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7 不思議の島のわたし(バリ島 ウブド)

 霊感の類いが全くない。大いなるもの、とか、たましい、みたいな何かの存在は信じるし、そういうのが見える人もいるだろうと思う。でも、わたしには見えないし、まあ、見たくない。が、見えてしまったのだった。バリ島で。怖かった。

 「神々の島」と呼ばれていたようないなかったような、何度目かの長旅の帰り、バリ島に寄った。内陸のウブドが静かで良いと聞いていたので、空港からタクシーで直行し、ガムランとバリ舞踊に魅せられ、SEMARA RATIH という舞踊団の追っかけとなった。そしてその後数年間、毎年、最後にウブドに寄るのが旅の楽しみになった。
 当時、ガルーダ・インドネシア航空が、【バンコク→デンパサール(60日)→関空】という片道オープンチケットをタイで販売していたので、旅の最後にバンコクでそれを買い、バリ島で30日過ごしてから帰国していた。(60日オープンだけどビザ無しで滞在できるのは30日までだったから、60日滞在したい場合は一旦シンガポール辺りに出て、再入国しないといけない。それはちょいめんどくさい。)

 前置きが長過ぎた。
 そんなわけで、ウブド。
 滞在の目的は、夜な夜な寺院や宮殿で催される演舞鑑賞なので、昼間はすることがない。で、やたらと歩く。メインストリートを過ぎて、町外れ、田んぼの畦道や丘の尾根なんかも歩く。
 と、だんだん不安になってくる。ひと気のない景色、青すぎる空、静かすぎる風。ふっと自分が消えそうな錯覚に襲われる。ぞわぞわ怖くなって急いで町に戻る。あのまま歩きつづけたら神隠しにあうのだと思う。

 ある夜。
 寺院でのバリ舞踊鑑賞から宿に帰ってくると、庭で猫が激しく鳴いていた。何かに向かって威嚇するように立ち、力を込めて鳴いている。な、何。ヒトには見えないけど、猫には見えているんじゃないか。

 別の夜。
 夜中にふと目が覚めると、ベッドの足元にカウボーイ・ハットをかぶった男が立っていた。!!!!!!
 こわいっ 叫びたいっ でも、声が出ないっ ああこれが、これが金縛りというやつか。生まれて初めての金縛りだ。ほんとに体が全然動かせない。男がだんだん近づいてくる。
 うはああああ・・・ようやく唸り声が出せた途端、男は消えた。この世にこんな怖いことがあるなんて・・・。

 また別の夜。
 部屋で日記か手紙かを書いていたら、視界の端を黒いものが2、3走った。ネズミだろうか。キュキュッと音(声?)を出しながら走り、壁際で消えた。
 壁の向こうのバス・ルーム(インドネシア式マンディ浴槽とトイレ)に逃げ込んだのかと思ったら、壁と床には隙間がなかった。黒いものは本当に消えたのだった。

 また別のある日。
 その旅では日本を出る前に友達からお守りをもらっていた。ハワイのカミサマ、木彫りのニキ。キーホルダーになっていたので、ショルダーバッグに下げて携帯していた。
 ある日インターネット・カフェでメールを打っていたら、ちょっとした地震があった。これ以上大きいのが来ませんようにとニキを触ったら、なぜか濡れている。揺れで何か液体がこぼれたわけでもないのに、ただしっとり濡れていた。地震はその1回きりで、ニキはいつのまにか乾き、もう濡れることはなかった。

 ウブドで見る夢の色はいつもすごく鮮やかだ。ある夜の夢では、海に真っ白な太陽が沈んでいった。あの眩しさを今でも覚えている。

 ほんとうに不思議な土地だった。目に見えないモノが、うにゃうにゃふわふわ「いる」感じが、滞在すればするほど感じられるようになる。 
 
 今でもそうなのだろうか。ウブドもずいぶんツーリスティックになったと聞くけれど。
 見えないモノたちが幸せに居続けていることを祈りたい(怖い思いもさせられたけどね)。



 


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