お茶碗を割って大泣きした話

親の転勤でドイツに引っ越してきたばかりの話だったと思う。
当時私は、日本の幼稚園を知らないうちに辞めさせられ知らないうちにポーンと現地の幼稚園に急に入れられたのだった。
現地の幼稚園に日本人なんて1人もいなかったし、言語もわからないし、なんだかあっちの子どもは自分と違って積極的に自己主張するし、テレビをつけてもいつも観ていた「おかあさんといっしょ」とか「ちびまる子ちゃん」とかやってないし、何もかもが今までの生活と違って心が不安定になっていたのだと思う。

ある日夜ご飯を食べていた時、日本から持ってきていたアンパンマンのお茶碗を落として割ってしまった。両親は全く怒らずせっせと片付けをしてくれた。それなのに私は大泣きしてしまったのだった。
アンパンマンが好きだったからとか、お気に入りのお茶碗だったから泣いたのではない。
「お茶碗」だったから泣いたのである。
毎日幼稚園で出されるミントティーも洋梨もなんだか好きになれないし、ランチタイムにみんなはお弁当箱にご飯とおかずを入れてきて持ってきてない。バナナ一本とかサンドイッチとかりんご丸ごととか。
知らないものばかりで疎外感を感じていたのだと思う。

言語も違う、友達もいない、知らない世界に突然連れてこられて、唯一日本を感じられるものがアンパンマンのお茶碗だったのだ。

小さいながらに繊細に感じていた。
このアンパンマンのお茶碗がなくなってしまえば日本を忘れてしまうのではないか、とさえ考えていた。
小さかったから上手に感情を表現できなかったけれど、今はそれほど慣れない環境への不安感とか寂しさとかを感じていたことがわかる。

大人になった私は、今ドイツでの生活を心の底から恋しく思う。
またあの築100年以上の隙間風の吹くピンク色のアパートで家族4人で仲良く暮らしたいなと思う。

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