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現代の支配者のもとで生きる──『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』読書感想文

GAFAはGoogle、Apple、Facebook(現Meta)、Amazonの頭文字。いわずと知れた、今の世界へ絶大な影響力を持つ超巨大企業をまとめた略称である。

本書の刊行は2018年なので、今に至るまでにMicrosoftやTesla、NVIDIAなどの企業を加える議論が生じているものの、この4つの企業の立ち位置は2024年時点においても殊更に大きく変化していないといえる。

本書の冒頭では、彼らを「四騎士」と名づけ、存在をこのように書いている。

四騎士はビジネスや社会、地球にきわめて大きな影響を与えている。もはや政府や法律さえ、これら四騎士の快進撃を止めるには無力なように見える。しかし四騎士自身の対抗心の中にこそ、安全装置が組み込まれているようだ。四騎士が互いを憎んでいるのは明らかだ。いまや彼らはそれぞれの分野では敵なしの状態になり、四騎士同士が直接ぶつかり合っている。

第1章 GAFA──世界を創り変えた四騎士(p.25)

そして、本書はこのように締め括られる。

四騎士と戦ったり四騎士に"悪"というレッテルを貼ったりするのはむなしいかもしれない。
あるいは本当に間違っているかもしれない。私にはわからない。
しかしこれら四騎士を理解することは絶対に必要だ。それはいまのデジタル時代の先行きを予測し、あなたとあなたの家族のための経済的安定を築くための、より大きな力となる。この本がその両方の助けになることを願っている。

第11章 少数の支配者と多数の農奴が生きる世界(p.414)

GAFAが世界にとってどのような存在であれ「この世に存在することは事実である」。だから、存在可否がどうこうというより、それを前提として私たちは生きなければならないし、そのために今起きていることを知り、今後起こり得ることを予測しなければいけない。

本書にはGAFAに多くの影響を受けている著者の私感も含めて、GAFAの正負の面が描かれている。起業家であり経済学者である著者の視点から見るGAFA像(章名に見えるように明らかに好意的ではないがある程度公平であろうと努めている)と、それらに文字通り席巻されるこの世の仕組みがとても興味深かった。

以下は、なるほどなあと改めて納得した箇所を中心に取り上げていく。



GAFAそれぞれのサービス特徴

新しいインフラの創造──Amazon

圧倒的な利便性には、どんな大義名分も太刀打ちできない(これはUberにもいえる)。

何も触れずに買い物ができるという方向へのアマゾンの徹底した取り組み、投資家向け広報活動のうまさ、B2Bへの投資の決定などにより、アマゾンは1兆ドル企業へのレースでスタート地点の最前列を確保した。
小売業におけるアマゾンの支配を確実なものにするのは、あらゆる手段を使って世界中すべての消費者の山ほどのデータを集めようとする努力である。アマゾンはすでに私やあなたについてとてもよく知っている。それほど時間がたたないうちに、買い物の好みについて自分が知っている以上のことをアマゾンが知るようになる。
そして私たちもそれを悪いとは感じない。自ら進んで情報すべてをアマゾンに明け渡すようになるだろう。

第2章 アマゾン──1兆ドルに最も近い巨人(p.61)

Amazonにとって本当に価値があるのは小売による収益ではなく、今や「小売といえば」というワードで世界中で第一想起されるようになった強力なブランド名と、サービスに信頼を寄せる顧客だ。そしてその土台は、コンテンツ配信サービスやサーバーサービスなど他分野での顧客獲得をかなり容易にする。
小売をベースに巨大な顧客リストを得た今では、必要とされているサービスの情報は顧客が提供してくれるし、アプローチすべき顧客も見えている。
そういう意味で、Amazonはスピーディーかつ着実に、新しいインフラを作ったのだと言えるのかも知れない。

アマゾンは世界で最も信頼され、評価の高い消費者ブランドを生み出した。それは消費者に大きな価値をもたらしたからだ。
アマゾンはeコマースの売上高で優位を占めているが、そのピジネスモデルは簡単に再現・維特できるものではない。アマゾンが初めて黒字になったのは設立から7年後の2001年の第4四半期で、それ以降も赤字と黒字を行ったり来たりしている。このことは最近では忘れられがちだ。
この教年間は、アマソンはそのプランド価値で商売し、借入金を利用して他のもっと儲かる事業へと手を広げている。振り返ると、アマゾンの小売りのプラットフォームは、周囲との関係とブランド築き、のちにそれで儲けるためのトロイの木馬だったのかもしれない。

第2章 アマゾン──1兆ドルに最も近い巨人(p.74)

デザインの勝利──Apple

ダサくて無骨だったコンピューティングの世界に、Appleは美しさという概念を持ち込んだ。

アップルのコンビュータは美しかった。エレガントだった。

テクノロジー企業から高級ブランドへ転換するというジョブズの決定は、ビジネス史上、とりわけ重要な──そして価値を創造した──見識だった。

第3章 アップル──ジョブスという教祖を崇める宗教(p.141)

表向きの「かっこよさ」は、軽薄だと非難されることも多いが、現代の企業の成功(人集め・金儲け)には絶対的に必要な価値観である。

ジョブスは他の経営者が理解していなかったことを理解していた。コンテンツや日用品でさえオンラインで販売される時代に、電子機器のハードウェアを高級なぜいたく品として売るにはどうすればいいか。そう、他のぜいたく品と同じように売ればいいのだ。
〜中略〜
アップルが他のテクノロジー企業にはまねできない利益を得て、ありえないほど規模を拡大たのも、このためだ。アップルは「製品の価格は高く、生産コストは低く」を実現した。
〜中略〜
それができたのには3つの要因がある。大き(特に消費者向け)に先駆けて製造ロボットを重視したこと。世界的なサプライチェーンを確立したこと。そしてサポートとIT専門家の力を背景に、小売業としての存在感を確立したことだ。この3つの要素により、アップルはあらゆるブランドや小売業の羨望を集めている。

第3章 アップル──ジョブスという教祖を崇める宗教(p.145〜)

先例に安易に倣うのではなく、「アップル」における成功のアプローチとは何かという徹底した視点。だからこそ、オンライン時代のセオリーに逆らうかのように見える「アップルストア」という戦略を選び、実行し、それを成功に導くことができた。

人間味を排除したメディア──Facebook

Facebookの強みは、マーケティングでも最上位の「認知」に影響を及ぼすプラットフォームを所有することである。

フェイスブックはアマゾンより漏斗の上部にある。フェイスブックは"何"を提案し、グーグルは"方法"を提示し、アマゾンは"いつ"それが手に入るかを教えてくれる。

第4章 フェイスブック──人類の1/4をつなげた怪物(p.160)

Facebookの所有するプラットフォームがここまで受け入れられ肥大化したのは、「利用者がデメリットよりもメリットを感じる仕組みであるから」だ。

誇大なセルフプロモーション、フェイクニュース、集団思考がプラットフォームに蔓延している以上、フェイスブックを疑ってかかるのは仕方のないことかもしれない。しかし同時にそこで人間関係や、愛さえも育まれるということも否定できない。そして、そのようなつながりで人は幸せになるという証拠がある。

第4章 フェイスブック──人類の1/4をつなげた怪物(p.165)

情報の媒介者という意味合いでは、どこからどう見てもフェイスブックやインスタグラムはメディアである。しかし、Facebookはメディア企業と自らを捉えられることを良しとしていないという。

彼らがメディア企業と見られたくない理由はもう一つあり、それはもっとひねくれている。
ニュースビジネスに真剣に取り組む企業は、公共に対する自分たちの責任を認識している。顧客の世界観を形成する役割を重視しているのだ。それはたとえば、客観性、事実確認、ジャーナリスト倫理、シビル・ディスコース(訳注:互いに理解しようとするための対話)などである。それには多くの労力が必要で、その分、利益は減る。

第4章 フェイスブック──人類の1/4をつなげた怪物(p.192)

フェイスブックの特徴は、「人の手を介在させない情報」を徹底しているということだ。この「新メディア」の態度が私たちの生活の中にごく自然に溶け込んできている今、現在進行形でこれらSNSが報道という分野に及ぼしている影響は非常に大きい。

フェイスブックは作業プロセスに人間の力を入れることに慎重だった(恐ろしい!)。というより、プロセスに人間によるいかなる判断も入れようとしなかった。それは公平さを保つための努力だと主張する。トレンド解説チームを丸ごと解雇したときと同じ理由だ。人間が関われば、目に見えるバイアス、目に見えないバイアスが生じるという。
しかしAIにもバイアスはある。AIは人間の手によって、最もクリックされるコンテンツを選ぶようプログラムされている。優先されるのはクリック数、サイト上にいる時間だ。AIはフェイクニュースを見分けることはできない。せいぜい発信源に基づいて、虚偽と推測する程度だ。記事が偽物かどうか、信頼性がどのくらい高いかを確かめられるのは、人間のファクト・チェック専門家だけだ。

第4章 フェイスブック──人類の1/4をつなげた怪物(p.199)

すべてを掌握する──Google

わからないことがあればグーグルに聞く。
この行為は現代の「当たり前」だ。どんな質問でも、批判されることがないし、嘲笑われることもない。私たちは他人には秘す秘密の質問までもグーグルにささげ、グーグルはいつでも親身で誠実で丁寧で適切な回答をくれる。

グーグルが現代の神と呼ばれる理由の1つは、グーグルが私たちの心の奥底にある秘密を知っているからだ。グーグルは透視能力を持ち、私たちの思考と意図の記録をつける。質問することによって私たちはグーグルに、司祭やラビ、母親、親友、医師にさえ話さないことを告白する。昔のガールフレンドをネットストーキングする。なぜばかなことをするのか考える。
不健全なフェティシズム(たとえば足だけに執着する)を持っているか調べる。何であれ私たちはグーグルに打ち明ける。その頻度でそのレベルの質問をされたら、どれほど理解のある友人であろうと引いてしまうだろう。
私たちはこのメカニズムに絶大な信頼を寄せている。グーグルへの質問の6つに1つは、これまで質問されたことのないもの。他の機関専門家や聖職者で、人々にこれほど信頼され、質問を投げかけられるものがほかにあるだろうか。

第5章 グーグル──全知全能で無慈悲な神(p.204)

情報を食べれば食べるほど、提供されるデータの精度は上がる。グーグルの提供するサービスの所要時間は短くなり、精度は向上する。だから、グーグルは時間の経過とともにサービスの価格を下げることができる。
これはグーグルの圧倒的な独自性であり、強みである。

他の騎士と同じように、グーグルは価格を上げるのではなく下げることが多い。ほとんどの企業は逆の方向へ向かう。時間をかけて、できるだけ高い値をつけられるようにする。

第5章 グーグル──全知全能で無慈悲な神(p.214)

グーグルは今やあらゆるものの基盤となりつつある。
私たちはその基盤に逆らうことが、できるだろうか?

しかしおそらく最大の罪は、グーグルをだまそうとすること、つまりグーグルの検索アルゴリズムを出し抜こうとすることだ。

第5章 グーグル──全知全能で無慈悲な神(p.218)

「Don't be evil」

うまくいっているうちは、きっとそういう態度でいてくれるだろう。何かしらの抑制がきくうちはそういてくれるだろう。
けれど、もしグーグルがその態度をあからさまに翻した時に……
私たちは神に逆らうことが、できるだろうか?

GAFAに共通するもの

もちろん四騎士もはじめからこのように絶大な影響力を持つ立場にあったわけではない。何が彼らの成功要因なのか。
本書では「四騎士に共通する8つの要素」として、下記の点が挙げられている。

  1. 商品の差別化
    モノだけではなく体験も含めた圧倒的な「製品」を持つ。

  2. ビジョンへの投資
    ビジョンへ投資し着実に資産を増やすことで、挑戦資金を確保する。

  3. 世界展開
    他国を支配するのではなく他国文化に融合する「製品」であると証明する。

  4. 好感度
    良き存在、良き市民であると世間から見なされる。

  5. 垂直統合
    消費者体験すべてをコントロールできる。

  6. AI
    データ学習の仕組みと、それをアルゴリズム的に記録するテクノロジーを持つ。

  7. キャリアの箔づけになる
    トップクラスの人材を集める力を持つ。

  8. 地の利
    一流の工学、経営、教養の学位を持つ人材が集まる場所に企業をつくる。

これはあくまで「今」に限定された成功の共通点でしかない。でも、確かにそうだなと思う。

そしてこれまでの世界の歴史を振り返ってみれば、どんな支配にも必ず終わりがあり、かつその終焉には何かしらの「揺り戻し」や「暴走」があるかもしれないことも覚悟しなければいけないかもしれない。

巨大企業には巨大企業の課題がある。最高レベルの人材が、もっと報われる新興企業へと流出する。施設が古くなる。帝国が大きくなりすぎて、すべての部位を連動させることができない。嫉妬深く神経質な政府の調査によって注意を乱される。大規模化のためのプロセスが導入されると、企業の勢いが衰え始める。ガイドラインに従うことが適切な判断をすることより重要と考えるようになるからだ。
〜中略〜
ビジネスは生物に似ている。致死率は100%だ。四騎士でも事情は同じで、いつかは死ぬ運命だ。

第7章 脳・心・性器を標的にする四騎士(p286)

4社の計算能力は限界がないに等しく、笑えるほど安い。それらは統計分析、最適化、人工知能についての3世代にわたる研究を受け継いでいる。騎士たちはどれも、私たちが絶えずたれ流している情報の中を泳いでいる。その情報は史上トップレベルの高い知性と創造性と決断力を備えた人々によって分析される。
このかつてないほどの規模の人材と金融資本の集中は、どこに行き着くのだろうか。四騎士のミッションは何なのか。がんの撲滅か。貧困の根絶か。宇宙探検か。どれも違う。彼らの目指すもの、それはつまるところ金儲けなのだ。

第11章 少数の支配者と多数の農奴が生きる世界(p413)

企業は(一見そう見えることもあるかもしれないが)けっして「善意」を第一義としてはうごかない。

民衆としての態度

消費は私たち人間の本能であり、本能から生じる人間の本質的な心理はほぼ普遍で不変である。
デジタルの爆発的な進化がもたらしたデータ学習・アルゴリズムをうまく活用して人間心理をがっつり掴み、四騎士はあれよあれよという間に世の中を牛耳るほどに成長した。

現代の神々は、喜んで私たちが差し出した供物(情報)を食べ、私たちが喜ぶ預言(サービス)を提供しながら存在している。

本書には我々一般人である“農奴”がこの世でうまく生きるためのTipsなども紹介されている。いつの時代も(今でいえば「超便利」「かっこいい」に乗った)大きな潮流には逆らえないが、それを踏まえて強かに自分なりの最善を生きる努力をするのが、民衆というものだ。

従順に振る舞い、利点を最大限享受しながらも、決して気を許さない。
そういう賢い民衆としての態度が、これらの巨大企業に対して必要なのかもしれない。

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