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私とnote51 創作「絶望のメリークリスマス」(1200字)

最近、スキの画像がどんどん過激になっている山根あきらさんの企画に参加します。
これまで、20字、54字以上の創作をしたことがなく、初挑戦。
内容は、ほぼフィクションです(;^_^A
ドキがムネムネ=^_^=




父は、クリスマスが嫌いだ。
「キリスト教を信じていないやつらが、なんだこの有様は!」
テレビにクリスマスの装いの街が映ると、悪態をつく。
「地球温暖化が問題になっているというのに、こんなに電気をつけるな。すぐに消せ!」
テレビに向かって怒鳴る。
父の言うことは、尤もだ。

毎年、クリスマスシーズンを迎えると、同じことを言い続けてきた。

しかし、去年の12月は、これが毎日のように、一日中続いたのだった。


それでも、私たちが小さい頃は、家にもサンタクロースが来た。
ある年、私は、家のサンタクロースは、母だということに気付いた。
黙っていればいいものを、
「家のサンタクロースは、お母さんなんだよ。」
と、妹に耳打ちしてしまった。
小さい妹は、それをそのまま父に尋ねた。
次の年から、家にサンタは来なくなった。

孫が生まれたら、また、我が家のクリスマスは復活した。
サンタクロースも毎年我が家に訪れ、クリスマスの朝は大喜びする子供たちの姿があった。
私は、バザーでツリーの形をしたお皿を数百円で買ってきた。
毎年、小さなツリーを飾り、子供たちの好きなお菓子や料理などをその皿に盛って楽しんだ。

その子供たちも、それぞれ独立して家を出た。

父と私の二人の家は、また、クリスマスとは無縁になった。


父の生家は貧しく、父は、中学を卒業するとすぐに集団就職で上京した。
その勤め先が嫌で逃げ出し、自力で夜間高校、大学を卒業した。
大学の食堂でアルバイトを続けたのは、残り物が食べられるから。
捨ててしまう野菜の切れ端をかき集め、もらって帰ったという。
家賃が払えなくて、アパートを逃げ出し、友達の下宿を渡り歩いた。
大学を卒業してからは、がむしゃらに働いた。

そんな生活の中で、父が、クリスマスと無縁だったことはよくわかる。
いや、無縁というより、華やかな街を見るたびに、やりきれない思いを抱えていたのだろう。

それが、今、憎しみとなって表れているのだ。


一昨年のクリスマス、私は、子供たちはいないけれど、いつもの年のようにツリーの形の皿に料理を盛りつけようと思った。
目を離した隙に、父がその皿をテーブルから落として割ってしまった。
最悪だ。
絶望感で、涙すら出ない。
故意ではなかったと思いたい。

年を取ると、その人の最も弱い部分がより顕著に表れるようになる。

今年も、クリスマスのシーズンがやってきた。
父がテレビに向かって怒鳴り始めると、私は「そうだね」と相槌を打って、そっと自分の部屋に引きこもる。

去年はそれですんだが、今年は私の部屋まで来て、文句の続きを言う。
「おい、大事なことだぞ。よく聞け。」
延々と続く。
鍵を閉めれば、私が開けるまでドアを叩き続ける。

一昨年のクリスマスが、最悪なのではなかった。

去年のクリスマスも、最悪ではない。

きっと今年も、最悪ではないのだろう。

来年は、さらに深みに引きずりこまれていくのだろう。

毎年容赦なく訪れる、絶望のメリークリスマス。



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