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『トップガン:マーヴェリック』

粗筋 アメリカ最高のパイロットに与えられる称号、トップガン。ピート”マーヴェリック”は赫々たる武勲を挙げながらも、昇進せず大佐として飛び続けていた。
 彼に辞令が下りた。某軍事国家で、核施設が稼働しようとしている。就いては歴代のトップガンでチームを組み、破壊任務を3週間後に開始したい。君はその教官になってくれ、と…。


 これぞ王道!M中です。

 ここ10年、80’リバイバル映画が流行りだ。スピルバーグやスティーヴンキングの要素を盛り込んだ、ジュブナイルもの。当時のポップアイコンだった作品の、リメイクや続編。ライトマン親子の『ゴーストバスターズ:アフターライフ』も記憶に新しい。
 今作『トップガン:マーヴェリック』も、オリジナルへのリスペクトに溢れている。往年のキャラクターを本人らが続投、バーには未だにジュークボックスがあり、若者は海岸でビーチスポーツをする。夕焼け空をバックに戦闘機が発艦し、OP曲は当然”Danger Zone”…。

 では、ただの老害懐古映画なのか?私はそう思いません。オリジナルを観なくても楽しめるし、ぶっちゃけ原典より面白い映画です。何故なら、エンタメの王道路線を走っているから。
 以後、「TG:M=西部劇」観に則って、面白さを述べていきます。西部劇自体が懐古?それもそうだけさ…。

ロートルの最終任務

 西部劇の定型として「老練な主人公が、若造に現実的でタフな生き方を教える」という構造がある。退役間近の指揮官、無法に立ち向かう元保安官…。特に、西部劇の神様ジョン・フォードが得意とした設定だ。
 TGのマーヴェリックは才気渙発な若者だったが、TG:Mでは初老に差し掛かっている。将官の椅子に収まるを良しとせず無茶を続けたため、遂には退役を迫られる。その最終任務として、彼はトップガン教官の任に就くのです。

 また、後期の西部劇となると、過ぎ去るものへの哀惜も強くなります。それは黄金期俳優の相次ぐ死去・引退や、西部劇そのものの衰退を反映していました。
 TG:Mでは、しつこいほど最新鋭VSロートルの図式が提示されます。英雄が空を駆ける(冷戦)時代は過ぎ去り、無人化でパイロット自体が不要となりつつある。敵軍は第五世代の最新戦闘機を駆る一方、米軍側は(潜入ミッションのため)旧式のF-18で出なければいけない。

 しかし、ロートルは敗残するだけではない。TG:Mのラストではローテクの逆襲が始まります。任務本番で撃墜されたマーヴェリックは、とある奇手に打って出る。そこで現れるのがF-18より古いあの、あの!(オタク特有の大声)F-14なんすよ!
 
しかも、ラストバトルにきっちりロジックが付いている。相手側の計器を攪乱してハイテクを逆手に取りつつ、こちら側は前席のマーヴェリックが操縦・後席が目視と計器操作で分担し生き延びる。バディものとしても、ロートルものとしても最高のラストバトルです。

反発する若造、トラウマを抱える老人

 西部劇の若造は、主人公に反発します。若くて有能、立場も老主人公より上のこともある。しかし血気早かったり、或いは西部の現実を知らぬ理想主義者だったり。始めは侮りながらも、やがては主人公の合理性・侠気に感化され西部魂を継承するに至る。

 一方の主人公も、鬱屈を抱えている。彼はトラウマを負うがゆえに、若造/ヒロインと素直に付き合えないのです。愛する者の死、過去の悪行…引け目を持つがゆえにオジンのツンデレを発揮する。ラストでそのトラウマが解消されるから、たとえ死を迎える/定住の地を去ることになっても彼の魂は救済されるのです。

 今作、その両者を”グース”ブラッドショーで繋いだのは上手いですね。グースは若造”ルースター”の父であり、マーヴェリックのかつてのバディでもある。グースはマーヴェリックとの演習で事故死したため、マーヴェリックとルースターは再会した瞬間からギクシャクしている。
 これが良いのは、若造が成長し老主人公もまた救済されるだけではない。ルースターの好感度を下げない機能もある。彼が反発するのは、若さゆえの愚かさではなくちゃんとした理由になっている。ゆえに、ヤなクソガキ感を出さずにドラマに出来ている。 

身をもって教える

 西部劇の主人公は、タフで現実的な生き方を次代へ教え込む。口先だけの町民、政治家、牧場主と違い、銃と拳とおのれの血でそれを果たします。
 マーヴェリックも、教官として最前線で教育を施します。低空飛行に始まり、S字飛行と瞬間判断の訓練、10Gに耐える訓練、2段式の爆撃…。F-18の理論値を超えた「奇跡の任務」だからこそ、全員生還を叶えられる。
 彼は逆境に遭っても、寧ろチャンスに変える強さがあります。デッドラインが繰り上がり、練度不足のチームでは無理だと上層部が「確実だが犠牲者の出るプラン」を下す。ところがマーヴェリックは単独で飛び立ち、演習フライトを一人で完璧にこなしてみせる。結果、「ウルトラ難度だが全員生還」作戦は続行され、更にはマーヴェリックは連隊長として共に飛び立つことになる…。 

 一連のアクションが、訓練風景→マーヴェリックの単独ラン→作戦本番と、3度に渡り反復と変化する辺りも最高ですね。1度目は作戦のロジカル性、2度目はマーヴェリックの男気が、3度目では隊員ごとの成長が描かれる。こういうのが質の高いアクション映画ってもんですよ。

たったひとつの欠点

 大絶賛してきましたが、看過出来ない問題がただ一点あります。トムがさぁ…若作りなんだよ。 

 TGは、86年の映画です。80年代アクション俳優で言えば、シュワ&スタローンは筋肉が萎んでジジイ役をやるようになって久しいし、ブルース・ウィリスに至っては引退するご時世。
 トムでさえ、もうアラ還ですよ?なのに未だに夜這いに行って窓から退散するキャラってさあ…。顔つきも大学生みたいで渋さがねえし。

『トロピックサンダー』のトムこそ至高

『M:IP』とか、アクションバリバリの映画ならそれもアリです。でも上述してきた通り、次代に魂を継承する映画なんすよ。老いや衰えが一片たりともないと、ちょっと重みが足りないかな…。


 難癖が最後に交じりましたが、本当に出来のいいエンタメです。最高にアガる見せ場が3つあり、アクションは戦闘機に実際に乗せて吐くまでやらせる本物主義。トニースコットやヴァルキルマーに敬意を払いながらも、新たな物語に仕上がっている。
 巷に蔓延るノスタルジー映画では断じてない。ぜひ劇場で(それもIMAXで)観ましょ。



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