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同調圧力をホフステード理論とCQでひも解く その①:なぜ半数以上の日本人が『世間』を気にしてマスクを外さないのか?

私が通っているジムの壁に、3月頃こんな大きな張り紙が掲示されました。

      

しかし、この文言にも関わらず、3か月経った今でもコーチを含め90%の人がマスク着用して汗を流している様子。もともとマスクが苦手で緩和と同時に外した私にとっては実に驚くべき割合です。街中でも、連日夏日の中マスク着用で歩く人が過半数で、ついつい熱中症が心配になってしまいます。

ちなみに海外と比較するとどうでしょうか?
私の最近の経験になりますが、昨年11月と今年4月に所用で海外(ニュージーランドとアメリカ北東部)に行きました。両国ともマスクをしている人の割合は1~2割程度の感じ。ところが日本の国際空港に到着するやいなや見渡す限り全員がマスク着用していることにあらためて驚きました。

日本人の半数以上は『人の目』を気にしてマスクを外さない


日本のマスク着用の現状やその理由はどうなっているのでしょうか?
2023年5月に行われた調査によると、3月13日のマスク緩和後、66.5%の人が「特に変わらず、できるだけマスク着用している」と回答。(n=400)

マスク着用の理由を聞かれると、「感染を防ぎたいから」57.5%に続き、「周りが着用しているから」51.5%という2つの理由が突出しています。

どうやらルールが撤廃されても、日本では「人の目」「空気」「世間」というなにやら曖昧なものが、大きな力を持っていることが伺えます。

出典:株式会社ロッテによる調査:2023年5月16日(筆者一部改変) https://www.lotte.co.jp/info/news/pdf/20230515150407.pdf


「世間」がホンネで社会がタテマエという二重構造

それでは、日本人はなぜここまで「人の目」を気にするのか、そして私たちを支配する「世間」とは何なのでしょう?

評論家で法学者の佐藤直樹氏は、「社会」と「世間」の違いについて以下のように述べています。

社会が「ばらばらの個人から成り立っていて、個人の結びつきが法律で定められているような人間関係」なのに対して、

世間とは「日本人が集団になったときに発生する力学」「力学」であるからそこに同調圧力などの権力的な関係が生まれる。(中略)

同調圧力とは「少数意見を持つ人、あるいは異論を唱える人に対して、暗黙のうちに周囲の多くの人と同じように行動するよう強制すること」

日本人は「世間」がホンネで社会がタテマエという二重構造がある。

鴻上尚史、佐藤直樹「同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか」
講談社現代新書より抜粋

「社会」という言葉は、日本には明治時代に英語のSocietyを翻訳して輸入された概念。従って、日本には古来から「世間はあるが社会はない」と佐藤氏は言います。

「社会」では「個人」が独立しているので、それぞれがバラバラな行動を取らない様に「法律」など明確なルールによって規定せざるを得ません。一方で「世間」では「同調圧力」が自主規制のエンジンとして働くと言えそうです。

例えば2020年の新型コロナウィルス感染拡大当初、世界の多くの国が罰則を伴う行動制限、つまり「ロックダウン(都市封鎖)」を行いました。
特に「社会」の概念を生み出した欧米の場合は、「個人の権利」を制限する法律(命令)とその補償がセットになる形で実施されました。

それに対して日本では、強制力のない「緊急事態宣言」「お願い(要請)」しか出されなかったにも関わらず、多くの人が自主的に外出を自粛し、いまだにマスクを着用しています。

政府にとっては、反発リスクのある罰則を設けなくても「世間」の力が自主規制に働く訳ですから、(時には「忖度」まで)都合よく国民性を利用したとも言えるかも知れません。

それどころか、「世間」の力学は更に「異論を許さない空気」を生み出し、自粛しない人・できない人を排除しようとするベクトルさえ帯びます。
パンデミックの例で言うと「マスク警察」のような「自主的に相互監視」する人も出てくる訳です。

  

「世間」も「同調圧力」を利用?

振り返ってみると、私たち日本人はこの「力学」を日常的に意識的・無意識的に使い、使われています。

たとえば、自分の仕事は終わっているのに、同じ部署の人が多忙そうなので、なんとなく帰りづらく残業してしまう。反対に「忙しいから協力してほしい」という意図を暗に言葉ではなく態度で伝える。

会議で多数派の意見が形成されつつある時、異なる意見があっても少数派は黙ってしまう。反対に多数派は「空気を利用して」少数派の意見を封印する。

冒頭のジムの張り紙の例では、このような暗黙のメッセージが込められているのではないのかと、つい勘ぐってしまいます。

「マスクの着脱は(政府の指針で)個人の判断とされたので、『マスクをしない人にするように指導してくれ』というクレームは聞き入れられません。その代わり、コーチは全員マスクをしますので納得してください。」

またマスクをしない人に対しては、「こういう声があるのを察して、できれば空気を読んで臨機応変にマスクをしてください。」

こう思うのは、単に私の「空気の読みすぎ」かも知れません(苦笑)。

ホフステード理論でひも解く:「人の目を気にする」「他人と違うことを嫌う」傾向はどこからくるのか?

オランダの社会心理学者で「文化と経営の父」と呼ばれるヘールト・ホフステード博士は、長年の研究により「文化次元」という概念を生み出し、世界の文化を数値によって定量化しました。50年近くにわたり、様々な批判も受けながらも文化研究のスタンダードとして世界中の教育、経営、組織開発、人材開発など様々な場面で引用されています。

次回はホフステード理論とCQを用いて、日本に特徴的な「同調圧力という『力学』」を分析したいと思います。

(文:CQラボ理事 田代礼子)
一般社団法人CQラボ cqlab.com


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