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名前はmon〜猫と僕の日々|#短篇小説


拾った黒猫と僕との話を編んでおります。

前話はこちら

↓ ↓ ↓


―――すると、横断歩道のちょうど真ん中あたりに、黒っぽいほわほわした小さな球状のものを見付けた。



(何?あれ―――まり

けど、うっすら毛が生えてる・・・)



ほとんど車の通らない信号なので、周りを確認して慌てて謎の物体にかけ寄る。



猫だった。本当に小さい、片方の手のひらに乗るくらいの仔猫。





名前はmon〜猫と僕の日々



前の彼女は3歳年上で、由依ゆいと言った。


学生の頃、カフェのチェーン店で、バリスタの仕事を教えてくれた先輩だ。


由依にLINEで仔猫の事情を伝えると、


―――今は暇だから いいわ


とふたつ返事で了承してくれた。





仕事が終わり、猫を入れた段ボール箱を抱えながらバスに乗って、由依の住むマンションを訪れた。



由依は猫のケア用品を幾つか買って、用意してくれていた。丸い猫用のクッション、ミルクを飲むためのスポイト、仔猫用のミルク、猫砂を入れたトイレなど。



「助かるよ・・・猫用のスポイトは、僕も昼休みに買いに行ったんだ。
牛乳を飲ませてた」



「そう?・・・大丈夫なの、牛乳。お腹壊すんじゃない?」



「うーん・・・」
そうなのか、と初めて知った。
そこまでは考えていなかった。



由依は結構手際良く、てきぱきと仔猫の世話をした。ハンサムショートの髪をさらさらと揺らしながら動くのを見て、バイトしてる頃と変わらないな、と思った。



彼女は左手で仔猫を仰向け気味に抱き持って、右手でスポイトに入ったミルクを少しずつ飲ませた。



「・・・可愛いわね。目をつぶったまま飲んでる」



ふたりで仔猫が飲む様子に見入っていると、何となく夫婦で自分たちの子を見ているような妙な気分になって、ちょっと咳払いした。



「世話が上手いんだね」


「そうかしら・・・?姉の子を赤ちゃんの頃から世話してるから、慣れてるかもね」



由依はいつもより柔らかな笑顔になった。


「この子の名前、私が決めて良い?」


「え?」


「モン、はどうかしら。モンちゃんって、可愛くない?」


「モン・・・」



僕は、何かを名付けるのがからきし苦手だった。小学生のとき飼っていた亀は「カメ」のままだったし、夜店ですくってきた金魚に至っては、ずっと「オイ」としか呼んだことがなかった。


「いいね。モンにしよう」


仔猫の名前が決まった。





その日から、朝モンを由依に預け、帰りにモンを引き取りに行く、という生活が始まった。由依の住むマンションへは、バスに乗って職場と逆行する。


朝のバスは、通学する学生や病院へ行く高齢者が多い。時間をずらすために、1時間くらい早く家を出た。



モンは未だ小さいので、段ボール箱の中のほうが居心地が良さそうに思えた。



(ケージに入れる頃には、留守番が出来るようになるんだろうか・・・)



僕は膝の上にモンの入った箱を乗せて、窓の外の流れる景色をぼんやりと眺めていた。





それは、猫が居る生活に慣れてきた、半年くらいあとのある土曜日のことだった。もうそろそろモンは留守番も出来そうになってきた。



小さい毬の頃からすると、身体が大分大きくなっていた。



部屋で猫じゃらしを捕まえようとしてぴょんぴょん飛び跳ねたり、小鳥や蝶が飛んでいるのを一生懸命目で追っていたり。僕がソフアで座っていると、隣に来て寝ていたりする。



みゃお、と僕を呼んで、餌をねだるほどなついてもいた。弱々しさがなくなり、すこぶる元気そうになっていた。



ふと、気付いたことがあった。



(―――猫って、身体を洗わなくて良いのか?)



何かで、猫にシャワーを浴びさせて綺麗にする映像を観たような気がする。



(気候も良くなってきたし、試しに洗ってやるか)



僕はモンをひょい、と捕まえて逃げないように胸に抱きながら、ユニットバスのほうへ連れて行った。



みい、―――みい、と鳴くモンは、違和感を感じているのか少し不安そうだった。



「大丈夫、大丈夫。綺麗になるんだから・・・」



モンをでながら声をかける。



浴室にしゃがんで、モンを押さえながら湯の温度を確かめる。そして怖がらないように少しずつ、シャワーをかけていった。



そのとき―――異変が起こった。



モンを押さえている自分の手のひらに押し返される力を感じ、触っている質感が、黒い毛からつるっとした感じに変わった気がした。



そして・・・



「みい、―――みい、―――いや




シャワーの湯気から次第に浮かび上がってきたのは、髪の長い裸の女の子の姿だった。






▶Theme Song

回春/女王蜂 feat. 満島ひかり




【continue】




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