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HENSIN〜猫と僕の日々|#短篇小説

拾った黒猫と僕との話を編んでおります。以下の短篇の続きです。(過去のシリーズ全て読めます)

↓ ↓ ↓


【前話より】

浴室にしゃがんで、モンを押さえながら湯の温度を確かめる。そして怖がらないように少しずつ、シャワーをかけていった。



そのとき―――異変が起こった。



モンを押さえている自分の手のひらに押し返される力を感じ、触っている質感が、黒い毛からつるっとした感じに変わった気がした。



そして・・・



「みい、―――みい、―――いや




シャワーの湯気から次第に浮かび上がってきたのは、髪の長い裸の女の子の姿だった。

「名前はmon」



HENSIN〜猫と僕の日々



「・・・き、君は何だ、誰なんだ?
モンはどこへ行った!?」


僕は濡れているのも構わず、腰が抜けたように床に座り込んで、半ば叫んだ。


「モンだよ・・・
きゅうにぬらさないで、いやだ。
こわいよ」


目の前の長い髪の少女―――小学生くらいか―――が、口を尖らせて言った。


「モン!?モンは猫だぞ。君は人間だろ」


少女は目をぱちぱちさせて僕を見つめ、裸の腰のあたりを手のひらで撫でて、濡れた髪を後ろへかき上げた。


「・・・ニンゲンみたいにみえるけど、モンだよ・・・」




頭が混乱しておかしくなりそうだったので、取り敢えず浴室から、少女を連れ出した。


まず、服を着せなきゃいけない。でも僕の服しか無いから、厚手のTシャツをその少女に渡した。大きくて、ちょっとしたワンピースみたいになった。
長い髪はバスタオルでくるんでまとめさせた。


「君用の下着はないよ」


「・・・いらない」


くしゅん、と少女はくしゃみをした。




自分をまず落ち着かせるために、熱いコーヒーをれてみた。


「―――何か飲む?」


やけになりながら少女に尋ねる。


「ミルク・・・ミルクのみたい」


確かに、モンが今飲むとしたら、牛乳だろう。


(一体どういう状態なんだ、これは・・・)


頭を抱えるように側頭部に手を置いたが、まったく何も考えがまとまらなかった。


少女はダイニングテーブルにある椅子に座るとき、よじ登るように席についた。足がフローリングに届かないので、ぶらぶらしていた。


僕はミルクをマグカップに注いで、目の前に置いてやった。


自分も向かいの席に椅子を引いて座りながら、


「あのさ・・・君は猫の・・モンって言うけど、じゃあ何で人間になったの?」と訊いた。


「・・・わかんない」


少女は両手でマグカップをおおって俯向うつむく。


「わかんないけど・・・ぬれてやだなっておもったら、ヘンシンしてたの」


悪いことをして謝るような雰囲気だった。


(まあな・・・そりゃあ自分でも驚くよな)


仕方ない。モンが消えた訳ではなさそうだから、と、一旦僕は思考することを停止した。



そしてミルクを飲み終わると、少女は


―――ねむい。


と言った。


髪に巻いていたタオルを外して、何も言わないのに当然のようにすたすたと寝室へ行った。後を追うと、僕のベッドに入るところだった。


―――ベッドの右側にいる。


そこはモンの寝る定位置だったので、軽く鳥肌が立った。





少女が寝息を立て始めたので、僕はバルコニーへ出て由依に電話をかけた。
着信音コールが3度鳴ったあと、由依が出た。


「ああ、由依・・・」


「―――こんにちわ。
急に電話なんて、珍しいのね。どうしたの?」


「モンなんだけどさ・・・」僕は少し口ごもった。


「・・・何か、異変を感じること、無かった?」


「なあにそれ?何も無いわ。

・・・あ、体調とか?
元気そうだったわよ」不安を取り払うような明るい声。


「そうか・・・」


濡れたら人間になった、なんてちょっと頭がおかしいと思われそうで、それ以上言えなかった。


「・・・じゃあ、いんだ。
あのさ、もうそろそろ・・・モンも留守番出来そうな気がするんだ。
改めてお礼したいから、食事でも行こうか」


「そうなの・・・?」


由依の声が少し暗くなった。モンと離れるのが寂しいのかもしれない。


「分かった。じゃあ日にちを決めましょう?武井くんは仕事してるから、武井くんの都合で言ってみて」


そして会う約束を決め、由依との電話を切った。


彼女は本当に良い女性だ。何で別れたんだろう?と振り返ってみても、彼女に落ち度があったようには思えない。


強いて言うならば・・・


彼女には、僕が必要じゃなかった。
全部自分で決めて、全部自分で始末をつけるタイプなのだ。


彼女といると次第に、自分の未熟さがクローズアップされるように感じた・・・年上だから、無理してたんだろうか。それとも僕が、気にし過ぎなんだろうか。





バルコニーに出たついでに、煙草を一服した。


目の下は公園で、巡らせた柵に沿って緑陰があり、その向こうにはグラウンドがあった。少年たちが声を掛け合いながら球技をしていた。吹く風が心地良く、煙草が旨かった。


(いちばん良い季節だな・・・)


さて、これからどうするか。モンはこのまま、人間のままで僕と暮らすことになるかもしれない。


―――



一服吸い終わってから、また部屋に戻ってパソコンでメールチェックをしたり、仕事の資料を少し片付けたりした。


日が傾いてきて、そろそろ夕食の買い出しに出掛ける時間になった。


(一体、何を食べるんだろう・・・)


モンを名乗る少女に訊いてみないといけない。未だ眠っているのか確認するために寝室に向かうと。


モンは「モン」に―――

黒猫に戻って、丸まって枕元で寝ていた・・・



 【 continue 】




▶Theme Song

回春/女王蜂feat.満島ひかり


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