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#06 農業だけやっていればいいのか

大口を叩かせてもらえるならば、近い将来農業生産者として一定の規模まで事業を拡大したい。そのために克服しなければならない課題は『雇用』(もちろん『組織つくり』も)だと思っている。
生産者としての自らの経験不足を補ってくれ、自分を支えてくれる優秀な仲間が欲しい。そうした雇用をするためには、アルバイトだけではなく正社員雇用も増やしていく必要がある。当然のことながら、アルバイトとちがって負担する人件費は高いし、年間を通じて繁閑の差が大きい農業では、人的リソースが余ってしまう時間帯も出てくることは覚悟の上だ。
長期的には他の産業や企業と同様に、優秀な人材がいる会社が強い会社になる、そう信じているし、それを目指してみたい。

ハードルは高い

現状、まだまだ農業における労働生産性は低いと思われる。思われる、と書いたのは、私がここで明確なデータを示せていないからだが、農家のアルバイトの時給をみても、飲食店やコンビニよりも低いので、労働生産性がそれほど高い産業とは言えないことに対して大きな反論はないと思う(ただし、農業の労働生産性は就農者の減少に伴って徐々に高まっているようだ)。
農業を一括りにして労働生産性を議論するのはよくないと思うが、零細の農家が多い地域の農業は、生産規模の関係で労働生産性も低い。

賃金だけではなく、労働環境も厳しい。当社もそうだが、屋内の休憩室はなく、食堂もなければ、シャワールームもない。トイレだってあっても工事現場にあるような仮設トイレ、というような労働環境しか提供できていない経営体が多いのではないかと思う。それなりの規模の農業生産法人ならば、そうした労働環境は整備しているだろうが、一般の個人事業主のところで働くアルバイトの労働環境はまだまだ劣悪だ。

働く者にとって、農業とそれ以外の選択肢があった場合、農業は低賃金、非正規雇用、劣悪労働環境だとすると、農業が好きであってもなかなか選択しづらいのではないかと思う。

将来的には、地域の高校や大学を卒業した若者を雇用したいと考えているが、若い優秀な日本人を正社員雇用することは、現時点ではかなり厳しいことは私にもわかる。改善していきたいと強く思っているが、そのためには事業を拡大し、利益を求めていかなければならない。ただ、そのためにも人が必要なのだ。

外国人技能実習生を受け入れてみたい

外国人技能実習生の受け入れには、関連法令により受け入れをしてくれる監理団体が必要だ。当初、仲間内で監理団体たる協同組合をつくろうと考えたが、監理団体が乱立し、さらにコロナ禍で実質的に稼働していない監理団体も増えたことで、外国人技能実習機構も新たな監理団体の設立には後ろ向きだと聞いた。

そんな中、友人の紹介である監理団体の代表のWさんとお会いする機会に恵まれた。私が友人に相談していたからでもあるが、友人の話を聞いてわざわざ大分まで来てくださったのだ。
Wさんの組合は、新型コロナ発生前にグループ会社のオーナーの鶴の一声で設立されたものの、コロナ禍もあって事業は縮小し、Wさんの経営する会社が経済的に支援していた。
私の話を聞いて、ぜひとも一緒にやりたいといっていただき、監理団体の定款を農業も対象にできるよう変更し、さらに大分に支店を設立することになったのだ。それも、人材派遣ができるように、派遣業許可のあるWさんの会社の支店まで一緒にだ。
私にとって、これ以上ないお申し出だった。当社だけで、ひとりで何もかもやっていかねばと考えていた矢先、心強い仲間が現れたのだ。

家がない!

いざ雇用しようとすると家がないという問題に直面する。
田舎にはワンルームマンションはない。アパートすら少ないのだ。
その代わり、空き家はたくさんある。市町村には空き家バンクのようなものがあり、無料で紹介してくれるのだが、多くは住むには改装が必要で、これに費用がかかる。
友人知人に紹介を依頼するも、知らない人に田すら貸したがらないのに、自分の家を貸す、それも外国人に貸してくれる人はそれほど多くはない。
またもや壁。ただし、この壁は資金次第で超えられない壁ではない。

外国人のみでは解決しない

外国人を雇用するにあたって最大の難問、というか最大の私自身の疑問は、

"外国人技能実習生の雇用は、短期的な問題解決になるかもしれないが、長期的にはどうなのか” という点だ。

日本の不足する労働力をすべて外国人で賄えることができる訳がないし、仮にそうしたとしたら、国や地域が大きく変わってしまう。
外国人の労働力に過度に依存するには、あくまで短期の策。中長期的には、労働生産性の向上や省力化が必要であり、それは待ったなしに同時並行的におこなわなければならない、という強迫観念にも似た意識を強くもつようになった。

久しぶりの偶然が

あるとき、友人とLINEをしている際、私の新しい仕事の話になった。
友人はタイ人Wさん。元職でお世話になったタイのIT関連会社のオーナー社長で日本語も堪能だ。Wさんの会社が新たな事業として、農業用ロボットの研究開発を行っていること、またその関連で日系企業との合弁で、送出機関としての人材会社も保有していることを知った。
彼との話の中で、タイから農業向けの研修生としてタイ人を日本に送り出すことに協力してくれないか?と言われ、そのアイデアについて複数回オンラインで話し合うようになった。
そうしたディスカッションから、短期的な事業として研修生を日本に送り、中長期的には、農業用ロボットや農業用機械の開発とともに、帰国した研修生をロボットなどのオペレーターとして教育し、より高度な人材としてタイ、日本でそれぞれ活躍してもらうというビジネスをやってみようではないかということになった。
これだ、と思った。
うまくいくかどうかはわからないが、長期的にはこうした解決策があるのではないかということがうっすら理解できたことが私にとって大事だった。

タイへ

2023年11月。
ピーマンの収穫が終わったのを見計らって、タイ視察にでかけた。視察の目的は、Wさんの会社が大学と共同で行っている自律飛行型ドローンと露地用AMR(自律走行型運搬ロボット:Autonomous Mobile Robot)開発の進捗状況をみることだ。

ドローンの開発を行っているのは、スラナリー工科大学のベンチャー企業で、Wさんの会社はその大学の教授と一緒にドローンのオペレーティングプラットホームの事業をタイでローンチしたばかりだった。
写真(下)は、同大学のスタッフがドローンの自律飛行のデモを行っているところ。

タイの農業大学、カセサート大学の試験農園
タイ、スラナリー工科大学、ドローン研究室のスタッフと学生によるドローンの自律飛行デモ

翌日は、写真(同コラムのトップ画像)にあるAMRの自律走行デモをWさんの会社の裏の空き地(同社の研究スペースになっている)で披露していただいた。
GPS-RTK(リアルタイムキネマティクス)とセンサーを用いた自動マッピング機能に加え、駆体は圃場でコンテナを載せて駆動する仕様で開発中だ。

それ以外でもIoT型の自動冷蔵販売機だったり、さまざまなITを使ったソリューションを披露してもらった。農業でも栽培に、販売にと広く活用できそうな技術がたくさんあった。

私は農産物の生産・販売だけやっていればいいのか?

いうまでもなく農業法人にとっては、安心、安全な農産物を効率的に生産、販売していくということが一番大事なことだと思う。ただ、それだけをやっていて本当に生産性の高い農業が実現できるのだろうか、とこの視察を経て思うようになった。
長く変わってこなかった農業を大きくシフトチェンジさせるには多くの壁に直面する。そうした壁に自社のみで、狭義の農業
だけでぶつかっていくことはとても不可能に思えた。
こうした高く複雑で、かつひとりでは乗り越えられそうにない壁に対しては、一緒に問題解決に挑んでくれる専門性の高い仲間を積極的に集めていくしか方法はないのではないかと強くおもった。
そのためにもまず自らが率先して広く視野をたもち、情報発信を続けていくことを心がけていきたい。





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