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過去の受賞作から2025年本屋大賞を予想する

小説は時代を反映する?

小説が時代を反映するというのは、大昔から言われていて、最近ではあまり聞かなくなりました。現代では、映画やゲームなど多種多様な娯楽があり、小説だけが時代を背負うことはありません。
ただ、時代が小説に影響することはあると思います。時代に沿った小説が受け受け入れられるような気がします。
書店員が投票して決める「本屋大賞」大賞受賞作から時代の雰囲気を考えてみたいと思います。


2019年本屋大賞

近年の大きな出来事といえば、新型コロナウイルスの感染拡大です。コロナの流行前である2019年の受賞作は、瀬尾まいこさん「そして、バトンは渡された」でした。
東京オリンピックを翌年に控えて、景気もそこまでは悪くない時期でした。複雑な家庭で育った主人公をたくましく、ユーモラスに描いた物語は、当時の時代にあっている気がします。
もちろん、時代にあっているだけではなく、小説そのものが面白く、素晴らしい小説でないと受賞しません。「そして、バトンは渡された」は、面白かったですね。タイトルも良きです。

2020年本屋大賞

世界がコロナ禍に突入した2020年は、凪良ゆうさん「流浪の月」が受賞しました。「流浪の月」は、様々なもの背負って生きてきた人たちが、友情とも恋愛とも言い難いもので強く結びつく感動的な物語です。
他人との接触が制限された虚ろな世界に「流浪の月」の物語は響き渡り、多くの方の共感を得たと思います。
「流浪の月」自体は、コロナ前に刊行されましたが、時代の雰囲気に合っている気がします。

2021年本屋大賞

コロナがまだ収束していなかった2021年の受賞作は、町田 そのこさん「52ヘルツのクジラたち」。傷ついた過去を抱きながらも、懸命に生きる海辺の人々を描いています。
多様性の尊重や他人との繋がりなど、不自由で閉塞的なコロナ禍の世界で輝く灯火のようになった作品だと思います。

2022年本屋大賞

2022年は、逢坂冬馬さん「同志少女よ、敵を撃て」。ロシアがウクライナ侵攻を開始した年です。「同志少女よ、敵を撃て」は、ナチスドイツと戦う女性狙撃兵の熱い物語です。本作品は、ウクライナ侵攻前に刊行されたのですが、不思議と時代を反映させたように思えてきます。

2023年本屋大賞

2023年は、凪良ゆうさん「汝、星のごとく」でした。ようやくコロナが収束した年に、悲しくも温かい恋愛物語は、希望の光に見えました。

2024年本屋大賞

そして、今年2024年の大賞受賞作は、宮島未奈さん「成瀬は天下を取りにいく」でした。
コロナ禍に突入してから、どちらかというと暗い色調の小説が多かった気がしますが、「成瀬は天下を取りにいく」は強烈なキャラクターの成瀬を中心とした、明るい照度の物語です。
コロナが明けても、ウクライナ侵攻、インフレ、円安と陰鬱とした時代が、カラッとした作品を求めていた気がします。

もちろん、書店員の人たちが、時代を考慮して本を選んでいるとは限りません。繰り返しになりますが、自分が売りたい、面白い優れた作品を選んでいると思います。
ただ、こうして時代背景と小説を並べてみると、多かれ少なかれ関係しているように思えてきます。

2025年本屋大賞

では、来年2025年本屋大賞に選ばれる小説はどんな物語でしょうか。インフレは進み、円安による日本売りで時代の陰影は濃くなる一方です。
あまりに暗い時代には、「成瀬は天下を取りにいく」のようなカラッとした明るい物語が好まれるかもしれません。
深くて暗い、社会を抉るような物語を消化するには、時代の方が暗すぎると思います。
ままならない現実に一筋の光が差すような小説が求められる気がします。

すでに、今年も半分が過ぎようとしていますが、今のところ、そこまで目立ったベストセラーは出ていません。
今の時代の空気を纏った、どのような小説が現れるか楽しみです(僕が書ければ一番いいですけど)。

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