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タバコの匂いみたいなもの

タバコの匂い、ガソリンの匂い、他所の家の洗剤の匂い。
一癖あるけど、好きな人は好きな匂い。

私は教育の結果か、昔からタバコというものが嫌いでした。
理由としては、健康に悪いから、刹那的な快楽は人生哲学に反するから等、様々あるのですか、一番は臭いが生理的に受け入れられないから、というもの。生理的、となればこれはもうどうしようもないのですが、それとも順序が逆でしょうか、心が拒否しているから体も拒否している。
とにかく、嫌いでした。

幸いにも身近にタバコを吸う人間はいませんでした。
親戚にはそれもそこそこ居ましたが、家族には一人もいない。たまにタバコの臭いを服につけて帰ってくるのはいましたが、基本的にはなし。

契機が訪れたのは高校での初バイトでした。
運送業の会社で働くことになり、初めてのことばかりで戸惑うことはたくさんありましたが、一番驚いたのは従業員全員から漂う強烈なタバコの臭いでした。
隠すこともなく常に臭いです。
最悪の気分でした。
例えるなら、咀嚼音を耳元で常に出されるような。
いやいや、これ化学兵器と何も変わらんじゃん。
歩く公害、地味な自爆テロ、色々と酷い事を考えながら、心底彼らを軽蔑していました。

そんなこんなで憂鬱なバイト生活でしたが
ある日突然、タバコの臭いが気にならなくなったのです。
そうです、「体がタバコの臭いに適応した」のです。
そこから時間が経つにつれ、寧ろタバコの匂いで安心感を覚えるようになっていきました。

人間の適応力を舐めていました。

「時間は全てを解決する」は本当なのかも知れない。

愛着の正体は「時間」の経過なのでしょうか。家族の死で涙を流すのも全部、時間のまやかしなのでしょうか。

私は考えを膨らませながら
大嫌いだったタバコの匂いとともに生きていく。


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