夏休みの宿題オワタなう、に使っていいよ|光速より速い光 |Review
『光速より速い光――アインシュタインに挑む若き科学者の物語』
ジョアオ・マゲイジョ 著、青木薫 訳、NHK出版、2003年
レビュー2023.07.21/書籍★★★☆☆
劉慈欣の『三体Ⅲ 死神永生』では、光速の減速というすさまじい状況が描かれていた。いわく、星間戦争には物理法則、とくに空間次元と光速が手段(兵器)として用いられる。次元攻撃が実行されると、宇宙は低次元が主流になる(百億年以上前の宇宙は10次元だった‼)。光速を使った攻撃や防御によって、低光速の宙域が増えて速度が同一になる(同じく昔は光速≒無限大だった‼)。
アインシュタイン世界では宇宙で一番速い光だけど、宇宙の広さに比べるとなんか遅くないかなと思っている僕には、どこか腑に落ちる宇宙観だったんですよ(壮大すぎてそれ以外の設定は記憶に残っていないのだが・・・)。だって太陽から一番近い恒星まで4.2光年かかっちゃうし、宇宙の反対側には130億光年なんて途方もない時間がかかるんだもん。ちなみにブラジルのみなさん、僕は1㍉もゲーマーではないです。
劉の光速論に比べると狂おしいほど地味だが(SFと比較しちゃいけないね😓)、本書も光速の遅さに異議を唱えている。ただし、ビックバン後の初期宇宙に限って、である。それでも「光速度不変の原理」にケンカを売った作者のジョアオ・マゲイジョは向こう見ずで怖いもの知らずといえよう。それは学界すべてにケンカを売るのと等価だからだ。
彼の理論はその名も「光速変動理論」。通称VSL理論で、これはVarying Speed of Lightの略なのだが、「てゆうかVery SiLlyの略だろ」と笑いものにされてもめげない。ビッグバンの問題点を正すという壮大な野望が彼を支えているのだ。
ではそのビッグバン宇宙論の問題点を、手抜きしてウィキから引用しま~す。
地平線問題
平坦性問題
う~ん難しい。思考がフリーズする。だから結論から言おう。これらの問題を解決するのが「インフレーション理論」なのだ(一件落着ではないけどね)。
なんだ、じゃあマゲイジョってインフレーション論者なのね、とアナタは思うだろう。それが違うんですよ。彼はインフレーション理論以外のやり方で問題を解きたいへそ曲がりなのである!
彼は光速は制限速度じゃないんじゃないかという啓示を受けた。それでビックバン直後に光が光速の10の32乗倍で進んでいたと計算して説明してみると、いろいろとつじつまがあってしまった。「地平線問題」も「平坦性問題」も解決できちゃった、という話だ。
光速変動理論は、光速が一定ではなく、高エネルギーや重力場の影響を受けて微小な変動が生じると考える。しかし敵は手ごわい。まず、光速が一定であることを示す数々の実験結果と矛盾する。また、光速変動理論を受け入れた場合、エネルギー保存の法則が破られてしまう。
ようするにかなり旗色が悪いのだ。理論が発表された1997年以降、目立った研究成果はない。ウィキの日本語版はたった172文字でしかない。ChatGPTに質問しても、「科学界では一般的な理論としては広く受け入れられていません」と返ってくる。そんな雰囲気が当時の学界にもあったのだろう。本書は全般的に愚痴が多い。
でも、起死回生の一打を信じている。宇宙マイクロ波背景放射のスペクトル指数は0.968。マゲイジョが導き出した理論値は0.96478。観測されれば彼の勝ちだ。
* * *
そうです、これが「夏はなぜか科学書が読みたくなるシリーズ」のトリなのです。『スノーボール・アース』『地中生命の脅威』『光速より速い光』の3冊ともども、「夏休みの宿題オワタなう。」に使っていいよ。
・・・って言ったらPTAに怒られるね。みんな、ちゃんと読もうね!
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