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波にのまれて行き着く先は──『大衆運動』読書感想文


書籍データ

原著の刊行は1951年。
扱う具体例はそれのみに終始するわけではないが、ヒトラー、スターリンなどの、一種狂騒的な世論にバックアップされた支配という時代背景が色濃く反映されている。

大衆運動が起こりやすい状況として、本書に挙げられる「欲求不満が溜まる世の中」もそうだけど、「停滞感に満ちた世の中」もあるのではないかと思う。
結局、今に安住している人間だって変化を求めていないようでいて、心のどこかで他の可能性に無意識的に焦がれ、そのきっかけとなり得る外発的で強制的な変化を求めているのかもしれない。

今回はいつにもまして自己満な内容になっており、以下は感想文というより自分が気になった部分の個人的な要約メモです。
すみません。

私の考える本書のポイント

  • 大衆運動は沈滞した社会を覚醒させ、革新する要因となることが多い

  • 欲求不満を抱える大衆が運動を掻き立てる

  • 大衆運動はある意味指導者が「つくるもの」である

  • 熱狂の中では、人はいくらでも盲目的になる

  • きっかけは知識人が作るが、その思惑は運動の中でほぼ忘れ去られる


納得度の高い箇所の引用まとめ

欲求不満が人々を大衆運動に駆り立てる

自分の生活がもはや修復できないまでに損なわれたと考えている人々は、自己の利益を改善することを有意義な目的と考えることはできない。そうした人々は個人的なキャリアを築ける見込みがあったとしても、骨の折れる努力をしようとは思わないし、それに信仰心やひたむきな献身を捧げようとも思わないのである。 〜中略〜 こうした人々が心の底から切望するのは新しい生活であり、生まれ変わることである。これが実現できないのであれば、せめて聖なる大義に同一化することによって、誇りや自信や希望や、目的の意識や価値の意識などの新しい要素を手に入れたいと、心から熱望するのである。

[7]大衆運動がもたらすもの(p.28-)

大衆運動には互換性がある

人々が大衆運動に参加する準備ができているとすれば、そうした人々は効果的な運動であるならば、どのような運動にも参加する用意があるのであり、特別な教義や計画のある運動だけを選んだりはしない。 〜中略〜 一つの大衆運動はたやすくほかの大衆運動に変身することができる。例えば宗教的な運動が社会革命に変わることも、 〜中略〜 民主主義的な運動が社会革命に変わることも、宗教運動に変わることもあるのである。

[14]どのような大衆運動にも互換性がある(p.35-)

何より重要なのは「完全な集団的組織としての枠組み」

これらの人々を無能な自己から解放することによって、すなわち緊密に結びついた絆を持ち、喜びにあふれた集団的な統一のうちに吸収することによって、それらの人々の傷を癒やすのである。 〜中略〜 (大衆運動の成功に必要なのは)欲求不満を持つ人々を素早く、完全に吸収することのできる集団的な組織を備えているかどうかということである。

[34]集団的な組織の重要性(p.71)

戦後は一時的な不適応者が増える混乱の時期

復員した兵士たちは、軍隊に入る前の生活リズムを取り戻すのが困難であることに気づくことになる。平和と家庭的な生活にふたたび適応するのは困難であり時間もかかるために、邦中に一時的な不適応者があふれる結果になる。
このため秩序を確立するには、平和から戦争に移行する時期よりも、戦争から平和に移行する時期の方が危険なものと考えられるのである。

[36]一時的な不適応者(p81)

自己犠牲の精神が生まれる理由

欲求不満に悩まされている人々はどのようなものによって苦しめられているのだろうか。こうした人々は自己が修復できないまでに傷つけられているという意識によって苦しめられているのである。欲求不満を抱いている人々が主として望んでいるのは、自己から逃れることであり、このような欲望が統一運動と自己犠牲を重視する傾向として現れる。こうした望ましくない自己への嫌悪と、自己を忘れ、自己に仮面をかぶせ、自己を投げ捨てて失おうとする衝動によって、自己犠牲を進んで行おうとする気持ちが生まれ、緊密に結びついた集団的な全体のうちに自分の個人的な性格を溶け込ませようとする傾向が強まるのである。

[43]大衆運動の二つの重要な特徴(p.100-)

栄光のための虚構をいかにつくり上げるかが重要

自分の生命を捧げ他人の生命を奪うという残酷な仕事を成功させるためには、何らかの演技のようなものが必要不可欠であることは、軍隊について考察してみればすぐに明らかになる。軍隊の制服とか軍旗とかエンブレムとかパレードとか音楽とか、手の込んだ礼儀作法とか儀式などは、兵士たちを自分の生身の自己から分離させ、生きるか死ぬかという圧倒的な現実から目を背けさせるために考え出された。戦争というのものは一つの芝居のようなものであり、戦闘はその一つの場面のようなものである。

[47]虚構の果たす役割(p.113-)

都合の悪いことは見えないし聞こえない

感覚や理性が示す証拠に依拠することは、異教であり反逆である。何かを信じるということを可能にするために、どれほど信じないということが必要であるかは驚くべきことである。私たちが盲目的な信仰によって信じていることは、無数の不信によって支えられているのである。 〜中略〜 忠実な信奉者たちは、見るに値しない事実や聞くに値しない事実に対して「目を閉じ、耳を塞ぐ」能力をそなえているのであり、この能力こそが信奉者たちの類いまれ忍耐力と思想的な堅固さの源泉なのである。

[56]教義と自己犠牲(p.133-)

憎悪は一番の行動理由になり得る

統一の原動力のうちでも憎悪はもっとも近づきやすく、広い範囲に及ぶものである。個人は憎悪によって自分自身から引き離されて高く舞い上がり、自分の幸福や未来を忘れてしまうし、嫉妬や利己主義からも解放されるのである。 〜中略〜 大衆運動を動かして進展させる方法を知っている人であれば、その洞察とずる賢さによって、どのように教義を採用し、どのような計画を採択すべきかがわかるだけでなく、どのようにすればふさわしい敵をみつけらるかもわかるものである。

[65]憎悪の果たす役割(p.151-)

より強い憎悪を生む方法

敵を憎むときには、悪の塊のような敵よりも多くの長所を持っている敵のほうが、憎しみやすいものである。私たちは自分が軽蔑している相手を憎むことはできない。 〜中略〜 「態度の価値や確信の強さや意思の力を示すためのもっとも優れた尺度となるのは、敵からどれほど強い敵意を向けられるかということにある」とヒトラーは明言している。

[73]憎悪の背後にある賞賛の念(p.159-)

個人の独立性の喪失が人間性を失わせる

大衆運動の団体行動において個人の独立性を喪失してしまうと、私たちは新たな自由を獲得する。これは恥じる心も後悔の念もなしに他者を憎み、いじめ、嘘をつき、拷問し、殺し、裏切る自由である。大衆運動の魅力の一部がそこにあるのは疑いのないところである。 〜中略〜 ルナンは世界の開闢以来、慈悲深い国というものが存在したことなど聞いたこともないと語っている。 〜中略〜 徹底した統一と無私の献身が生み出されるには個性というものを否定する必要があるが、これはかなりの程度まで人間性を失わせるプロセスである。拷問室は団体の精神が生み出した制度なのである。

[77]憎悪と自己の放棄(p.165-)

運動の指導者に必要な能力

(大衆運動の指導者に必要な能力とは)卓越した知性や高貴な性格や独創性などは、不可欠なものではないだろうし、おそらく望ましいものでもないだろう。必要される主な才能は、 〜中略〜 有能な副官たちの極度の忠誠を獲得し、維持する能力にある。 〜中略〜 大衆運動の指導者による指導が効果を発揮できるかどうかは、その指導者に大胆さと、聖なる大義に対する狂信的な信仰と、緊密に結びつけられた集団の持つ重要性の認識と、何よりも有能な副官たちの集団に熱烈な献身を呼び起こす能力がそなわっているかどうかによって決まるだろう。

 [90]傑出した指導者の役割(p.189-)

知識人の思惑は運動が進むにつれて大衆の思惑に差し替わる

大衆が望んでいるのは良心の自由ではなく、盲目的で権威主義的な信仰である。大衆が古い秩序を一掃するのは、自由で独立した人々の社会を作り出すためではなく、人々の画一性と個人の無名性と完全な統一を実現する新しい社会組織を確立するためである。

[109]知識人の望みと大衆の望み(p233-)

国家の活力を示すバロメーター

ある国の潜在的な活力の大きさは、その国にそなわった渇望の蓄積量によって決まる。ヘラクレイトスは「人間にとっては、欲することがすべてかなうのは、さほどよいことではない」と語っているが、これは個人だけでなく国家にも当てはまることである。 〜中略〜 完璧なものになろうとする運動を絶えずつづけさせるような目的だけが、そうした欲望をずっと満たしながら、つねに国家に潜在的な活力を維持させることができる。

[124]大衆運動が国家に与える力(p268-)

急速な崩壊の方が傷が少ない場合もある

ある国の政府が慢性的な無能の兆候を示し始めたならば、そうした政府が自然に没落して倒壊するにまかせるよりも、強力な大衆反乱によって転覆させたほうが、その国にとって好ましいとも言える。 〜中略〜 こうした政府が長い時間をかけて崩壊するにまかせているならば、国には停滞と衰亡が訪れることが多いのであり、衰退はおそらく修復しえないものとなるだろう。

[125]社会を覚醒させる大衆運動の力(p.271-)


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