祈りの光と風の空間 風の丘葬祭場(建築物語10)
今回は、九州にある、風の丘葬祭場を紹介します。
大分県中津川市の、中津駅から車で10分の丘にある葬祭場です。
設計者は、槇文彦さん。
代官山のヒルサイドテラスなど、安藤忠雄さんなどともに、日本の建築界を牽引してきた建築家です。
風の丘葬祭場は、竣工1997年の市営の葬祭場です。風の丘と名付けられた、広大な芝生が広がる公園の中に建っています。
2000㎡程度のちいさな建築の中に、見るべき空間がたくさん詰まっています!
前職のとき上司が「とてもいい建築だ」と言っていたので、九州を訪れた際にはぜひ行ってみたかった建築です。
アプローチは、門型の鉄筋コンクリートの薄い庇が迎えてくれます。当時としては珍しいコールテン鋼(あえて表面を錆びさせて耐候性を上げた鉄板)の施設表示サインがワンポイントになっています。
庇のつきあたりのエンドカットが、奥に誘います。レンガ・コンクリート、コールテン鋼の素材の組み合わせが、美しいですね。
施設にある、アートのような施設案内板。施設案内と称していますが、省略されすぎてて施設内部が良く分かりませんね。
ただここは美術館とは違い、葬祭場ですから、施設構成の詳細を知る必要はないので、全体がふわっとわかればよい、といった具合でしょうか。
丘のランドスケープに、建築が溶け込んでいます。コールテン鋼の壁の縦スリット窓が、アクセントになっていますね。
杉板型枠のコンクリートの表情。コンクリートに木目の表情が出て、いいですね。僕もこの後に設計した案件で使わせてもらいました。
部屋の真ん中にある、柱は、竪樋なのでしょうか。
柱にしては細いし、この空間は柱がなくても構造的に成り立つような感じ。よく見ると屋根から樋のような金属部材が覗いています。
建具のプロポーションもいいです。コンクリート一色の空間の中で、建具、トップライトの配置センスとサイズ感がいいですね。
竜安寺のような、砂利の中庭のある共用廊下です。息を飲むような、陰影の美しい空間。
故人との別れの前の、共用のホワイエです。
素材ごとの色彩を統一することによって、自然光による陰影が浮き上がっています。
静謐という言葉が表現として正しいのか分かりません。
ただ設計者が意図して故人を祈るのにふさわしい空間の解釈として、モノクロームと素材の構成に徹底してこだわったのが伝わってくる気がします。
故人とお別れした後、施設から出るための、前室空間。
この施設は、開口部が、いくつかの機能になっているなと感じました。
意図した場所に光を照らしてドラマティックな空間に仕立て上げる開口部。
建築空間の一部としての開口部自体の端正なプロポーション。
奥に自然に誘う、施設案内として光空間を演出する開口部。
柱の天井とのエッジを際立たせるディテール。多角形の柱と天井の取り合いを美しく見せる納まりです。
エントランスの半屋外空間にあるルーバー。直接光を遮り、柔らかな光を届ける装置。
Lアングルとロッドの組み合わせは、無骨ながらもシンプルなメタルワークですね。
傘立てや、消防設備を格納するパネル。トイレへのサインは後付けなものの、祈りの空間としてのミニマリズムを演出に、必要だけど見せるには邪魔な要素を美しく隠すディテールですね。
最後のお別れをしのぶ空間へ続く扉。袖壁、天井、扉の各要素がデザインされた開口部。
葬儀におけるメインの空間への境界ですから、シンプル過ぎないでもうるさくない程度に演出されたデザインとなっています。
風の丘葬祭場は、たった20年前に建てられた建築ですが、コルビュジエやミースといったモダニズムを感じさせます。
そこにある要素の、美しさを兼ね備えた必然性といった機能美の建築。コンポジション(構図)の美しさ。
ただ機能然として設計したら、美しくならないかもしれないし、美しさを求めたら機能性が損なわれることもある。
機能と美の追求を、いったりきたりして収斂させてできた建築なのかなと。
そんな収斂の作業を、どこまで練度を高めた状態で仕上げるかにセンスが問われると思っていますが、この建築はちょうどいい!、と感じます。
収斂し続けると、かえってつまらないものになってしまうかもしれない。そんな収斂を最高の状態でやめた建築だな、と建築空間を歩いて感じていました。
ぱなおとぱなこ
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