KAYOKO TAKAYANAGI |不在の少女
少女とはなにか。
少女で在るとはどういうことか。
精神科医の高柳カヨ子と申します。
医師として様々な心の在り様と向かい合うかたわらで、「少女とはなにか」という永遠の謎を追い続ける少女批評家を名乗り、カルチャー・ソロリティ「菫色連盟」東京支部に所属しております。
今回アイリーン・アドラー氏の密命を受け、不在の少女をめぐる旅からここブライオニー荘に戻ってまいりました。
少女という言葉からはどのような印象を受けるでしょうか。
可憐、儚い、可愛い、繊細。いずれにせよ少女という存在は、十代のある時期、選ばれた少数の女性だけが持ち得る特権だと思っていませんか。それは歳をとれば自然に失われてしまうものであり、もう取り戻すことができないものだと。少女とは大人の女性になる前のいっときの輝きでしか在り得ないのだと。
これまでの少女論は、少女を庇護されるべき存在/愛でるべき存在として、男性側の視点から書かれたものが多かったように思います。そこには本来主体であるべき少女はいないのではないかという思いが私の中にずっとあり、自らの中に存在する少女を探求するべく「少女主義宣言」という一風変わった少女論を書き始めました。
そして《少女の聖域》と名付けた「菫色連盟」のサロンでは、これまでに「服」「音」「色」をテーマに少女についての論考を行なってきました。幅広い知識と教養を身につけることで世界は広がります。既存の価値観に囚われず自分自身の少女を見つけるには、新規を恐れず未知に挑戦する精神が必要と考えます。私のサロンがそのための糸口になればという思いで、毎回お話ししてきました。
《少女の聖域》はまた、展覧会の形としても菫色の小部屋に出現しています(モーヴ街2番地・オンラインギャラリー MAUVE CABINETにて2020年7月開催)。11人の個性的なアーティストが少女に出会うための鍵となり、多様な少女の在り様をみせてくれました。
これらの活動に一貫して言えるのは、これまで少女に貼られてきたステレオタイプなレッテルをいかにして剥がすかという実験であり、少女らしさという幻想から少女を解放する試みです。
少女で在ることになんの資格もいりません。
性別さえもそこでは重要な要素ではないのです。もちろん年齢も関係ありません。誰もが少女を希求した時に少女になれます。
ではあらためて、少女とはなんでしょう。
色が物質としては存在せず見るという行為によってはじめて色となるように、少女は「少女とはなにか」と考えた時に概念としてのみ立ち現れる存在なのではないでしょうか。
少女は「こうあらなければならない」「こうあるべきだ」という定義から軽やかに逃れ、そのような社会の圧力に抗います。
少女は常に定義から逃れ続ける存在だからこそ不在であり、逆説的に内なる少女を求める誰の中にも存在します。
不在の少女を追いかける試みは、しばらくここブライオニー荘で続けていきたいと思います。
手がかりは気鋭の作家たちの作品の中に。【ART GUIDE】でその魅力をお伝えするとともに、多様な側面から作品に潜む少女性を読み解きます。
また【BOOK GUIDE】ではイベントテーマや作品に絡みつつも、高柳ならではの思いもよらぬ方向からエッジが効いた本をご紹介いたします。
どうかこの場所があなたの少女にとっての聖域となりますように。
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★ヘッダー作品のご紹介★
トレヴァー・ブラウン|biohazard|2015年
少女が少女で在るために戦わなければならない圧力は、この世の中に沢山存在する。それら有形無形の抑圧は、目に見えないウイルスのようにいつのまにか周囲を取り囲んで、聖域を侵食しようと狙っているのだ。
好きな服を着よう。可愛いものを愛でよう。少女でいよう。
トレヴァー・ブラウンの少女のように、外部から侵入してくる圧力を概念のガスマスクで締め出そう。
戦闘準備はいいか? 装備/薔薇は携えているか?
でははじめよう、聖域を守る戦いを。
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高柳カヨ子|
精神科医・元法医学教室助手・少女批評家
東京上野で生まれ育ち、東京理科大学理工学部応用生物科学科・信州大学医学部医学科卒業。法医学教室でDNA鑑定を専門とした後、精神科の臨床に進む。Bunkamuraギャラリー「新世紀少女宣言」キュレーション/『夜想ーゴス特集』インタビュー/『夜想ー少女特集』評論/『S-Fマガジンー伊藤計劃特集』アーバンギャルド論/パラボリカ・ビス「アーバンギャルド10周年記念展」キュレーション。あらゆる時代と時間を超えた少女たちに捧げる少女論「少女主義宣言」をnoteにて連載中。霧とリボン運営の会員制社交クラブ《菫色連盟》にてトークサロン「少女の聖域」を主宰。
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