25年間の音楽史 ≪Part.4≫2020年代編 その①
■2020年代編 その⓵
2020年代はコロナ禍という惨事で幕を開けます。
世界的なパンデミックによる制限や社会的変化により人々は隔離・分断され、それまで普通だったことがあっという間に普通ではなくなるという、不安や孤独を抱えた時を過ごすこととなります。
その影響もあってかコロナ禍以前の過去や安らぎを求めて、よりリラックスした音楽やヒーリングミュージックが注目されるようになりました。
2020年にリリースされたDua Lipaのアルバム『Future Nostalgia』や、The Weekndの『After Hours』(2021年)、『Dawn FM』(2022年)といったアルバムでは、2010年代頃からアンダーグラウンドシーンで注目されていた"シンセ・ウェーヴ”という、80年代のサウンドトラックや映画音楽からインスピレーションを受けた音楽の影響が強く、懐かしいヴィンテージ感のあるサウンドと、メロディックなシンセパッド(※1)を用いた楽曲で構成され、世界的ヒットとなりました。
※1・・・持続性で柔らかくて強く主張せず、各音域をまとめたり、背景や雰囲気を出すのに用いられるシンセサイザーの音色。
そして、それらは“レトロ・フューチャー”と呼ばれ、その後のポップ・ミュージックに大きな影響を与えます。
例えば、The Kid Laroi feat.Justin Bieberの『Stay』やAva Maxの『Million Dollar Baby』などが、レトロ・フューチャーの影響を色濃く受けた楽曲と言えるでしょう。
また、コロナ禍で人々の中に孤独や不安が生まれたり、社会的格差、アジアン・ヘイトやBlack Lives Matterに見られるレイシズムへの意識や関心が高まりました。
元来、社会的な問題や自己表現を主題とした音楽ジャンルであったヒップホップは、一種のジャーナリズムのごとくコロナ禍を題材としたり、社会的な不平等や人種差別といった問題を扱い世界の共感を得たことで、2010年代に享楽的なEDMやハウスに奪われた地位を再び取り戻すこととなります。
しかし、それは最盛期2000年代のようなマスキュリンな楽曲というよりも、むしろヒーリング的要素を含んだ甘美な楽曲が、比較的好まれる傾向にありました。
続いては2020年代編その②。社会問題への関心がもたらした音楽への影響とは?