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突然だけど、諸君は東京スカイツリーに登ったことはあるだろうか?

突然だけど、諸君は東京スカイツリーに登ったことはあるだろうか? もちろんそのまま登るという話をしているわけではない。 展望台まで行ったことはあるか? ということである。 僕はある。それも野郎2人で仲良く夜景を眺めてきた次第である。 まだ昼ならいいだろう。外国人観光客達の止まない会話劇や半ば無理に連れられた子供が急に退屈になってパパの裾を掴みながら喚いていて、国際演劇場か何かと勘違いできる。 しかし、これが夜になるとどうだ。昼にあれだけいた外国人は宴のためにアメ横に出向き、子

    • 冒険と電車

       電車に乗っていると不安になる。このまま二度と帰れないところまで連れ去られてしまうような気持ちになる。  だから、帰りの電車に乗って最寄駅につくといつも無性に安心していた。今日も無事に帰ることができた、と思う。  裏路地にある居酒屋でサークルの飲み会をしたとき、僕は一人先に帰路についた。  翌日中に仕上げなければならない課題の用事があったから早く切り上げたのだが、僕は無性に不安になった。  背中に、ねぇと声をかけられた。後ろを振り向くと女が立っていた。さっき僕の斜め前に座っ

      • 小説

          彼女には、昔死んだ友人の面影があった。   これが似ている、と指摘することはできなかったが顔のパーツや話し方や日常の機微が本当にどことなく少しずつ友人と似ていて、その部分だけ集めて誰かを構成するのならば間違いなく友人が浮かび上がってくると断言できるほどには、彼女と友人は似ていた。  彼女を見ていると、気付けばいつも友人を想っていた。いいやつだった。 「ねぇ、どこ見てるの?」 「なに?」 「なに、じゃないよ。まるで集中できてない」  時々、彼女は行為のときにそう言った。それ

        • 日記 

          日記 夢  取り留めもない夢を見る。なんだかよくわからないタイミングで急に目が覚めて起き上がり、トイレに行っておしっこを終えるともう内容を忘れている。今、なんの夢を見ていたのか、唯一頼りだった断片的な部分のいろいろが徐々に薄くなってゆきもう思い出せなくなっている。そしていつも何か大事なものを忘れていくような気がする。  たまに泣いていることがある。起きた瞬間に頬が冷たくて泣いていたことに気づく。ショッキングな夢は、頭の中にぼやぼやと残存として揺らいでいる。そういう夢はイ

        突然だけど、諸君は東京スカイツリーに登ったことはあるだろうか?

          小説

          「人はあり得ないことに遭遇すると、目の前の現実が信じられなくなって混乱するという。かくいう僕もそうだった」  そのところまで読んで本を閉じた。100均で買ったシンプルな正方形な時計の長針はもうすぐ2時を指そうとしている。  机に備え付けたスタンドライトまで腕を伸ばす。絶妙に手が届くか届かないか中途半端な位置にあったせいで腕をグッと伸ばすと筋肉が痛んだ。  ギリギリまで伸ばした人差し指でスイッチを「OFF」にする。  部屋は暗くなり、窓辺から差し込む月明りだけが部屋全体をぼん

          小説

           彼女が、もう別れようと言ったのは夕食を食べている最中だった。  僕はテレビのバラエティ番組を見ながら、なるほどねと応えた。言葉の変なキャッチボールだ。  彼女「別れよう」→ 僕「なるほどね」  僕は、なんとなくわかっていた。一番最初に口に運んだミネストローネスープ(彼女が作ったものだ)が、なんだか少し薄い味付けになっているのをあえて無視したが思えばこれがサインだったのだと思う。  何か大きなことを言うときは、必ず小さいところに綻びが出る。彼女がしてきた数えきれないほどの決心

          ショートショート

           2種類の人間がいる。楽しいやつと楽しくないやつがいる。    僕は、楽しいやつだった。楽観的とかテンションが高いとかそういうことではない。 つまり、物事を肯定的に見ることができる人間だった。それは、可愛い子を見たら喋ってみたいと思ったり、好きな料理を聞かれたらお寿司と応えたりすることだ。日々起こる様々なことに対して生きている楽しさをベースに考えられることだ。  中学2年生のころ、同じクラスになった彼女(名前は覚えていない。以後、佐藤とする)は違った。  佐藤は全てに、つまら

          ショートショート

          小説

           僕は映画を見る方ではなかった。しかし見ないほうでもない。それも家のすぐ近くにイオンがあってそこにイオンシネマが入っていたからだ。  だから自由なタイミングで見に行けた。友達との遊びの一つに「今日、映画見に行こう」があった。   一方、彼女は映画を見たことはほとんどなかったと言う。わけを聞けばどうやら彼女は岐阜の田舎育ちで、映画館が入るほどの大型ショッピングセンターは電車とバスを乗り継いで1時間ほどかけないと行けなかったらしい。  彼女は、大学近くの喫茶店でカフェオレが入っ

          小説

          低気圧だという。爆弾低気圧。厚く重い空が街を覆っている。  灰色の空、生ぬるい空気、鬱陶しい暖かさが肌にまとわりつくような憂鬱。天候だけで気分が左右される。  こういうときに思い出すことがある。古い記憶だ。中学生のときは良かった。  修学旅行、バスの中。京都の平等院鳳凰堂だったか、いやもしくは山中湖に行ったときだったか、そのどちらかに行ったときだと思う。あの時もこんな天気をしていた。  僕は、流れる景色を車窓から眺めていた。 車内ではレクが開かれクイズ大会が行われていた。

          小説

          4日連続の雨も止み、今日の東京は久しぶりの快晴となった。  地球温暖化やらヒートアイランド現象やらで散々暑いと騒がれた今年の8月。今朝もニュースで、どこかの小学校の児童が体育の授業中に熱中症で搬送されたとあった。  つまり、扇風機すらないこの部屋で今宵を越そうというのはそれはもはや生命に関わる問題だった。明日、目を覚ますことはないかもしれない。  せめても、網戸にしていたがずっと暑く苦しい外気が部屋に充満している。  6畳ワンルームの生活は楽ではない。人々の喧噪、すぐそばを走

          不器用

          僕は優しい。短所欄には「心配性」と書く。