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他者があってこその個性──『社会に生きる個性』読書感想文


書籍データ

「自己と他者」の観点からの教育実践をテーマにした本。

自己と他者の観点は、人の発達における生物的なメカニズムを基礎とした観点である。他者は自己の基礎であり必要条件である。他者なしに自己は発現せず、成長もしない。
〜中略〜
他者を理解するフレーム(眼差し)を発達させ、その他者フレームで自身をとらえるという自己のメカニズムは、教育実践的にはとても大変なメカニズムを示唆している。

主体的な学び、リフレクション(振り返り)、探究的な学びなど、最近実践が求められている学習方法は、すべてこの他者観点(他者との関係性)が重要になってくる。

私自身も公立の小中学校に通う子どもがいるが、授業参観に行くと現場の「学ばせ方」が自分の時とはまったく異なっていると感じることが多い。

例えば、一番上の子は六年生の時、卒業発表として「自分にとって幸せとは何か」をテーマに、プレゼンテーションツールを用いての発表を行った。
「はじめ・なか・おわり」という論説文のフレームを用いて、自分たちのリアルな経験を経た心境の変化をまとめた発表は各自の個性にあふれていて非常にすばらしかった。
※会の進行も先生が介入せず、自分達で行っていて感心したなあ。

二番目の子が三年生の時の授業では、グループで一枚のマインドマップ作成をすることで各自の発想を共有・発散させていた。授業の最後の発表も、挙手が多く非常に活発だった。

いずれにしてもあきらかに学習の中で「他者との関わりから生まれるもの」が重視されている内容だった。
従来の一方向の方法よりプロセスも着地点も指導側のコントロールが難しい内容だと思うが、それでも子どもたちのために果敢に新しい方法にチャレンジしてくれる先生たちの熱心さにいつも感謝している。

気になる箇所の抜粋と感想

学習におけるリフレクションの重要性

リフレクション(振り返り)はメタ認知を働かせた言語活動。
学習活動を通して理解したこと・考えたこと・感じたことを俯瞰して眺め、「自分の成長に必要なこと」を選び取り言語化するこの活動は、その学習を定着させると同時に次の活動のフレームを形づくる重要なものである。

メタポジショニングによる自己内対話

対話は単なるおしゃべりや会話、議論のことではない。対話は、自身の行動や価値観、世界観に影響を及ぼす他者との有意味な相互作用のことである。

対話の対象は必ずしも実在の他者とは限らない。
例えば、メディア(SNSなども含む)を介して受け取る情報量が膨大になっている現代は、リアリティのある相互作用を伴わない自己内対話ばかりになりやすく、それが極端にふれると考え方が病的で妄想的なものになる。
(スマートフォンを早くから持ち始めるなど)そのような環境にさらされやすい現代の子どもたちには、リアリティを持った他者の影響が薄れていると著者は指摘している。

情報が多いこと事態は悪いことではない。しかし、取得したリアリティのない情報を現実を生きるための価値観に結びつけていくために「他者との対話」「(メタポジションからの)自己内対話」などの作業を行う必要がある。

これからの世の中における「学習者のエージェンシー」の必要性

学習者のエージェンシーとは、学習者が複雑で不確かな世界を歩んでいく力のことであり、自らの教育や生活全体、社会参画を通じて人びとや物事、環境がより良いものになるように影響を与える力である。

エージェンシーは単なる学習者の個性の発揮のみならず、彼らの学習に影響を及ぼしているさまざまな人びととの双方向的で互恵的な協力関係を持つことまでを概念に含める。

本書に引用される「OECDのペーパー序文」からは、下記のような考えが伺える。

  • そのような学習環境を提供することが私たちの共同責任であること

  • 複雑な中を目的に向かって進んでいくために主体性、自己調整能力、他者の尊重、失敗や逆境への対処を身につける必要性あること

  • 自分だけでなく、周囲の人びとや社会のウェルビーイングを考える必要があること

主体的な学習とその後押し

著者は「主体的な学習」を3つに分類している。
※上にあるものほど深い学習となる。

  • 人生型の主体的学習:中長期的で視野の広い目標達成を目指して取り組む

  • 自己調整型の主体的学習:自身で学習の方針立て・調整をしながら進める

  • 課題依存型の主体的学習:興味・関心を持って積極的に課題に取り組む

その取り組みを後押しするのが、「自己効力感」つまり、課題に対し「自分はできる!」と思える気持ちを高めてあげること。
例えば、下記のようなものが挙げられる。

  • 子どものやってみたいを引き出す

  • 自分自身で考える機会を増やす

  • 子どもにとっての安全基地をつくる

  • 勉強や習い事を通して壁の乗り越え方を学ぶ

非常に真っ当な意見なのだが、(子育てや子どもの教育に携わった人ならわかると思うが)子どもの特性やシチュエーションに応じてアプローチは無数にあり、指導には手腕が求められる。
つまり、ここへの導き方を、誰でもほいほいできるわけではないところが一番ネックなんだよなと思う。

コミュニケーション能力は個性と社会とを接続する力

人の知能は多元的である。人は万能ではないのだから、子どもの興味・関心を示す活動や得意とする力を伸ばしてあげるのが教育。
一方で、その個性が社会で通じるものなのかという現実的な視点も併せ持たなければいけない
と著者はいう。

私も同感。すばらしい才能や個性もさまざまな人の力を借りないと社会の役に立つことはない。自分の個性を生かすために、「どのように人との関わりを持てば良いのか」「この社会はどのように構成されているのか」、実際にさまざまな人と触れ合いながら試し考える機会を子どもの頃にきちんと与えないといけないと思っている。


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