砂尾零他

小説書いてます。よろしくお願いします。 「まつとはなしに」第50回群像新人賞一次選考通…

砂尾零他

小説書いてます。よろしくお願いします。 「まつとはなしに」第50回群像新人賞一次選考通過 「家族弾乱図」第37回太宰治賞一次選考通過 「地図にない町」第39回太宰治賞二次選考通過 「月海月」第40回太宰治賞一次選考通過(公開予定)

最近の記事

地図にない町

武見が迎えに来ているという話でしたが、それらしい姿は見当たりませんでした。空はどんよりと曇っていて、二両編成のディーゼル車はがらがらという騒々しいエンジン音を響かせてホームに停車していました。 駅前は閑散としていました。ロータリーを囲むように商店や事務所が並んでいましたが人影はほとんどなく、タクシーが一台停まっているだけです。この町の中心部が駅から車で十五分ほどの距離にあることは知っていました。私の新しい仕事場も住処も、そこにあるのです。私は病を得て半年間の休職後、復職する

    • まつとはなしに

      天井がきらきらと光りながら波打っているのは、どこかに水溜りがあって、昼過ぎの強い日差しが反射しているからだろう。隣家のガレージの隅に積み重ねられた段ボール箱には青い防水シートが被さっていて、そのてっぺんの窪みに昨日の雨水が溜まっているのに違いない。緑色のワンボックスカーはたいてい夜まで帰らないから、色褪せ、砂埃をたっぷり被った青い防水シートは通りから丸見えで、いい気分はしない。そういえば帰り際に見た電柱の根元には、二日後の回収を先取りしたゴミ袋が一つか二つ、生意気ざかりの少年

      • 美山さんのまずいコーヒー

         桐山みつ子は七時五十分に職場についた。いつもより十分以上早い。照明は始業時間になるまでつけることはできないから、職場は薄暗かった。気を付けて歩かないと、誰かが足元に置きっぱなしにした商品サンプルやごみ箱を蹴飛ばしそうになる。慎重に歩いて窓際に近い自席に辿り着くと、カバンを置いてほっと一息ついた。通りを挟んだ向かいのビルの窓にも、人影が見えた。あちらはしっかり、明かりがついていた。  四日ぶりの出勤だった。鼠色のスチール机には休みのあいだ自分あてに残された薄黄色のメモ付箋がい

        • 【30枚小説】ザッツオールライト、ママ

           玄関のベルがピンポン鳴った。鳴るまえからなんだか外がざわざわしている気がしていた。台所の窓は開けたままだ。いるんじゃないですか、そう言っていた気がする。もういちど、ピンポン鳴った、私は、はあ、と答えた。だいぶ掠れていた。そういえば昨日から誰とも話していない。声の出し方もいっしゅんわからなくなった気がした。 「小野寺さん、」男の声がした。キツネみたいな声だった。キツネ?キツネの声なんて聞いたことがない。要するに、男にしては高くて、ちょっと鼻にかかっているということだ。アニメに

        地図にない町

          家族弾乱図

          私は日の当たらない部屋のベッドで横になり、隣の雑居ビルから聞こえるエアーコンディショナーの室外機の唸りを聞いていた。ずいぶん古い機械のようで、唸りのなかにときどき、ぶうんぶうんという大きな音が混じる。ファンを固定するねじが緩んでいるのではないだろうか。管理人を通じて苦情を言うべきだろうか。ベッドは比較的快適だった。一人暮らしを始めた大学生が使うような安物のスチールベッドで、寝返りを打つたびにギシギシ鳴るのには閉口したが、マットレスのスプリングは程よい固さで長く横になっていても

          家族弾乱図