GAFAはGoogle、Apple、Facebook(現Meta)、Amazonの頭文字。いわずと知れた、今の世界へ絶大な影響力を持つ超巨大企業をまとめた略称である。
本書の刊行は2018年なので、今に至るまでにMicrosoftやTesla、NVIDIAなどの企業を加える議論が生じているものの、この4つの企業の立ち位置は2024年時点においても殊更に大きく変化していないといえる。
本書の冒頭では、彼らを「四騎士」と名づけ、存在をこのように書いている。
そして、本書はこのように締め括られる。
GAFAが世界にとってどのような存在であれ「この世に存在することは事実である」。だから、存在可否がどうこうというより、それを前提として私たちは生きなければならないし、そのために今起きていることを知り、今後起こり得ることを予測しなければいけない。
本書にはGAFAに多くの影響を受けている著者の私感も含めて、GAFAの正負の面が描かれている。起業家であり経済学者である著者の視点から見るGAFA像(章名に見えるように明らかに好意的ではないがある程度公平であろうと努めている)と、それらに文字通り席巻されるこの世の仕組みがとても興味深かった。
以下は、なるほどなあと改めて納得した箇所を中心に取り上げていく。
GAFAそれぞれのサービス特徴
新しいインフラの創造──Amazon
圧倒的な利便性には、どんな大義名分も太刀打ちできない(これはUberにもいえる)。
Amazonにとって本当に価値があるのは小売による収益ではなく、今や「小売といえば」というワードで世界中で第一想起されるようになった強力なブランド名と、サービスに信頼を寄せる顧客だ。そしてその土台は、コンテンツ配信サービスやサーバーサービスなど他分野での顧客獲得をかなり容易にする。
小売をベースに巨大な顧客リストを得た今では、必要とされているサービスの情報は顧客が提供してくれるし、アプローチすべき顧客も見えている。
そういう意味で、Amazonはスピーディーかつ着実に、新しいインフラを作ったのだと言えるのかも知れない。
デザインの勝利──Apple
ダサくて無骨だったコンピューティングの世界に、Appleは美しさという概念を持ち込んだ。
表向きの「かっこよさ」は、軽薄だと非難されることも多いが、現代の企業の成功(人集め・金儲け)には絶対的に必要な価値観である。
先例に安易に倣うのではなく、「アップル」における成功のアプローチとは何かという徹底した視点。だからこそ、オンライン時代のセオリーに逆らうかのように見える「アップルストア」という戦略を選び、実行し、それを成功に導くことができた。
人間味を排除したメディア──Facebook
Facebookの強みは、マーケティングでも最上位の「認知」に影響を及ぼすプラットフォームを所有することである。
Facebookの所有するプラットフォームがここまで受け入れられ肥大化したのは、「利用者がデメリットよりもメリットを感じる仕組みであるから」だ。
情報の媒介者という意味合いでは、どこからどう見てもフェイスブックやインスタグラムはメディアである。しかし、Facebookはメディア企業と自らを捉えられることを良しとしていないという。
フェイスブックの特徴は、「人の手を介在させない情報」を徹底しているということだ。この「新メディア」の態度が私たちの生活の中にごく自然に溶け込んできている今、現在進行形でこれらSNSが報道という分野に及ぼしている影響は非常に大きい。
すべてを掌握する──Google
わからないことがあればグーグルに聞く。
この行為は現代の「当たり前」だ。どんな質問でも、批判されることがないし、嘲笑われることもない。私たちは他人には秘す秘密の質問までもグーグルにささげ、グーグルはいつでも親身で誠実で丁寧で適切な回答をくれる。
情報を食べれば食べるほど、提供されるデータの精度は上がる。グーグルの提供するサービスの所要時間は短くなり、精度は向上する。だから、グーグルは時間の経過とともにサービスの価格を下げることができる。
これはグーグルの圧倒的な独自性であり、強みである。
グーグルは今やあらゆるものの基盤となりつつある。
私たちはその基盤に逆らうことが、できるだろうか?
「Don't be evil」
うまくいっているうちは、きっとそういう態度でいてくれるだろう。何かしらの抑制がきくうちはそういてくれるだろう。
けれど、もしグーグルがその態度をあからさまに翻した時に……
私たちは神に逆らうことが、できるだろうか?
GAFAに共通するもの
もちろん四騎士もはじめからこのように絶大な影響力を持つ立場にあったわけではない。何が彼らの成功要因なのか。
本書では「四騎士に共通する8つの要素」として、下記の点が挙げられている。
商品の差別化
モノだけではなく体験も含めた圧倒的な「製品」を持つ。
ビジョンへの投資
ビジョンへ投資し着実に資産を増やすことで、挑戦資金を確保する。
世界展開
他国を支配するのではなく他国文化に融合する「製品」であると証明する。
好感度
良き存在、良き市民であると世間から見なされる。
垂直統合
消費者体験すべてをコントロールできる。
AI
データ学習の仕組みと、それをアルゴリズム的に記録するテクノロジーを持つ。
キャリアの箔づけになる
トップクラスの人材を集める力を持つ。
地の利
一流の工学、経営、教養の学位を持つ人材が集まる場所に企業をつくる。
これはあくまで「今」に限定された成功の共通点でしかない。でも、確かにそうだなと思う。
そしてこれまでの世界の歴史を振り返ってみれば、どんな支配にも必ず終わりがあり、かつその終焉には何かしらの「揺り戻し」や「暴走」があるかもしれないことも覚悟しなければいけないかもしれない。
企業は(一見そう見えることもあるかもしれないが)けっして「善意」を第一義としてはうごかない。
民衆としての態度
消費は私たち人間の本能であり、本能から生じる人間の本質的な心理はほぼ普遍で不変である。
デジタルの爆発的な進化がもたらしたデータ学習・アルゴリズムをうまく活用して人間心理をがっつり掴み、四騎士はあれよあれよという間に世の中を牛耳るほどに成長した。
現代の神々は、喜んで私たちが差し出した供物(情報)を食べ、私たちが喜ぶ預言(サービス)を提供しながら存在している。
本書には我々一般人である“農奴”がこの世でうまく生きるためのTipsなども紹介されている。いつの時代も(今でいえば「超便利」「かっこいい」に乗った)大きな潮流には逆らえないが、それを踏まえて強かに自分なりの最善を生きる努力をするのが、民衆というものだ。
従順に振る舞い、利点を最大限享受しながらも、決して気を許さない。
そういう賢い民衆としての態度が、これらの巨大企業に対して必要なのかもしれない。