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煉獄のオルゴール

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生前の記憶を失った「僕」は、黄泉路の分岐点の管理人「瑠璃」の元で目を覚ます。しかし、「僕」はそのまま死に切ることができず、自らが生きた人生を記憶として取り戻すため、異形の世界を彷…
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2021年3月の記事一覧

第三章 - 軋む者 3

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  軋む者 2
次回 →  軋む者 4

 急変した自宅の様相に驚いていると、扉はひとりでに大声を上げて開かれる。
 まるでこちらへ来いと言わんばかりの態度だった。先の実家の扉は、否が応でも開かなかったというのに。

 その2つのことから、ひょんな違和感が思考を追う。本当にここは「死後の世界」なのかという疑問だった。
 瑠璃は仕切りにそう言っていたが、今ま

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第三章 - 軋む者 2

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  軋む者 1
次回 →  軋む者 3

 瑠璃の言葉に従ってすり抜けた扉は、まるでおとぎ話に出てくるように小さく、おおよそ普通の体格よりも小さい僕でもギリギリ入ることができるほどの大きさだった。
 扉を開いて腹ばいでそこに入っていくと、先程まで鬼気迫る調子で鳴り響いていたオルゴールの音が途絶え、静かな沈黙の奥で耳鳴りだけがけたたましく頭に残響している。それ

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第二章 - 鏗鏘のアラベスク 1

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  水疱の記憶-3
次回 →  鏗鏘のアラベスク-2

-1

 完全に意識が途絶えた音が聞こえた。その音は、アラベスクの音色と混ざりあうように鼓膜を揺さぶり、苦しむ呼吸音のような音を僕に伝え続けていた。
 巡る思考の中は、先程見えた光景でいっぱいだった。あの踊り場での映像は、明らかに僕自身の記憶である。しかし、最後の光景は、自分が愛していると伝えたはずの優

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第二章 - 鏗鏘のアラベスク 2

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  鏗鏘のアラベスク 1
次回 →  鏗鏘のアラベスク 3

-2

 もう何度ここで意識を失えばいいのか、微かな呆れとともに僕は痛む頭を押さえつけながら目を覚ます。
 未だに頭の中にはあのオルゴールの音色が残響しているようで、巡っていく思考を阻むかのように頭がガンガンする感覚が常に続いている。そんな状態でありながら、僕はゆっくりと立ち上がり、ぐらぐらと揺れ

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第二章 - 鏗鏘のアラベスク 3

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  鏗鏘のアラベスク 2
次回 →  鏗鏘のアラベスク 4

 一番最初に思い立って向かった場所は、今まで多くのことを勉強した教室だった。しかし、どの教室が自分にとって縁があるかわからないため、それらしき教室を片っ端から調べることになる。
 学校そのものの構造は変わっていないようだが、どうにも僕自身がこの校舎の記憶が曖昧であるがゆえ、どこに何が配置されている

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第二章 - 鏗鏘のアラベスク 4

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  鏗鏘のアラベスク 3
次回 →  軋む者 1

 音楽室のある3階には、鈍く鳴り響くオルゴールの音色が縦横無尽に反響していた。しかし、その旋律は先程のように完璧な旋律を紡いでいるのではなく、時折音色が飛んでいるように思える。なんとなく、上手な奏者があえてこのような弾き方をしているようだった。まるで、こちら側を嘲笑するように。
 僕はその音色に導かれるよう

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第三章 - 軋む者 1

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  鏗鏘のアラベスク 4
次回 →  軋む者 2

 気がつくと、僕はあの「記憶の中枢」にいた。
 透明な六角形のケースに臓物が浮かぶ異形と、目の前に立ち尽くしている瑠璃が最初に見えて、辟易とした声を上げて蹲ってしまう。

 今見た光景、到底冗談の類であるとは思えない。現実をなぞってきた感覚があるからこそ、「優一を自らの手で殺害した」という事実が体中の筋肉を

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