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LOG1 思い出は儚いものと知る カナダ・バンクーバー

その日私は人生2回目のバンクーバーにいた。1度目は大学生のときに経験したカナダ留学で今回は仕事で、だ。

生まれて初めての海外がカナダだった。そして今回仕事でデビューする国もカナダ。私はもしかしたらカナダに縁があるのかもしれない。
超がつくほどドメスティックな家庭で生まれ育った私にとって、大学生のときに初めて見た海外の景色と雰囲気が忘れられなくて、私はこの仕事を選んだ。

バンクーバーはカナダ国内第3位の都市。オリンピック開催などで名は知れているが、実はカナダの首都はオタワで、バンクーバーではない。都市部ながら自然に囲まれていることから観光業が発達し、特にギャスタウンは今も発展を続けている。

飛行時間は東京国際空港(羽田)から8時間半から9時間。夜22時ごろ出発するいわゆる深夜便だ。現在はボーイング787という燃費の良い最新機種を使っているが、当時はB767という少し前の機材を使っていた。ちなみに国内線では今も使われている。
大きすぎず小さすぎず、乗務員同士でコミュニケーションもしやすいのでCAからは好かれている飛行機だ。

国際線の飛行機にはだいたい乗務員が休憩をとる場所(簡易ベッドスペース)があるが、この飛行機にはそれがない。
だから後方座席6席を乗務員の仮眠スペースとして確保して、長い深夜フライトでの休憩に使うのだ。座席周りにはカーテンをつけて、お客様には見えないようにしている。

ときどき間違えて、というより興味をそそられるのかカーテンを開けるお客様もいる。そのときのお客様の驚いて申し訳なさそうにする顔には、こちらも思わず「驚かせてごめんなさい……」となる。
そりゃ客席の一部にCAが座って寝てたら、誰もがびっくりするだろう。今はなき、いい思い出だ。

バンクーバー空港からダウンタウンまでのアクセスはとてもよく、スカイトレインという電車に乗れば30分くらいで到着する。
滞在時間は限られているので、到着してすぐに私は最小限の荷物を持ってホテルをでた。
学生時代にみたバンクーバーの街を、もう一度見たかったのだ。「今見たらどんな気持ちになるだろう」そんなわくわくした想いを抱えながら。

終点のWaterfront駅に着いた。この近くにあの有名な「蒸気時計(steam clock)」がある。15分に一回、汽笛がなる時計だ。ちなみに北海道の小樽オルゴール館前にも蒸気時計があるが、これも同じカナダの時計職人が作ったものらしい。なぜ小樽にあるのかは分からないけど。

初めて見たとき赤レンガのレトロな街並みに溶け込む時計に、私は感動した。人によっては「小さい!」と衝撃を受けるようだが、当時そんな予備知識はなかったため、私はすんなりとこの時計の可愛さに惚れてしまった。
きっと誰もが初めての海外には思い入れがあるように、私にとってもカナダの景色ひとつひとつが本当に眩しく映ったのだ。

ビクトリアというハーバーサイドの街

私はバンクーバーからフェリーでほど近い、ビクトリアという街に留学していた。バンクーバーのような都会と違って、ビクトリアは花や緑に溢れたカラフルでメルヘンな、どちらかといえば田舎街だ。ガス灯に掛けられた色とりどりの花、池の周りにいるストリートパフォーマー、街角でサックスを吹く若者、スケボーで通学する学生、街に並ぶ小売店、歩くだけで新鮮で楽しかった。

バスに乗れば、当たり前のようにドライバーに「Thank you!」と言いながら降りる人々や、すれ違いざまに「Do you have the time?」といって時間を聞いてくるおばあちゃん、そんなカナダの優しい文化や人柄も魅力的だった。

英語はというと私は全く得意でなく、発すること自体に恥ずかしさがあった。できない人の典型だ。というかこんなかっこいい言語、本当に現地で使われているのか?という他人からは理解しがたい謎の思いがあった。そしたら本当にその言葉たちが使われていて、私たちが学校で習っている英語はちゃんと”通じる”ということがわかった。英語ができないまま留学に行ったから、すらすらとコミュニケーションするのは難しかったけど、英語を「生きた言語」として自分の中で認識できたのは大きかったと思う。

思い出は儚いものと知る

当時学内のアクティビティで日帰りでいったバンクーバーだったけど、歩けば何かしら思い出すだろうと思っていた。だが正直なところ、時計台以外はまったく記憶になかった。
時計台のあるエリア以外は赤レンガのレトロな雰囲気はなく、ビルやショッピングセンターが並ぶただの巨大な都市で、若者がたくさん歩いていた。
「そんなもんか……」
意気揚々と出向いたけど、結局大きな都会を歩いて疲れただけだった。

電車での帰路、かなしいくらいのピンとこなさに自分でも驚いていた。だけど確実に、私の始まりはこの国、カナタだったのだ。

海外へ憧れ、人々の違いや文化に触れたこと、街並みや異国のにおい、これらを自分の向こう側の世界でなく、リアルなわたし側の世界として触れることができた。

何事も、自分ごとに捉えられることが理想に近づく大きな一歩ではないだろうか。振り返るとそう思う。

その気持ちを思い出せただけでも、この場所にもう一度来れてよかった。必死すぎてフライトのこともあまり覚えていないが、国際線に乗務するってやっぱり夢のある仕事だと思った。

だって世界中に、好きな場所が増えていくのだから。


<本日のおみやげ>

実ははちみつよりもカロリーが低いメープルシロップ。モン・ファボリのメープルシロップはカナダケベック州産の100%ピュア製品で身体にも良い。ゴールデンの色味が食欲をそそります。

カナダの若き天才が発明した海外セレブや美容オタクから絶大な人気を誇るthe ordinary (ジ・オーディナリー)。愛用中。

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