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医療とランドセルで女性をエンパワーする 〜ジョイセフ・甲斐さん&UMCA・ババカルキルさん〜

 映画『ブレッドウィナー』では、「世界中のパヴァーナのために」と題し、映画だけでは伝えきれない、今のアフガニスタンの人たち、世界中のパヴァーナのような女の子たち/こどもたち/女性たちのことも、このnoteでお伝えしていきます。

今回は、日本の国際協力NGO・ジョイセフ(JOICFP)の甲斐和歌子さんと、ジョイセフさんがプロジェクトを共同実施している、アフガニスタンの現地団体「アフガン医療連合センター」(United Medical Center for Afghans。以下UMCA)のアブドゥル・ワリ・ババカルキルさんにお話を伺いました!

 ジョイセフさんは、1968年に日本で創立され、以来、公衆衛生、予防医学、家族計画、母子保健などの普及に、国内外で注力してきているNGOです。現在はアジアやアフリカを中心とした10数カ国で、現地の団体と連携しながら活動をしています。その一つがアフガニスタンです。アフガニスタンでは、UMCAとともに、2002年から15年以上にわたって活動を継続しています。現在実施しているプロジェクトは、「母子保健事業」と「思い出のランドセルギフト」の大きく2つ。UMCAのババカルキルさんもちょうど来日中だったため、お二人にお話を聞いてきました。

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はじめに、UMCAについて、簡単に紹介していただけますか?

 ババカルキル)UMCAは1987年に私の父が立ち上げた団体です。当時はソ連に侵攻されていた時代ですね。父は医者をしていたのですが、アフガニスタンからパキスタンに逃れた難民の人たちを助けるためにUMCAを立ち上げました。医療と教育の面でのサポートをおこない、特に女性と子どもたちをターゲットにしています。

 立ち上げた当初は、難民キャンプの人たちへの医療提供に加え、高校を卒業した子たちがアシスタントドクターになれるよう1年間のトレーニングを提供したり、公的資格はないものの出産の手助けができる「産婆」のような人を1000人以上、育成したりしました。

 1992年に拠点をパキスタンからアフガニスタンに移して以降、アフガニスタンの複数の地域で、海外の様々な団体とコラボレーションをしながら、プロジェクトを展開しています。ジョイセフとは2002年から一緒に働いています。

現在実施している「母子保健事業」とは、具体的にどんなことをおこなっているのですか?

 ババカルキル)女性と子どもたちを対象に、医療を無料で提供するクリニックを運営しています。そしてクリニックに来た女性たちに対して、公衆衛生、たとえば、トイレの後や食事の前に石鹸を使って手を洗いましょう、と教えたり、簡単に作れる栄養価の高い料理を教えたり、あるいは、「リプロダクティブ・ヘルス」といわれるのですが、妊娠・出産・避妊などについて、女性自身が決定できるものなのだと伝えて、女性たちをエンパワーするようなことをしています。

 公衆衛生やリプロダクティブ・ヘルスのメッセージを載せたカレンダーも作って、配付しています。文字を読めない人も少なくないので、イラストで簡単に理解できるようにしています。クリニックの壁にかけていると「これは何?」と興味をもってもらいやすく、効果的です。

 私たちのクリニックでは、薬も医療も無料で提供していますが、治療できる範囲には限界があります。高価な医療や薬が必要な状況になってしまうより前の「予防」、そのための教育に、私たちは注力しています。

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 甲斐)当初は「母子保健」の名前のとおり、お母さんになった女性と、その子どもたちを対象に、クリニックを運営していたのですが、やっていくなかで、例えば、女性は医師であっても男性に肌を見せるのに抵抗があったり、男性同伴でないと外出が難しいなどの問題が見えてきて、女性スタッフ、特に女性医師の必要性を感じるようになりました。

 また、母親になった人だけを対象にするのではなく、それ以前の若いうちから、自分の身を自分で守れるような知識を身につけてもらうこと、そのためにも読み書きをはじめとした勉強ができることが大切だという思いも湧いてきて、学校との連携や、クリニックでの待ち時間を利用した教育なども行ないはじめました。

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 ババカルキル)女の子たちが学校を休む理由の一つに、生理のことをちゃんと理解できていなかったり、相談ができないという問題があります。そこで、学校の女性教師が、欠席している女の子たちに欠席の理由を尋ね、もしも生理であれば、「こういうことは自然なことだよ。心配しなくていいよ」と不安を取り除くサポートをしてもらうようにもしています。

 女の子たちは学校に行く権利がありますが、それでも行かなくなってしまう理由のひとつが、女性教師の不足です。私たちの民族では、思春期以降、男女が同じ場所で座ることは基本的にしないため、男性教師しかいないと、女の子たちは教室に通えなくなってしまいます。もう一つの理由は、地域によっては高校がなく、離れた高校に通わせられるだけの経済力が親にないことがあります。

 私たちは教育そのものを提供することはできませんが、勉強したい子どもたちに、できるかぎりの「機会」を提供しています。例えば、ある女子学生が、高校に行きたいので病院のオフィスに下宿をさせて欲しいと言ってきたことがあります。その子に、下宿場所と、3食食事も提供してあげましたが、その代わりに、しっかり勉強するように伝えました。その結果、彼女は毎日夜まで頑張って勉強して、高校に無事に進学し、来年には無事卒業できる見込みです。

 機会がなければ、子どもたちが自分で変化のきっかけをつくるのは困難です。でも機会を与えて、その機会を大切にするように伝えたら、子どもたちは自分で変化を生み出すことができると、私は考えています。

女の子たちや女性たちが「機会」を得られることも増えてきていると思いますが、女性の医師も増えてきているのでしょうか?

 ババカルキル)少しずつ増えてきてはいます。ただ、都市部で教育を受けて、そのまま都市部に留まることが多いんです。政府が助産師育成の2年間のプログラムを提供したりもしていますが、それを受けた女性たちも、地元に帰らない人が多いですね。

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もう一つのランドセルのプロジェクトについても教えていただけますか?

 甲斐)学校との連携を考え始めていた時に、ランドセルの革のメーカーさんから、「使われなくなったランドセルを、うまく活用する方法はないか」と問い合わせがあったのがきっかけです。日本全国から役割を終えたランドセルを集めて、毎年アフガニスタンの子どもたちに送っています。2004年に開始し、これまで15年間で約21万個のランドセルを届けました。

 当初は”物を送る”だけのプロジェクトだったのですが、やっているうちに、実は私たちが想像していたよりもずっと、可能性が大きいんだと、気づかされたんです。アフガニスタンの子どもたちは、内戦のなかで暮らしていたり、親も亡くしていたり、家が貧しくて手伝わなければならず、学校に通い続けられなかったり…、様々な困難を抱えています。

 そういう子どもたちのもとに、ある日、日本の“友達”からプレゼントが届く。その瞬間は、私たちが想像しているよりもものすごく大きいインパクトがあるんです。誰かが自分のことを見ていてくれるんだ。しかもそれが、軍事的なものでも政治的なものでもなくて、遠くの友達が自分のことを考えて贈ってくれたものなんだって…。その瞬間、いろんな問題が詰まった自分の世界からふっと意識が離れて、遠い日本という国に、想像の翼を広げられるんです。「いつか日本に行きたい」と手紙を書いてくれる子どもたちもいます。

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 甲斐)一方、日本の側でも、ランドセルを送った子どもたちは、「もらった子はどうしているだろう?」って考えるんですよね。アフガニスタンの事件などのニュースを目にしても、普通だったら、「怖いな」と思って終わってしまうかもしれませんが、「私のランドセルをもらった子は大丈夫かな?」と考えるきっかけになる。直接会ってはいないですが、子どもたちの心の交流が生まれるプロジェクトになっているという手ごたえがすごくあります。

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 ババカルキル)すでに15年続いているプロジェクトなので、ランドセルを受け取った子どもたちの中から、クリニックで栄養士になっている子や、医師を目指して大学に進学した子なども出てきています。

 また、今年、ランドセルを初期に配付していた村がISに占拠され、学校が拠点になってしまったのですが、村の人たちが頑張ってISを追い出した後に、最初に行われたセレモニーが、学校の再開のセレモニーだったんです。村の人たちにとって、学校が大切な場所になっているのは、「学校へ行こう!」というメッセージを、このプロジェクトで伝え続けてきたことの、一つの成果なのではないかと感じています。

1 紛争の傷跡

ジョイセフさんも、UMCAさんも、女性たちのサポートを大切にしていますが、女性たちにはどんな力があると思いますか?

 ババカルキル)母親が家族に与える影響は大きいと考えています。母親の行動が変われば、家族の行動が変わる。母親が健康について学べば、子どもも健康になる。特にアフガニスタンは大家族なので、女性が変わることによって、社会が変わると思います。

 甲斐)経済学者の方々の発表でも、女性に投資をしていくと、コミュニティが改善され、結果的に経済的にも大きなメリットがあると言われています。私たちは健康という分野で活動をしていますが、アフガニスタンのように、女性が家庭で果たす役割が大きい地域では、家族の健康、子どもの健康を実現するうえで、女性は鍵になると思います。

日本からアフガニスタンを応援することの意味は、どのような点にあると思いますか?

 甲斐)アフガニスタンの方って、もともと真面目で実直な方が多くて、おそらく、ソ連の侵攻やアメリカの攻撃など、外からの様々な影響がなければ、とても潤った魅力ある場所だっただろうと思いますし、教養のある方々がとても多い場所なのではないかと感じています。昨今も、とても厳しい状況にはありますが、それでも負けずに、希望の光を灯し続けている人たち、自分たちの国をよくしようとしている人たちがたくさんいるので、その人たちが活動しやすいように、後方支援のような形で、応援をしつづけていきたいと思っています。

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最後に、映画『ブレッドウィナー』の感想と応援メッセージをいただけますか?

 甲斐)私はアフガニスタンが好きです。古代からの歴史、美しい自然、様々な文化や民族が融合したシルクロードの中継地点、おもてなしの文化、おいしい果物、まじめで優しく献身的な人々… 本当はそういう側面を見て欲しいという思いもあります。でも、この映画が描く辛く悲しいアフガニスタンの状況もまた事実であり、20年後の今も多くの地域で争いで命を落とす人々、虐げられる女性たちもいます。ただ、この映画が投影するのは、きっと私たち自身の姿かも知れません。

 映画の中に出てくる登場人物たちは、それぞれ人間味にあふれ、悪いタリバン、良いタリバン、優しい人々、自分を守るだけで精一杯の人々、など、どの国でも場所でも存在しうる、あらゆる人々を描いています。主人公の家族を貶める悪役でさえも、最後におびえる少年の表情を見せます。この映画は争いや差別は、人間の弱さとプライドを合わせ持つ普通の人々の中で起き、その中で、脆弱である子どもや女性が犠牲になっていることを教えてくれます。世界中にいる選択肢のない女の子たち、女性たち、子どもたち、男性たち、そのすべての人々がいつか自分で自分の人生を選択できるように、世界中の人々にこの映画を観て欲しいと思います。

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☆「母子保健事業」の詳細&ご支援は https://www.joicfp.or.jp/jpn/project-search/afg1/
☆「思い出のランドセルギフト」プロジェクトの詳細&送り先は https://www.joicfp.or.jp/jpn/donate/support/omoide_ransel/

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