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世界の言語

昨日、地下鉄に乗っていたら大きなスーツケースを持ったアジア系の女性が隣に座った。ひと呼吸してから、日本語で「ちょっとすみません。」と言って携帯のGマップ(表示は中国語)を見せながら、今度は英語でこの電車はこの駅に行くので合ってますか?と聞いてきた。

表示G マップの中国語漢字が旧漢字でよく分からなかったので、私のG マップを見せて日本語漢字で駅名を見せ「ここ?合ってますよ。あと4駅です。」と英語でお伝えするとホッとされて「ありがとうございます。」とまた日本語で言われた。きっと間違えて反対行きに乗っちゃったのだろう。

中国語と言っても、大きく分けて広東語カントニーズCantoneseと北京語マンダリンMandarineの2種類があるので要注意だ。ちなみにアメリカのアジア系スーパーで見かける小ぶりなミカンは「マンダリンオレンジ」と表示されている。

メインランド中国本土からの人はもちろんマンダリン(北京語)。台湾・シンガポールの公用語でもある。香港・マカオ・シンガポールはイギリス領だったからわりと英語が通じるカントニーズ。香港映画は広東語だ。

私たち家族が渡米した20年以上前は、アジア人=チャイニーズの固定概念が根強く"Are you Chinese?"としょっちゅう聞かれた。当時はアニメもゲームもスマホもオタクもいなかったからアメリカにおいて日本人は超マイナーな民族だった。日本=スシ・サムライ・フジヤマ・トヨタ程度の認識だった。

「あなた中国人?」と聞かれるたびに「(またか、、、。)違うよ〜、日本人だよ〜、言動や着ているいるもので分かるでしょ?」とうんざりしていた。かく言う私もユダヤ人とエジプト人、トルコ人の違いが全く分かっていなかった。中華系のママに「あなた中国人?」と聞いたら「違うよ〜、タイワニーズだよ〜。タイワニーズは日本人が大好きなんだよ〜。」と言われた。

ある日のお昼前、子どもの学校に行く用事があってアパートを出た時、近所の中華系のおばあちゃん(多分メインランド出身)が手に袋を持って追いかけてきた。中国語でワーワーまくしたてる。多分、お孫さんのお弁当をついでに学校オフィスに届けて欲しいんだろうな、と思い『貴方希望、私持参孫弁当学校事務所?』とメモったら「シェ〜シェ〜、シェ〜シェ〜!」と本当に嬉しそうにお弁当を渡された。高校の時、ちゃんと漢文の授業を受けてて良かった、と思った瞬間だった。

漢文の構文は英語のグラマーそのものだ。おばあちゃんはともかく、世界に飛び出す高学歴な中華人達は英語を公用語として使いこなす。彼(女)らにとって英語はお金儲けの為の必須武器なのだ。

アダルトスクールのESLに通っていた時、ヨーロッパ人は苦もなく英語を話せて読めた。落ち込んでいると、あるフランス人の生徒さんがヨーロッパの言語はラテン語から派生しているから似ている、英語はいとこのような言語だから理解しやすいのだと教えてくれた。イギリス・フランスの植民地だった東南アジア・アフリカ諸国、スペイン・ポルトガルの植民地だった中南米。なるほどな、と思った。

嬉しかったのは、近所のラティーノのガーデナーさんと話していた時。「私、英語下手だから。」と言ったら「そうか?オレはあんたの英語、超分かりやすいぜ。母音がスパニッシュと似ているんだろうなあ。」と言ってくれた。「ヘロー」と言うよりも「ハロー」と言った方が彼らには耳心地が良いそうだ。以来、ラティーノさんと話す時はわざと日本語英語っぽく話している。これで全然OK。

デイケア(保育園)で働いていた時、分かったのがフランス人パパ達のフランス語へのこだわり。絶対に妥協しない。ママが日本人(日本語)、居住はアメリカ(学校・幼稚園)、普通なら一番弱くなるはずのフランス語でいつも話しかけ、毎晩読み聞かせを欠かさない。日本語は風前の灯です、とママが嘆いていた。

ユダヤ人もその伝統・宗教・言語(ヘブル語)をとても大切にしている。時々「クシュッ」と空気を含めて潰したような音が入るので難しい。意味が理解できないので、言語というより音・旋律のように聞こえてくるから不思議だ。ユダヤ人も中華人同様、世界に散らばるビジネスパーソン・高学歴な人達なので公用語としての英語は当たり前。学者さんも多いので5〜8ヶ国語も珍しくない。凄いなあ。

さて、20年以上が経ち日本語教師は今年から国家資格となった。日本=アニメ・ラーメン・温泉となり、美味しい食文化、美しい自然、歴史ある文化、安全に旅行できるクリーンな国ニッポン。最近は中東・アジアからの観光客もすっかり定番になった。しょーもないただの看板を翻訳アプリで撮影し表示の意味を知る。駅の切符の買い方、SuicaやICOCAの使い方は誰かがYouTubeにアップしてくれている。アメリカのZ世代はアニメで日本語を覚え、K-POP で韓国語を覚えるのがトレンドだ。今やトリリンガル(3カ国語を使いこなす人)は珍しくも何ともない。

ひとたび世界に出たとき、ネイティブ日本語発音ができることは、驚く程武器になりプライドを持っていい事なのだ。子ども達がまだ小学生だった頃に日本食レストランに行って家族で普通に日本語で話していたらサーバー(ウェイトレス)のおばちゃんが「本当に綺麗な日本語話すのね〜、偉いわ〜、凄いわあ〜。」と褒めて下さった。当時は「何で?日本から来たばかりだから当たり前じゃん。」と思っていたけど、今ならおばちゃんの感動の深さがよく分かる。

英語が上手くない事よりも、日本人として綺麗ではっきりした日本語が堂々と人前で話せる態度、自信を持って日本の伝統や文化、歴史、習慣を紹介できる知識の方がずっとずっと大切だな、と日本に帰って来て思う。



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