地は言うまでもなく広島市でない安芸高田市であることを考えると通える範囲で最も進学に強い学校を選んだ上で尚、早慶から指定校推薦の来ない学校しか選択できなかった持たざるものであったことが見て取れます。その不利な状況下で名門京都大学へ進学し名門企業三菱UFJ銀行へ入り、故郷安芸高田で市長として奮戦した石丸氏はそれだけでも立志伝中の英雄、絶望の暗黒に差し込んだ一筋の光ととる若い人がいても不思議ではないと思います。

東京工業大は、今春の入試で58人だった「女子枠」を来春の入試で2・6倍の149人に拡大することを、9日公表の募集要項で明らかにした。

東工大、来春の入試で「女子枠」149人に 今春の58人から大幅増:朝日新聞デジタル (asahi.com)より

そして現在国立大学でも女子枠と言う形で差別的な対応が進んでいます。一見男性だけが割を食うように思えますが、こういった入試に対応できる有力校以外の女性にとっても縁のない話であり平等な試験を行っていたはずの国立大学でも段々持たざるものを排除していく事が実感されていくと思います。石丸氏が「女子供でも容赦しない」と言って批判を浴びましたが彼からしてみれば恵まれた女性にそれを言っても支持層は離れない、むしろ批判されればされるほどむしろコアな支持層は称賛してくれるという判断ではないかと思います。

地域の未来を担う子供たちへの投資を優先する~石丸氏の正義~

石丸氏が泉氏を意識して「安芸高田市の子育て支援はそんなに明石市と遜色がない」と発言したのが発端。泉氏はこの発言に「全然違いますよ。それはデマですよ」と激しく反応。石丸氏も声が大きくなった泉氏の剣幕に苦笑いしながら「明石市は給食費を無償化されてます?」と聞いた。すると泉氏は「うちは医療費も児童手当も保育料もやってますよ、給食費だけで自慢されても」と返答。すると石丸氏は「小中学校ではやってないですよね?」と質問。泉氏は「うちは中学校はやってます」と話した。

石丸伸二氏「子育て支援」巡り泉房穂氏と大激論! 東京一極集中是正しないと「行き着く先は地獄」― スポニチ Sponichi Annex 芸能より

石丸氏の政策と言うと意外にあいまいなイメージのある方が多いと思います。ただ興味深いのは少子化対策で知られる明石市元市長泉房穂氏との対談で小学校の給食無償化を前面に押し出して来た事です。阪神大都市圏のベッドタウンとして人口流入が続き20万人以上の人口がある明石市と比べると人口が1/10の安芸高田市少子化対策のプログラムが充実しているとは思えないです。ただこの議論を見ると小学校の給食無償化は石丸氏にとって自分の看板として誇るべき政策と言う風にはとれないでしょうか?

石丸市制4年間の評価という事ですが、私の立場でいいますと感謝しかありません。~中略~
様々な形で子供たち、教職員が学校での教育活動がやりやすい形へ投資をしていただいた

石丸市政の4年間と安芸高田市の未来についてどう思いますか?|市民・議員・新市長に1分間ノーカットで話してもらいます - YouTube 25:10辺りより

実際安芸高田の地元の地方局による市民へのインタビューでは教育長が「感謝しかありません」「子供たち、教職員が学校での教育活動がやりやすい形へ投資をしていただいた」としみじみと話しているのが印象に残ります。言うなれば「地域の未来を担う子供たちへの投資を優先する」と言うのが彼の政策、と言うよりもある種の正義という事であり、あれだけ揉めて反発された安芸高田市でもそれ自体は共有された事実なのではないかと思います。

決して大きくは出来ないが無視すべきでない石丸氏のコア支持層

YouTubeショートやTikTokで見る石丸伸二は、Xのコンテクストとはまったく異なっている。「だらけきったシニアに牛耳られた日本の古い政治体制・既得権益に、果敢にも風穴を開ける若き俊英」のように見えるし、そしてなにより、石丸氏と対立して紛糾する議会や議員たちの様子は「既得権益側の年寄りたちが、志ある若者を妨害している」という、現代の日本社会のある種の“メタファー”のようにも見えてしまうのである

40代以上はなぜ「石丸伸二」を「理解できない、大嫌い」なのか?若者不在の「オールドメディア」と化した「ネットとX」の限界(御田寺 圭) | 現代ビジネス | 講談社(4/6) (gendai.media)より

こうしてみると御田寺氏の書いた上の言葉の意味合いは重い意味合いを持っているように感じます。言うなれば自分たちの活躍できる場所を地元に用意できず、かといって都会に出ていくための障壁が増えていくのを放置していた年長者への恨みつらみは彼らにとって大きいのでしょう。

 実際、早稲田大学の入学者は首都圏1都3県の高校出身者が8割を占め、地方出身者の割合は激減している。他の首都圏の難関大も同様の傾向にある。それでも指定校や共通テストで地方にも目を配っていると大学側は主張しており、これが首都圏の難関私大の考える「公平な入試」のようだ。

早慶上智も半数近くは推薦入学、年明けの一般選抜枠は減少の一途 名門私大“受験”のヤマ場、「高3の冬」には過ぎている(2/5) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)より

ただ一方で御田寺氏の様な「東京以外から東京に進出してくる」若者は東京の若者の中でもマジョリティとは言い難いのも確かです。それでも東京と言う大都市は首都圏以外から様々な理由で若者たちが集まり盛り上がってきた都市です。その彼らのつらさを軽視し続けることは東京と言う都市にとって良い事とは思えません。

https://www.minkou.jp/hischool/school/university/1703/  より

実際地方のエリート層にとって段々東京と言う街の魅力は落ちているのかもしれません。上は群馬県1の進学校であり、終戦時の首相鈴木貫太郎氏や反原発運動家高木仁三郎、コピーライターの糸井重里氏の母校としても知られる県立前橋高校の2023年の難関大学合格者数です。驚くことに東大よりも京大の合格者が多いことがわかります。ここからは読み取れませんが東北大学への合格者も13人となっていて、言うなれば群馬県のトップエリート高校生争奪戦で東京は京都仙台の後塵を拝しているとすら言えるのかもしれません。

日本のヒルビリーエレジーとしての石丸伸二と226事件

いわずと知れたトランプの副大統領候補、J・D・ヴァンスの自伝映画。~中略~
「レッドネック」と蔑称される、中西部の貧しく無学な白人たち。
その環境のなかで、ちょっとデブのガキ、J・D・ヴァンスが、苦闘の末、名門イェール大学ロースクールを卒業するまでを描いている。
母親は、シングルマザーで、苦労してJ・Dを育てる。だが、貧しく報われない生活から薬物中毒となり、J・Dにも暴力を振るうようになる。~中略~
最後、薬中でボロボロになった母親が、大学卒業目前のJ・Dの手を握り、「私とずっと一緒にいて」と懇願する。
だが、そのとき、J・Dは、法律事務所での重要な就職面接をひかえていた。

【Netflix】「ヒルビリー・エレジー」トランプ人気を理解する鍵「白人貧困層」を描く 副大統領候補の自伝映画|柿生隠者(かきお・いんじゃ) (note.com)より

今回の都知事選での石丸氏の健闘、それは日本におけるヒルビリー・エレジーなのかもしれません。当たり前ですが石丸氏の両親が薬物中毒やDVを行ったというわけではありません。しかし地方に住む持たざる若者が都会の持つ若者の半分にも満たない僅かな大学入試の定員を頼りに東京と言う大都市の大学に進学し立身出世を目指していく物語、その物語のエネルギーが165万人の有権者たちを動かしたのかもしれません。

隊付将校が政治的な思想を持つに至った背景の一つには、当時の農村漁村の窮状がある。隊付将校は、徴兵によって農村漁村から入営してくる兵たちと直に接する立場であるがゆえに、その実家の窮状を知り、憂国の念を抱いた。~中略~
また、1933年(昭和8年)11月偕行社(陸軍の将校クラブ)で皇道派・統制派の両派の中心人物が集まって会談した際、統制派の武藤章らが「青年将校は勝手に政治運動をするな。お前らの考えている国家の改造や革新は、自分たちが省部の中心になってやっていくからやめろ」と主張した際、青年将校たちはこう反駁した。「あなた方陸大出身のエリートには農山村漁村の本当の苦しみは判らない。それは自分たち、兵隊と日夜訓練している者だけに判るのだ

二・二六事件 - Wikipediaより

そしてもう1つ思い出されるのは、226事件、良く太平洋戦争を「軍部が暴走して」と言いますがこの事件は暴走の大きなきっかけとなったクーデター未遂事件です。背景には世界恐慌と金解禁の無理な強行をきっかけとした東北地方を中心とした農・漁村の疲弊があり、そこから入営してくる兵隊たちと直に接する青年将校たちが彼らの窮状を改善していきたいという切なる思いと、既存の政治がそれを受け止められなかったと言う事があります。そう言った意味ではやはりこの165万票の存在は軽視するべきではないし、それは先の戦争の反省を踏まえる知性があるなら当然考えるべきことではないかと思います。

芸備線各区間の経営状況@芸備線再構築協議会の協議体制について@中国運輸局2024/3/26より

ただゆえに私は彼を支持できない、それも確かです。彼が市長を務めていた安芸高田市では地元のバス会社は運転手不足に苦しみ、鉄道は大きく赤字で現在今後についての話し合いを行っている真っ最中です。その状況を放り投げて都知事選挙に出馬するというのは彼が未来の為に様々な対立を経て投資した子供たちの未来に大きな影を落としかねません石丸氏はこれらの鉄道・バスを利用して曲がりなりにも自宅から進学校であった祇園北高校に進学できましたが、安芸高田の今の小学生達が高校受験の際にはその選択肢は残っているのでしょうか?それでも石丸氏が165万もの得票を得られたのは、少なくとも現状の政治に不満を持つ層をきちんと発見し、そして彼らに伝わる言葉できちんと投げかけていたからで、それは軽視してはいけないのは言うまでもありません。

まとめ

まとめに入ります。
・石丸伸二氏のある意味でコアな支持層は御田寺圭氏や橋下徹氏の様な首都圏以外から上京し、悪戦苦闘している若い世代と言うのが私なりの考察です。
・彼らは所謂私立大学の付属校や名門進学校に与えられる指定校推薦、上京するための受験の段階で都会の有力進学校等に進学できる持てる層に比べて、半分以下の枠しか用意されずその枠は年々狭まり持たざる者にとって地獄となっています
・また最近では国立大学で女性向けの推薦入試が導入されたことを考えると持てる女性アイドル(首都圏出身慶応卒)に対して「女子供でも容赦しない」と言ったのはコアの支持層としては賞賛しているのかもしれません。
・そんな年々苦しくなる中、努力して有名大学を卒業し、一流企業で活躍し、若き市長として、故郷の再生に奮闘した石丸氏は英雄です。
・石丸氏の明確な政策は「財政を再建して新しい若い世代に投資する事」でであり、それは彼を決して評価していないであろう安芸高田でも現場の教育長をはじめ一定の評価がなされています
・そして彼の活躍の物語は令和日本のヒルビリーエレジーであり、過去には226事件に象徴されるように地方の持たざる者たちの不満を政治が放置した事がある種軍国主義の蔓延を招いただけに無視すべきものではないです。

あくまで上は私個人の考察ですが「石丸支持者は馬鹿だ」と言うよりも石丸氏を支持する人たちの背景は何か、そして支持する人たちは何を考えているかは謙虚に受け止める必要があるのではないでしょうか

おまけ~1998年の安芸高田をヒルビリーにしたもの総合選抜と言う理不尽~

さて今回も有料記事にするのでおまけを書きます。それは何故石丸氏が祇園北高校を受ける事にしたのかと言う私なりの考察です。先に結論を書けば総合選抜解消1年目だった事が大きいです。

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