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公開記念トークレポート:サヘル・ローズさん

映画『ブレッドウィナー』12月20日に恵比寿ガーデンシネマで劇場公開が始まりました!

初週の週末である12月22日には、女優のサヘル・ローズさんが、アフタートークのゲストとしてお越しくださいました。そのトークのダイジェストをご紹介!

聞き手は、本作の配給元Child Film代表の工藤雅子です。(以下、敬称略。)

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工藤)まず、本映画『ブレッドウィナー』をご覧いただいた感想をお聞かせください。

サヘル)とにかく色彩がすごく美しい作品だと思いました。戦争という心が痛むテーマですが、それがアニメで表現されることで、いい意味で柔らかく、一方で、現実をきちんと突きつけてくれる作品だと思いました。主人公のパヴァーナに「がんばれ!」と思わず声をかけたくなりますよね。

そして、善と悪ってなんだろう?と考えさせられる作品でもありました。パヴァーナにいじわるをしていた少年もおそらく、何が正しいのか、自分が何をしているのかわからなくなってしまうような時代の中にいたのだと思います。人間のもろさのようなものをすごく感じました。

最後も、私たちの心に問いを残して、想像力を膨らませてくれるような終わり方で、すごく愛おしかったです。大人にももちろん観てほしい作品ですし、10代のこれから社会に出て行く子たちにも観てもらいたいですね。平和が決して当たり前ではなく、世界の様々な場所でこういうことが、過去の問題ではなく現在進行形で起きているのだということを、感じてもらえるのではないかと思います。

工藤)原作の書籍では、読者のこどもたちからの希望がたくさんあったため、「続き」の物語が書かれています。気になる方はぜひ本も読んでみてください。 

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工藤)今回の舞台、アフガニスタンは、約40年にわたって紛争状態が続いていますが、もともとは「シルクロードの拠点」や「文明の十字路」とも呼ばれる、文化が豊かな場所でした。サヘルさんは、自分の国を逃れた難民の方々のもとを訪れてもいらっしゃいますが、それぞれの国の文化に対する誇りや、ふるさとへの愛情などを感じることもありますか?

サヘル)自分の国の香りがあったり、自分の国の花があったり、自分の国に対して愛情や誇りを持っている方々が、世界にはたくさんいます。その愛する国を離れなければならない環境に置かれていることは、すごく辛いことだと思います。

一方で、その国の美しさや良いところが伝えられずに、ネガティブな面しか報じられないこともまた、悲しいことだと思うんです。

私自身、この映画を通じて、アフガニスタンの美しさも知ることができて、すごく愛おしくなりました。そうした魅力や素晴らしい面も知ることが、その国から離れたくないと思ったり、その国を立て直したいと願ったりする方々の気持ちに寄り添ううえで、大切な一歩なのではないかと思います。

工藤)お打ち合わせの際に、映画冒頭のごはんのこともお話ししていらっしゃいましたよね?

サヘル)そうなんです。映画に出てくる、人参とレーズンが混ざったご飯がありますよね。あれはイランにもあるご飯なので、驚きました。アフガニスタンとイランでは言葉は違いますが、お隣さん同士で通じる部分があるのだと学びました。

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サヘル)逆に、監督たちは、なぜアフガニスタンを舞台にしたこの作品を作ろうと思ったのでしょう?どんなことを映画で伝えたかったのですか?

工藤)監督は、この作品にあえてメッセージをこめなかったと話しています。ご覧になった方が、観終わったあとに、この映画についてさらに考えてくれたり、他の誰かと話をしてくれたりすれば、この作品を作った意味があると言っています。

作品を作った背景としては、もともとカナダの製作会社が原作の映画化権をもっていて、本作のアニメーション・スタジオ「カートゥーン・サルーン」に一緒に映画にしないかと声をかけてきたんです。それでトゥーミー監督が本を読んだのですが、パヴァーナに心を奪われて、一晩で一気に読んでしまったそうです。

監督は二人の男の子のお母さんでもあり、パヴァーナのこともお母さんの目線で見ていたようです。目の前に転んで泣いている子がいたら、誰もが「大丈夫?」って声をかけて立ち上がらせてあげようとしますよね。そうした、みんなの心の中にある感情を引き出そうとしたのではないかと思います。

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サヘル)確かに、この映画を観たとき、パヴァーナにとても感情移入をしましたし、親のような気持ちにもなりました。

そしてパヴァーナはアフガニンスタンの少女ですが、同じように過酷な環境下で必死に生きて、必死に明日を迎えようとしている子どもたちは、日本のなかにもいると思うんです。そのときに気づくことができるか、手を差し伸べられるかって、とても大切なことですよね。

「あなたは周りをちゃんと見ていますか?誰かに気持ちを寄せられていますか?」という大事な問いを、この映画からあらためて教えてもらったような気がします。

工藤)原作と映画で一番大きな違いが、切り絵で表現されている物語のパートです。この映画の大きなテーマのひとつが、「物語がもっている力を信じること」なのですが、サヘルさんも女優として活動されるなかで、「物語の力」をどのように考えていらっしゃいますか?

サヘル)私が表現のお仕事をさせてもらっている理由は、まさにそこにあります。自分の体や自分の経験の引き出しを最大限に使って、世の中で起きていることや、その歴史的背景などを、伝えていきたいですね。

エンターテイメントには、その”器”を使って、今はもう生きていない魂の言葉や、誰かが伝えられなかったことを、代弁する役割があると私は思っているんです。例えば中東には表現の自由がない国がたくさんあります。その国の人たちが伝えられない言葉を、私たちは伝えられるかもしれない。

みなさんも、今日の映画のような物語を自由に見ることができて、自由に発信することもできますよね。それは決して当たり前のことではなくて、すごいことなのだということを感じて欲しいですし、私自身、これからも伝えていきたいと思っています。

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工藤)世界各地の難民キャンプも訪問したりしていらっしゃいますが、日本からできる支援はどのようなものだと思いますか?

サヘル)一番大事な支援というのは、お金でも物資でもなくて、まずは知ること、心を寄せること、逆にいえば、「忘れないこと」だと思います。

もし今回の作品でアフガニスタンに少しでも興味をもったとしたら、他にもいろんな本や作品があるので、そうしたものに触れて、大変なところも素晴らしいところや美しいところも、双方ちゃんと抱きしめてもらえるとよいのではないかと思います。

もうひとつ、支援をするときに私が気をつけているのは、「永遠の支援」をしないことです。その国の人たちが支援されることに慣れてしまうと、自分で動かなくなってしまうからです。

例えば私は、ヨルダンの難民キャンプで教育の場を子どもたちに届ける支援をしているのですが、それは、教育があれば、洗脳をされたり間違った方向にいってしまったりしないと、信じているからです。そして、知識があれば、その子たちが大人になってキャンプを出たときにも、自分の足で立って生きられるようになるはずですから…。

みなさんもぜひ、自分で旅をしたり、自分で調べたり、自分で知ろうとして欲しいです。知らないことは恥ずかしいことではなく、知ろうとしないことが恥ずかしいことだと思います。

日本でも世界でも、他の誰かに気持ちを寄せること、愛をもって接することを、忘れずに過ごしていただけたらうれしいです。

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サヘル・ローズさん、たくさんの素敵なメッセージを、ありがとうございました!


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