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冒険ダイヤル 第13話 点と線のちょうちょ


コース見取り図

「171に電話しよう。魁人がひとりで待ってる」
受話器を取り、最新のメッセージを聴くボタンを押すと魁人からの伝言があった。
彼はちょっと戸惑っているようだった。

「もしもし魁人だけど。聞いてよ、古墳の電話ボックスから出てきた知らない外国人のおっさんにいきなりハグされてさ。おっさん、このお掃除係の服のこと指さしてサンキューサンキューって何かの券をいっぱいくれたんだけど、英語わかんないし困っちゃった。みんなどこにいるの?」

   *

すっかり予定が遅れてしまったので、魁人に全員の無事を知らせた後はもうカードを隠すのはやめることにして七人一緒にゴールに向かった。
歩いているうちに魁人が自転車で追いついてきた。

「予定通りにはいかないもんなんだなあ」
魁人は計画が中途半端に終わってしまったので悔しそうだ。

深海は自転車の後ろに乗せてもらい、魁人の背中につかまった。
「ねえ魁人。私たち狸に遭ったよ」
「えっ?ほんと?おれは見られなかったのに!」
「あのときはお前がうるさく叫ぶから逃げられた」
「駿だって最初は怖がって叫んだじゃないか」
「怖がってない。ちょっと驚いただけだ」
 
ごちゃごちゃ言い争っている彼らの間に野田さんが「まあまあまあ」と割って入った。
「あんたたちがしっかり下調べしてくれたから安心して歩けたんだよ。始めからこうして全員で歩いてもよかったよね。伝言ダイヤルを体験できたのはおもしろかったけど、やっぱりみんな一緒のほうが楽しいよ」

最後のコースではみんなは難なくカードをみつけた。
隠し場所に近づくと魁人と駿があからさまに挙動不審になったからだ。
 
全部見つけ終わったところで魁人が「これでグアテマラが全部集まったね」と口を滑らせた。
「ばか!正解をばらしちゃだめじゃないか!」と駿が怒って、みんなはげらげら笑った。
そんなわけでこの問題は無効になった。

ゴールの小学校前の公園に着くとベンチに集まって報告しあった。
「最初に〈中国〉がわかったのは亮だったね」と野田さんは拍手した。
そう言われて亮は「うん、でもみんなもほとんど一緒に気がついたと思うな。僕だけじゃなかった」と照れた。「そこから〈スウェーデン〉がわかったのは翔太が最初だったよ」と亮。
〈インドネシア)は奈々美が、〈マダガスカル〉は野田さんが解いた。

「僕は一問もわかんなかったよ」
大輔が情けない声で言う。
「だけど大輔がおっさんに親切にしてあげたおかげで、じゃじゃーん!なんとこんな物がもらえちゃいました」
魁人は大量のドーナツサービス券を取り出した。
おおお、という声があがる。

「大輔にあげるよ」
「僕だけがやったわけじゃないし、みんなで分けようよ」
「さすが大輔。そう言ってくれると思ってた」
徳を積んだ大輔のために魁人は点数表に「大輔・三点」と書いた。

「みんなはひとり三点ずつ取ったけど遅刻したから全員マイナス一点で、ひとり二点。おれと駿はカードをみつけきれなかったから脱落。ふかみは〇点」
これでは優勝者が決められない。
「まだひとつ残ってるよ。第三コースの問題」
深海はなんとか食い下がろうとした。
「それを解けたら私が優勝だよね?」
「ほおお、自信があるのか?」魁人は意地悪な微笑みを浮かべた。
「べきずすたうん?」
「ブブー」
「じゃあ、きずべすたうん?」
「ブブー、残念」
みんなは気の毒そうに深海を見た。

しかし「まだ謎解きは終わっていない」と駿が言った。
「もうひとつボーナス問題を作ってあるんだ。これは国の名前が全部わからなくても、ちょっと頭を働かせたら答えられる。みんな地図を見て」
深海がみんなと一度分かれた幼稚園はちょうど真ん中にある。
駿が地図の端っこの余白を指さした。
「ここに図形が書いてあるの、見える?」
そこに奇妙な図形が書かれていた。
六つの点が直線で結ばれている。

「なんだかちょうちょみたい」と奈々美が言った。
じっくりと観察すると、少し歪んでいるがおおまかに五角形に見える配置で五つの点が並んでいる。
そして五角形の中心にもうひとつ点がある。

線はまず中心の点から始まって右上の点へ、それから右下の点へ、さらに左上、左下と点同士を結んで、最後に一番上の点に向かって、一個目と四個目の間を通るように交差して終わっていた。

確かに蝶ネクタイのようにふたつの三角形がつながっているかんじに見えなくもないが最後の線は中心の点をそれているし、線の端と端は離れているので完全な蝶の形ではない。

「これがヒント。今まで解いた問題の答えをこのヒントを使って並べると、ある言葉になるんだ。この図形をよく見て考えてみて。この線は真ん中の点から始まって図形の一番上の点で終わる。一筆書きなんだ」そう言って駿は図形を指でなぞってみせる。

「右下の離れてる点はなんなの?」と野田さんが尋ねた。
「これだけが線とつながってないんだけど?」
なるほど、五角形の外側右下に線で結ばれていない点が仲間はずれのようにぽつんとひとつあった。点は全部で七つというわけだ。
駿はうなずいた。
「それにも一応意味はあるんだ」
みんな首をかしげて図形を眺め回した。
「お弁当ビュッフェ権がかかってるからね」
魁人は楽しそうにみんなの悩む顔をのぞきこんでいる。
 
野田さんは今まで解いた答えをコースの順番に並べて書いた。

 

「この文字の上に同じ図形を書くとしたら中心の点がズスベキタウンの〈ベ〉あたりで、次の点がインドネシアの〈イ〉、その次がインドネシアの〈ア〉、グアテマラの〈グ〉、グアテマラの〈ラ〉、最後がスウェーデンの〈ス〉かな」

確かに図形は似ているが肝心の三問目の国名はそもそも並べ方が間違っているのだし、どの文字が中心点なのかあやふや過ぎる。
「答えはみんなが知ってる言葉なんだ。難しく考えすぎないで」
出題者のふたりはこぶしを握って正解を言わないように我慢している。もどかしくてたまらないのだろう。

「だからもっと単純なヒントにしようって言ったのに」と駿。
「もうひとつヒントを出そうか」
 出題者たちはひそひそと相談して、今度は数字を書いた。

 3・6・1・4・2・5

「この順番が大切なんだ」と駿はみんなを見回した。
「もうさっきの図形は忘れていいから。それより野田さんの書いたものをよく見て」
「忘れていいってどういうこと?じゃあこの図形はなんだったの?」
翔太は混乱してしまったのか地図の上に突っ伏してうなっている。
 
深海は文字列を見ながら考えた。
これを考えたのは魁人と駿なのだから、今度もふたりにとって意味のある言葉に違いない。
それに、なんだかこの図形の点の配置には見覚えがあるような気がする。

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