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②最終話 離婚後の「結婚記念日」
「次はいけると思った」
妻と結婚生活を始めてから、家には続々と健康食品や、美容グッズが届くようになった。
よくわからない酵素のカプセルや、手軽に運動ができるダイエット器具などが定期的に家に届く。
最初は少し驚いたが、妻の趣味なのであれば、それは自由にやってくれればかまわない。と、思っていた。
しかし、妻は何かを始めても、すぐに効果が出ないと商品に文句を言い始める。すると、いずれその商品は、部屋の片隅へと追いやられ、忘れ去られていった。
妻の良いところは、新しいもの・興味のあるものに、積極的に行動をしていけるところだと思っている。反面、妻の心配なところは、表面上の言葉を素直に信じやすく、深く考えずに勢いに任せて行動してしまう点だ。そのうえ、飽きやすい一面もある。
「テレビや雑誌に書かれていることは、だいたい嘘だよ」
「もし、本当だとしても、最後までやり続けないと結果は出ないよ」
「表面上の道具や環境だけ変えても効果ない。自分自身が変わらないと」
結婚生活をしてから時間も経つと、私もさすがに口を出した。
それでも彼女は「いつか自分に合うものと出会える」と信じて、次々と新しいものにチャレンジをしていく。
もしも、そのチャレンジが彼女の管轄内で収まっているのであれば、私も温かい目で見守っているのだが、彼女は「お金が無い」というわりに、このような行動をずっと繰り返している。
いつも家には、健康食品などの、支払い通知・督促状が送られてきていた。
自分の行動が、自分にだけ不利益をもたらすのであればかまわないが、他人や周りに迷惑をかけてしまうのは、私の価値観では、許容できる範囲ではなかった。誰かに支えられて得る自由は、ただの甘えだと思っている。
妻を再び傷つけた日から、数日たった。
その後、二人の関係は、表面上は変わらないように見えていたが、どうしても超えられない壁のようなものができたと私は感じていた。
仕事が忙しくなってきたので、私が先に寝てしまう日も増えた。ただ、それでも私が対応できる限り、一緒の時間を作った。必要がある時には、妻を車で迎えに行くこともあったし、ご飯を食べる時間もなるべく合わせるようにした。
ある日、私は妻のために朝食を作りながら考えていた。
最高のパンに、ヨーグルトに、ハチミツに、紅茶に、ウインナーに目玉焼き。
去っていく妻のために、ここ最近は、なるべく良い素材を用意するようにしている。
これらを同時に食卓に出すには、なかなか複雑な作業が必要だ。
お湯を沸かしたあとに、ポットとカップを温め、茶葉を入れた後には、ポットを蒸らす。パンをスライスしトースターに入れると、フライパンに火をつけ、タマゴとウインナーに火を通す。
見事なモーニングセットの完成だ。
どこからどうみても、幸せにあふれている。
私たちには、いったい、何が足りなかったんだろう?
心配していた新居の審査も、無事通った。
あの日から、妻もここに長くはいられない。いるべきではないと思ったのか、今まで以上にテキパキと行動するようになった。
自分で新居の家具・家電を選び、新しいスタートに向けて、張り切っている。妻は、聞いていないように見えて、いつも彼女なりに私の話を一生懸命聞いていてくれた。
こういうところが好きだったな。と、ふと懐かしさを感じる。
ゆっくりだけど、でも、確実に彼女は成長していくのだ。
この5年間で、彼女は驚くほど成長し、変貌を遂げたと思う。
成長を遂げたからこそ、今回の不倫相手との出会いにつながったと感じる。
私も、彼女のおかげで多くの経験を得て、成長ができた。
もっと、彼女の成長を見ていたかったが、私たちの成長の物語は、ここでいったん終了のようだ。
私は、少し寂しかったが、これからの未来の姿を想像して、安心した。
引っ越しの日が遅れたことで結婚記念日を一緒に迎えることになった。
すでに離婚をしているので、もはや記念日でもなんでもないのだけど、私は、せっかくなので2人の5周年をお祝いしたかった。
彼女の好きなワインに合わせて、2人の時間がいったいどんなものか振り返るきっかけとして、初めて出会った2009年のワインと、付き合い始めた2015年のワインを準備した。
熟成したワインは、私が普段飲んでいるワインとまったく風味が違っていた。
とげとげさや苦みがなく、まろやかでまとまった味になっている。
私たちもこんな風に熟成できていれば、何か違っていたのだろうか?
それとも、実はまだ時間が足らず、熟成の途中の段階だったのだろうか?
料理とワインの相性が良いことを「マリアーシュ」というけれど、私たちの愛称は、残念ながらよくなかったみたいだ。
「マリアージュ」の意味は、「結婚」という意味でもある。ワインは、人生を語るには奥が深い飲み物だ…。
今までの思い出を話す中で、妻の横顔を見ながら、ふと、妻が地下アイドルだったら良かったのに。など、ふざけたことを思いついた。
私が普段応援している地下アイドルが妻の仕事であれば、これからも、ずっと妻を応援することができる。
普段、何をしているのか、SNSや配信動画でこっそり確認することができるし、やろうと思えば、彼女のライブに行ったり、カフェイベントにさえ参加できる。
何より、ただただ甘やかすだけで良いのが最高だ。将来とか、未来とか気にせず、ずっと彼女の味方でいることができる。彼女の良い部分だけしか背負わなくて良い。
「生活をともにする」ということは合わなかったかもしれないけれど、もしかしたら、そういう関係だったら上手くいくのかもしれない。
今の妻の仕事を応援することもできるけど、さすがに妻に会いに行くために、不動産を買うのはシャレにならない。
離婚した独身男性が、家を買うなんて、滑稽がすぎる。
「美味しかったけど、物足りない」
酔った勢いで馬鹿みたいなことを考えていると、妻のお決まりの一言が飛び出した。
妻の一言で、私たちはウーバーイーツで近所のラーメンを注文した。
青森産のにんにくが、これでもかと入ったにんにくラーメン。
仕事帰りによく二人で行ったお店だ。
少し品の無い味だが、酔った後に食べるには、最高の味だった。
これが最後の結婚記念日になった。
特別、何かがあったわけでもないけれど、特別だった、ありふれた一日に戻れた気がする。
ずっと、こんな日が続けばよかったのにな。と、いうおだやかな一日。
6年目、7年目のこの日には、お互い、どこで何をしてるんだろう…。
結婚記念日が終わると、本当の別れの日がすぐに来た。
引っ越しの日も前からずっとわかっていたはずなのに、妻は相変わらず荷物の整理や掃除をしていなかった。
引っ越し用の道具をなぜか私が購入し、妻の荷物を1週間前から詰め込んでいった。
この車が出発すると、彼女はもう二度と帰ってこない。
最後の別れの際には、「ありがとう」なんて握手やハグでもするのかな?と、思っていたら、妻はあっけらかんと出ていった。
彼女のこれからを心配してあれこれ口を出す私を、面倒そうな目で見ながら旅立っていく。
この感情になんて名前をつけたらいいのだろう?
ああそうか…お父さん。これから家を出ていく娘を見送った父親の気分だ。
結婚したと思っていたら、妻はいつの間にか娘になっていたみたいだ。
その後の妻が、幸せにしているかどうかはわからない。
LINEは、ほとんどしていないし、その後一回だけ会ったけれど、お互いぎこちない会話で、大切なことは何も話せずに別れた。
妻がどう思っているかわからないが、私自身の5年間は、とても楽しい思い出となった。特に離婚前の2か月は、毎日が驚きの連続でエキサイティングっだった。結婚と離婚を損得勘定で考えるのは、無粋だが、私にとっては良い記憶しかなく、「ありがとう」という感情しかない。
「次はいけると思った」
結婚は、健康食品や美容器具と違って、何度も気軽にチャレンジできるものでは決してないと思う。運よく出会えた新しい彼を運命の人に「する」べく、頑張っていってほしい。そして次は平和で幸せな暮らしを実現してほしいと、願っている。
私は彼女から預かった部屋の鍵を、彼女のネックレスが入った小箱に、そっとしまうと、この物語を書き始めた。
(完)
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あとがき
恥の多い人生を送ってきました。
第2部は、1部より、だいぶ私の悪い部分が描かれているので、正直読まれるのは恥ずかしいです。ただ、その分、綺麗に仕上げた1部よりは、リアリティや深みがあるのかな?とも、思います。
このブログについては、1話を執筆するのにおおよそ3時間から4時間かかりました。合計17話なので、最低でも50時間くらいは、使っています。
もちろん、筆を動かしていなくても、四六時中彼女のことを考え続けていました。このブログを書いている間は、彼女が出ていってからも、まだ家にいるような気がしていました。でも、ブログの完結とともに、一区切りです。
彼女との思い出は、ブログという目に見える「カタチ」になっています。想い出はネックレスとともにそっと小箱にしまって、私も新しい道を歩き始めようと思います。
さて、このブログは、10%のフィクションが含まれるものの、残りの90%は実話なので、現在シーズン3が進行中です。
念願叶ってついに同棲を始めた二人は、本当に幸せになったのでしょうか?不倫相手は、本当に離婚できるのか?
作中にはほとんど出てきませんが、あちらの女性が離婚協議に応じない理由はいったいなんなのか?金なのか?愛なのか?それとも別の深い理由があるのか?
事実は小説より奇なり。と、いう言葉がありますが、人が複数絡まって生きていくって、面白いですね。私は早くも物語の舞台から降りてしまったので、今は、舞台を楽しむだけの傍観者です。続きは、私の妻か不倫相手に書いて欲しい。真実を知りたい!!(笑)
このブログの更新は、おそらくここまでです。
シーズン3としては、田山花袋よろしく、ひとりになった寂しさを変態チックに書いても良いですが、需要ありますか?3話くらいは書けます。でも、やっぱり妻がいないと何も生まれないですね。無から有は生まれない。
シーズン2まですべて目を通していただいた方、ありがとうございました。皆さんの貴重な時間を使っていただき、感謝です。皆様の中で何か得るものがあれば、ぜひご活用くだされば嬉しいです。
「私のことを愛していない」から始まったこの物語ですが、私は最後に彼女に愛を伝えられたでしょうか?「愛の証明」って、難しいですね。
では、またいつか。
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