見出し画像

本は売れないとダメなのか。商業出版とセルフ出版の違い

本は売れないとダメなのでしょうか。
僕の答えは、「イエス」です。本、特に文芸作品は芸術なので、売れなくても優れたものを世に出すことが大事だという人もいると思いますが、僕個人の考えとしては、本はやはり売れた方が良いです。

いうまでもないことですが、本は「商品」です。市場に流通し店舗で販売されている点においては、野菜やお菓子と変わりありません(種類が多いとか再販制度とか違いはありますが)。
出版社も取次も書店も営利企業ですので、売れなければ本を売ることはできませんし、売れない本は売らなくなります。

当然、出版社は売れない作家の本を作りたくありませんから、売れない作家には原稿を依頼しなくなります。
原稿の依頼がなければ、作家は小説を書いても本として読者に届けることができません。
小説家にとっては、それが問題なわけです。お金も大事ですが、それよりも作品を読んでもらえないことが辛いわけです。
他人に読まれなくても構わないという人もいるでしょうが、小説というものは読者が読んで初めて成立するものだと僕は思っています。

読んでもらうだけなら、投稿サイトや電子書籍でセルフ出版する方法もあります(以前の僕のように)。
商業出版とセルフ出版の両方を経験してわかったことは、双方の顧客層が大きく異なることです。全国の書店に本が並び販売されるのと、ネットで検索してヒットしないと人目に触れることがないサイトでは、リーチできる人も人数も全然違います。
多くの人に読んで知ってもらうためには、商業出版に分があります(未来はともかく現時点では大きな差があります)。
多くの人に読んでもらうためには商業出版を続ける必要があるのです。

商業出版とセルフ出版には、もうひとつ大きな違いがあります。それは小説にかかわる人数です。
セルフ出版は文字通り、自分ひとりで出版することができます。表紙や校正を外注することはできますが、やろうと思えばひとりでもできます(僕はひとりですべての作業をしていました)。ただ、できることに限界があります。
ココナラなどの依頼サイトを使って、他人の力を借りることもできますが、組織的ではないのでどうしてもクオリティにばらつきが出ます。

商業出版の場合は、編集者をはじめ校正さん、ブックデザイナー、カバーデザイナー、印刷会社の人、配送業者、書店員と数多くの人が関係します。たくさんの人の手がリレーのように繋がって、一冊の本が読者の手元に届きます。
その行程は蓄積された習慣と熟練した経験に基づいており、個人で行うのとクオリティには格段の違いがありました(僕の場合)。

言い尽くされていることではありますが、現在は出版不況です。街の書店はどんどん減っています。
売れない本ばかりになってしまっては、出版社は新しい本を作ることができなくなり、流通する本は減り、書店は消滅の危機を迎えることになります。
当然、そこで働いている人たちの生活にも影響が出ます。
そういう現状を打破するためには、売れる本を出す以外に方法はありません。多角化戦略をとる大型書店もありますが、小さな書店の売上のほとんどは書籍です。
特に、雑誌の売り上げが落ち込み、コミックが電子書籍が主流になりつつある現状、書店にとって小説などの書籍の重要性はより大きくなっています。

もちろん僕の本が売れたからって、出版業界が劇的に改善することはありません。でも、売れる本が増えてくれば、業界が潤い、さらに多くの本が流通することになります。

以前、編集者の方に「本が売れれば全ての人がハッピーになる」と言ったことがあります(無名の新人小説家なのに偉そうですね)。
でも、この言葉は間違っていないと今でも思っています。売れる本ということは、読者に喜んでもらえる本ということです。優れた本でなければ誰も買ってくれませんからね(売れない本が優れていないというわけではないです、念のため)。
売れるが本ができれば、読者を含めて本に関わる人全員がハッピーになれるのです。

7月中旬に刊行する「夏のピルグリム」は、著者の僕が言うのもなんですが
「善い本」だと思います。
ポプラ社小説新人賞奨励賞を受賞した本作を一年半をかけて改稿・推敲し、考えられる限りのことをしてきました。
その結果、良い作品になったと確信しています。

興味を持ちましたら、ぜひ手に取ってみてくださいませ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?