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白足袋には気をつけなはれ

前回記事<病院の「組織文化」を考える>では、組織文化は病院ポジションで規定される可能性と、中小病院の「個人文化」の注意点について書きました。今回はコラム記事で「匿名略歴書」についてです。

 白足袋には気をつけなはれ

 これは、京都で仕事を始める人が最初に聞かされる警句です。
昔、市田ひろみさんを取材した時に教えていただきました。
 白足袋とは、普段から和装で仕事をする僧侶、茶道や華道の家元、室町の旦那衆を指します。彼らから何か頼まれたら「絶対に断ってはいけない」のが、この街の鉄則なのだそうです。

 料亭の女将さんや芸妓さん、舞妓さんも白足袋を履いています。彼女たちは「街の有力者ネットワーク」につながる人達。商売でも気を使う相手で、そこに医師も含まれるそうです。「医師は白衣ですね」と混ぜ返すと「昔は和装で白足袋を履いてますやろ」と笑われた思い出があります。

 白足袋を履く医師など今はいませんが、紹介会社は医師の依頼を断りません。というより「医師の希望」だけを聞いています。「御用聞き」の側面は強いとはいえ、本来は医師のキャリアデザインが仕事のはずです。しかし「超売り手市場」なので転職先探しに困りません。また、転職の主導権は医師にあります。病院が面談を希望しても、決めるのは医師です。このため「御用聞き」しかしないエージェントが少なくありません。

 応募するかどうか決めるのは医師ですが「受入表明した病院」からしか選べません。また、病院は医師が自院に合うか面談で「答え合わせ」しますが、医師は「病院カルチャー」も知らされないまま面談に連れ出されます。転職という情報戦では、医師は「後手」に回るばかりです。

せめて「匿名略歴書」には目を通しておきましょう

 医師転職で使われる書類は、A4一枚の「匿名略歴書」です。身バレしないよう名前や住所、勤務施設名、出身大学は伏せますが、転職で叶えたい条件(希望年俸、勤務日数などの働き方)、得意な領域、取得資格などが記されます。「エントリーシート」とも言います。

 しかし、自分の「匿名略歴書」を確認された医師は多くないと思います。
「匿名略歴書」は、1時間くらいお話を伺ってエージェントが作成します。そして転職の早い時期に各病院にメールで送ります。エントリーシートを送らないと募集内容を教えない病院も多いのです。

 匿名略歴書のクオリティは、エージェントの力量によって「玉石混交」です。酷いものでは、実名履歴書の氏名、住所を黒塗りしただけの「手抜き書類」がありました。一方で求職医師は「何ができて、何がしたいのか」「どんなふうに病院に貢献できそうか」まで明確にアピールした略歴書もあります。エージェントが作った匿名略歴書は、必ず目を通して、できれば「修正」しておきましょう。

 病院は、A4一枚の書類だけで「キャリアチェック」しています。もし相場を大きく超える条件だけの略歴書なら「見送り」になります。きっと、どこの病院にも見送られたのでしょう。2~3か月後に「条件緩和」された「同じ略歴書」を受け取ることがあります。「この先生は何がしたいのか」と印象は良くありません。これは「手抜きエージェント」が時間を無駄にしたケースです。

 先生の「やりたいこと」「希望」を絶対条件にした転職は停滞します。病院側の興味を少し引ければ、追加情報のリクエストがあります。場合によっては面談可否の検討に移ります。
 面倒でも自己分析を行い「自分に何が求められる」か市場把握をしておきます。そして「病院が確保したくなる理由」を見つけるエージェントを使うべきです。

 転職は「準備8割」で、ちょうど良いくらいです。
転職活動は慎重に、しっかり準備して「先手」を打つことが必要です。書類作りの段階でも、セルフ・プロモーションを考えておくことは、立派な「転職活動」です。

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