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時にはシネフィルな夜「15時17分、パリ行き」

アムステルダム発パリ行きの高速鉄道に乗り合わせた幼なじみ3人組のアメリカ観光客の若者がナイフとAK―47で武装した犯人を取り押さえて大量無差別テロを未然に防いだ実話の映画化。

この映画の何よりの特徴は、取り押さえた3人全員が本人役として出演していること。

過去の3人の生い立ちや出会いを描いている部分はもちろん子役を使っているのですが、成人以降、事件の前後はすべて本人、つまり役者ではない素人が演じています。

その効果もあるのか、どことなくドキュメンタリー実録映画を観ているかのようなザラッとした手触り感と空気が映像からも醸し出されている気がします。

監督は、クリント・イーストウッド。

彼はダーティハリー以降、過去の出演作、監督作や「硫黄島からの手紙」を含めた太平洋戦争2部作などのイメージから、世間の一般的リベラルからは、よくマッチョな印象のレッテルを貼られがちですが、本作も、題材も含めてその描き方などをそう決めつけて感想を語る人もおそらく多いような気がします。

オレ自身は、基本的に恐ろしく丁寧で丹念に物語を紡ぐタイプの職人肌の監督さんだと思ってはいるのですけどね。

そういう意味からも、オレはこの映画はとてもイーストウッド監督作らしい気がします。

中学入学前に3人のうちの二人が発達障害を担任から指摘されてシングルマザーの母二人がブチ切れるシーンとか、父に引き取られるための母との別れや、肥満から肉体改造に真摯に取り組み軍に志願するも希望する部隊には不合格にされるなど、青春期の懊悩や挫折を緻密に描くことで彼らの人となりが見えてきます。

その決して世渡りがうまくできるほど賢くはないけれど、ある意味素朴なまでに社会へ寄与したいというアプローチの仕方。

オレが思うにイーストウッドって、もちろん保守寄りなのですが、決してどこかの骨牌さんのような強いアメリカよ再びというタイプではなく、あくまでアメリカの建国当時の理想に回帰して追求してほしい形での保守思想なのではないかと思うのですよ。

なぜなら過去の「グラン・トリノ」や本作にしたって、彼が移民排斥側の視点でいるわけがない。

その上で、「本当のアメリカ人って何なの?」という問いかけを受け手側に突きつけているのだと思うのですよ。

フロンティアスピリットと移民も含めた多民族多文化共生の両立を目指すという、まるで中2病かよ…みたいな理想主義。それを安易に右寄りとか保守と呼んでいいのかしら? と、オレはそう思います。

おそらく都市部の知的リベラルが「田舎の単細胞な脳みそ筋肉野郎ども」と切って捨てるタイプの、サクラメントの幼なじみ3人組が欧州旅行中に反射的に行動したらフランスから勲章もらうことになり、郷里の英雄になってしまいましたという極めてシンプルなストーリーではありますが、それをどう描くかによって監督が何を訴えたいかを考察することにこそ、この作品が存在する気が、オレはします。と、いつも通りの悪文でオレは訴えます。

https://eiga.com/movie/88331/


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