論70.ノウハウ書は、なぜ役立たないのか

〇情報社会での選別
 
ネット社会が到来して情報量がとても増えました。いろんな人のノウハウが、いくつもすぐに得られるようになりました。
自分の考えていたことも、大体はどこかの誰かが似たようなことを言っているし、自分の突き詰めたいテーマも、誰かが研究しているようなことまでわかるのです。
しかし、そうなると逆に自分しか考えていないこと、他の人が手をつけていないテーマもはっきりします。絞り込むためには、よい環境になったとも思えます。
 
 
〇仕事術
 
私は、仕事術についても学んできました。何よりも、仕事をすすめるためにいろんな仕事の方法が必要でした。仕事のなかでの課題や工夫、そして、PCやネットなど新しい知識を吸収しながら、同時進行でまとめていったのが、私の仕事術です。
でも、インターネットの導入期くらいで、これはもう、自分ではなくて次の世代の人たちが適していると思ったのです。
ネットに、そうしたアドバイスや答えはいくらでも出ており、このレベルでの仕事に自分が労力を割く意味を見つけにくくなったのです。
他の人ができる仕事を自分が行うということは、その人の仕事を奪うことにもなります。
元々、仕事のノウハウについては、自分で将来の夢を追いかけるために、編み出していったものであり、他の人とシェアしようと思ってつくったものではなかったのです。
 
 
〇役得
 
自分の夢の実現のためには、どうしても人のネットワークや金銭的なものが必要になります。そういう意味でいえば、そのためにも、それらを必要とする人たちに役立つのであれば、奉仕することはやぶさかではありません。
どの分野の中にも、必ず創造に結びつくようなアイディアがありました。心身の使い方などの勉強もでき、そういうところに関心を持つ人たちと出会うことによって、いろんなことを学ばされました。
 
 
〇思想とノウハウ
 
仕事術に関しては、ノウハウの部分ばかりが求められ、初期の頃のような思想や考え方の部分はカットされるようになって、味気なく感じられてきたのです。
たとえば、当初は、最初に必ず思想を述べていました。それがやがて、もはや思想はなし、「今日からできるノウハウ」だけが編集されることになったのです。
 
 
〇思想からの実践と創造
 
思想があれば、基本的なやり方をふまえ、あとは本人が応用していくことができるようになるのです。しかし、思想でなく、すぐに役立つノウハウとメニュだけが求められるようになったのです。
ノウハウなどは、思想があれば、その人なりに50でも100でも出せるのであり、思想、つまり、それを用いるための考え方の方が、ずっと大切なのです。
考え方を学んで何をするのかは、個々人が創り出さなければいけません。この創り出すことに対して日本人は苦手なのです。というよりも、覚悟がいるということです。
 
 
〇反「頭の体操」論
 
昔、「頭の体操」という本が、多湖輝さん監修で大ヒットとなりました。視点を変えたり物の考え方に対して、気づきや驚きを与えるという点では、「頭の体操」の1冊目は、とても斬新で意味があります。
その1冊で、そうした考え方とパターンを身に付けた人は、2冊目以降、それによって解いていくのです。それが楽しくて続巻も売れていくわけです。
しかし、こうなるともう、パターン思考に過ぎません。その時間内で解ける方法を見つけるのですから制限時間もヒントです。時間が長ければ、ひねられて難しいもの、短いのであれば従来パターンと見当もつくのです。
推理の小説や漫画や映画のように、その中で描かれているものを丹念にたどっていくと必ずヒントがあるわけです。伏線となるところです。登場人物の行動の描き方で不自然な点を見抜いていくと、だんだん推理が上手くなります。
 
 
〇成功体験のパターン化の害
 
実際の現場では、そういった場面が焦点化してみえるのではなく、時空は無限に広がっているわけです。
たとえば、推理小説には、よく読むと、必ずどこかにヒントが入っているわけです。漫画にしてしまえば、どこかのコマに加えてあるのです。つまり、実際の事件では、クローズアップされてみえないようなものが、作品となると、編集でクローズアップせざるをえなくなります。そこでは、もはや現実離れしているのです。
 
ですから、時間の制限がつき、正解があるようなものを解いていくのは、初期の訓練には適しても、その後の自由なイマジネーションを養うにはマイナスになりかねません。つまりパターン化した思考が固定概念となって、これまでのパターン以外、つまり、ほとんどの現場での発見をしにくくしてしまうからです。成功体験の固定観念化です。
時間制限をつけてあるのは、頭によくないのです。
仕事もそれと似ているところがあります。その考え方は、アートの分野に入るとなおさらそうなるでしょう。
 
 
〇ヴォイトレのノウハウ
 
ヴォイストレーニングには、そういう経験がとても役立ちました。
普通のヴォイストレーナーのヴォイストレーニングは、まるでそうしたノウハウの伝授の形で行われ、そうした本に描かれているからです。
初心者が少々上達するにはよいのです。カラオケをちょっと上手くなりたいという人には向いています。
それが第一歩になればいいのですが、その繰り返しによって、さらなる可能性が妨げられてしまうわけです。それに馴染んでしまった人ほど、そこから逃れられなくなってしまいます。
 
 
〇依存化
 
そうしたハウツー本は、そうしたトレーナーのレッスンと同じといえます。自立性のない人ほど、そこに依存していくことになります。それによって、精神的に安定するし、問題も起こらなくなってきます。つまり、自分の力で未来を切り開くような本当の実力を身に付けることができなくなっていくのです。ますます自立できなくなるのです。
 
なぜなら、そうした本やトレーナーのノウハウよって目を塞がれてしまい、気づかなくなっていくからです。しかし、それでよいという人が大半です。それも、その人の人生の選択です。
 
 
〇10年のキャリア
 
10年以上続けないと身に付かないキャリアは、普通は、10年かかるのです。それを1年や2年で競っても仕方がありません。私も丸々10年を費やしたからです。
私は、最初から10年分の修練、苦労を予定しています。
それから見ると、2、3年の試行錯誤や理解の間違いやり方のミスなどは、ささいなことでしかありません。
少なくとも、正しいやり方を聞き、正しいものを当てはめ、正しい答えと思ってしまう2、3年と比べると、ずっとましなことです。
 
 
○問うこと
 
答えを求めるのでなく、問いをつくる力をつける、自らが問いをつくり出せたら、答えに至る道は見つかってきます。
最初から他人の答えでまねて、それが自分の答えと思ってしまうと、自分の素質も才能もそれ以上に開花しません。他の分野、絵画や彫刻、陶芸などをみたらわかるでしょう。
 
そんなものを評価してはいけないのですが、日本の業界は、それを選んできたきらいがあります。ですから、より厳しい世界、本当に実力でしか勝負ができないような世界の考え方やトレーニングの仕方を参考にする方がよいのです。
 

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